法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

適正手続の保障

2006年3月20日


海部幸造さん(弁護士)

1、適正手続の保障

 憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」と規定している。この規定は、公権力を手続的に拘束することにより人権を保障していこうとの思想に基づくものであり、手続が法律で定められていることを要求するにとどまらず、その法律で定められた手続が適正であること、さらには実体規定も法律により適正に定められることを要求していると解されている。

2、適正手続の中核としての「告知・聴聞」を受ける権利

 「適正」の内容として特に重要とされているのが、「告知と聴聞」を受ける権利である。「告知と聴聞」とは、公権力が国民に刑罰その他の不利益を科す場合には、当事者に、あらかじめその内容を告知し、弁解と防御の機会を与えなければならないとするものであり、刑事手続における適正性の内容をなす根本的基本原則である。刑事被疑者、被告人の諸権利、例えば、裁判を受ける権利(32条)も、弁護人選任権(34条)も、この告知と弁解・防御の機会と権利を十分に与えられる為のものであり、これらの諸権利も、こうした適正手続の内実を満たしているか否か、の観点から検討されなければならない。
 しかし、適正手続の保障は、刑事手続にとどまらず、行政手続にも適用(あるいは準用)されるのであって、このことは人権保障の上で極めて重要である。

3、「指導力不足教員」に対する判定と措置に関する制度の例

 行政手続において適正手続が問題となる場面は多々あるが、一つの例として、「指導力不足教員」に対する判定と措置に関する制度を見てみよう。
 現在、東京都は都立の高校や養護学校で、卒業式・入学式等で教師全員に対して、壇上の日の丸に向かって礼をし君が代を起立・斉唱するよう、校長に職務命令を出させて強制し、起立・斉唱しない教師を懲戒処分にしている(その違憲性が現在約400名の教師が原告となって訴訟で争われている)。さらに生徒が起立斉唱しない場合、教師の指導力不足として、教師に対する措置を講ずると言明している。
 しかし、この日本の「指導力不足教員」に対する判定と措置に関する制度がまた、極めて問題のあるもので、2002年9月に、1LO・ユネスコ共同専門家委員会から、「適正手続」を欠いており、ユネスコの発した「教員の地位に関する勧告」(1966年)「の諸規定に合致するように再検討することを強く勧告する」とまで言われているものなのである。
 すなわち、日本の「指導力不足教員」に対する判定と措置に関する制度は、「申請の具体的な内容が教員本人に知らされることが保障されていない。したがって、教員は申請内容について疑義を呈し、反論する実効的な機会も保障されていない。判定委員会に出席して意見を述べる権利はなく、極めて限定的な範囲でしか、不服申し立てを行う権利が与えられていない。県教育委員会が判定委員会の委員名を明らかにしていない以上、判定の過程は開かれた透明性の高いものであるとは決して言えない。」「(指導力不足教員の)判定委員会の委員名を非公開とする理由が十分に説得的であるとは言えない。何よりこうしたやり方(非公開)は他国では見られない」「共同専門家委員会は指導力不足の判定と措置に関する制度が『勧告』の諸規定に合致するように再検討することを強く勧告する。」とされている。まさに、「指導力不足」と認定されようとする教師の「告知・聴聞を受ける権利」の保障が極めて不十分で、適正手続きを欠いているとされているのである。

4、刑事裁判における問題と司法問題研究集会へのお誘い

 話を刑事裁判の問題にもどすと、ここでも極めて深刻な問題がある。刑事訴訟法が改正され、昨年11月から施行され、さらには2009年からは裁判員制度が導入されるが、この新しい刑事裁判の手続が、適正手続の保障をないがしろにする大きな危険はらんでいるのである。すなわち、公判前整理手続の導入で被告人の証拠提出が制約を受ける、公判も集中審理で連日の開廷となり、弁護活動は困難を強いられる等の様々な問題がある。裁判所は「裁判の迅速化」を盛んに強調する。迅速な裁判は刑事被告人の権利(憲法37条1項)であるが、そのことを理由に弁解・防御の機会が些かでも不十分になるようなことがあってはならないことも当然のはずであろう。
 こうした新しい刑事手続の問題点については字数の関係でここでは詳しい説明は出来ないが、下記の第38回司法問題研究集会「どう変わる?刑事裁判」では、この問題を集中的に取り上げる。講演、刑事裁判劇、具体的事件弁護団からの報告と討議といった構成である。この問題に興味のある方は、是非ご参加頂きたい。

(ご参考)
第38回司法制度研究集会「どう変わる?刑事裁判」

3月25日(土) 場所:四谷・プラザエフ(JR四谷駅前)
10:30〜第1部(講演 守谷克彦東北学院大学教授・元裁判官) 
13:00〜第2部(刑事裁判劇「新宿御苑殺人事件」。協力 青年劇場。青年法律家協会)
14:20〜第3部(刑事裁判の現場から。堀越事件等)
(問い合わせ先 日本民主法律家協会TEL03-5367-5430)

◆海部幸造(かいふ こうぞう)さんのプロフィール

弁護士。日本民主法律家協会事務局長。


 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]