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今週の一言

 

中国の人たちと語り合い、友好を広げる

2006年2月27日


渡辺一枝さん(作家)

―――渡辺さんは憲法「改正」の問題について、いま国民が意思表示すべき時じゃないかとおっしゃっています。その問題意識をお聞かせいただけますか?
(渡辺一枝さん)
私はあの戦争が終わった1945年の生まれです。いまの憲法はあの戦争に対する反省から生まれたものですから、私は憲法と一緒に生まれ育ってきたような気持ちでいるんです。ですから今の憲法はもう当たり前のように存在しているという感覚でした。ところが、どうもそうではない、憲法を快く思わない人たちもいて、その勢力も結構強いんだなあということをやがて感じるようになりました。憲法は当たり前にあるんではなくて、守っていかなければならないものだという意識が私の中に芽生えてきたんです。特にイラク戦争が始まってからの動きの中で、本当にもう黙っていてはいけない時期だと感じるようになってきました。
私は戦争の末期に、日本の侵略地であった中国のハルピンで生まれ、そこで父を亡くして、父を知らずに育ちました。ですから私の中には平和に対する思いが物凄く強くあるんですが、私は日本人が戦争で悲惨な思いをしたということとともに加害者でもあったということを反省しなければならないと思っています。私の家族の親しい人は戦争に反対する人が多く、なかには戦前・戦中に反戦を主張していた人もいたんですが、この人たちには当時の様子や体験をもっともっと語っていただきたいと強く思うんです。当時の日本軍は中国の人たちに対する加害者だったんです。個々の軍人が直接中国の人たちを殺したわけではないのでしょうが、加害者側の立場にいたわけです。そこでどのようなことが行われたのか、その戦争に対して何を主張し、どうだったのか、その体験を語って欲しいと思うんです。

イベント『いま、語り描き写し歌い舞うとき: 3月11日(土)11:00〜 東京・文京区立不忍通りふれあい館
私たちは「戦争への道は歩かない! 声をあげよう女たち」という組織をつくりました。3月11日には「いま、語り描き写し歌い舞うとき」と題して集会を開催します。いつも戦争を起こしているのは男性の側だと思うんですが、じゃあ女たちは戦争に反対したかというと、してこなかった。絶対に戦争はいけないんだということを女たちも発信していかなければならないと思うんです。
いま北朝鮮による拉致被害者の問題や中国での反日デモのことなどをとりあげながら、与党やマスコミが国民に対して危機感をあおり、そして憲法を変えて日本を軍隊を持つ国にしようとしています。私たちはまさに声をあげていかなければならない時期ではないかと思っています。―――渡辺さんはよく中国に行かれるようですが、中国の人たちとの交流の中で感じていらっしゃることもお聞かせください。
(渡辺一枝さん)
以前私は10年以上にわたって、中国の旧満州各地を歩きました。私は中国の人たちの暮らしやかつての戦争中のことを聞きたかったんです。
私が中国人の人たちのお話しを伺うためにあちこち行って感じたのは、やはり多くの中国人の人たちは日本人を憎いと思っているということです。私に対し、面と向かってそのように言わないまでも、中国人の人たちがひそひそ話しをしている光景に何度も出くわしました。
ただ、私が中国の人たちを訪ねた時、ある中国人の方から「本当にあの戦争で嫌な目、辛い目にあった。家族や親戚も随分殺された。もう日本人の顔を見るのも嫌だ、話したくない」と言われたんですが、そう言われたあとで、今の日本には平和憲法があって、昔とは違って戦争を放棄している日本であるから話すと言って、それでいろいろと私に話してくれたことがありました。中国の人たちから話しを聞かせてもらうとき、私は、私の国は本当に皆さんにすまないことをしたということを言わずにいられないんですが、そう言うと、「いや、それはあなたの罪ではなくて、あの頃の日本の政府、日本の軍部が悪かったんで、あなたも同じ被害者だよ」というようなことを言ってくれる方もたくさんいらっしゃいます。

―――最近、中国の人たちの半日感情が高まってきていると言われますが、どうお感じですか?
(渡辺一枝さん)
昨年中国人の反日デモがすごく盛んだった時期に、私は四川省の成都に滞在していました。日本を出発する時は、外務省がいま中国は危険だから渡航を控えるように言っていた時期です。たしかに滞在していた時期は日本人が営んでいるスーパーや日本食のレストランに石が投げられて店は滅茶苦茶になりました。でも、中国人全体がそういう雰囲気だったかというと、そうでもありませんでした。日本人のタレントは中国の若い人たちに人気がありますし、日本製の製品はやっぱり人気があります。多くの家に日本の電化製品があります。浜崎あゆみの写真が貼り付けられた缶ジュースが売られているわけです。私はその時、マッサージに通っていたんですが、マッサージ師さんは私が日本人だということを知ってもすごく友好的でした。街の八百屋さんや食堂で反日デモのことを聞いても、「ああいうのは一部の人だよ。どこの国だってみんなが仲良くしなきゃいけないんだよ」と言っていました。
もちろん、小泉首相の靖国参拝はけしからんって言う人は中国に大勢います。そういう人たちに対しては、私も、日本の中にも首相の靖国参拝に反対する人たち、今の日本政府のやり方に反対する人たちはたくさんいる、残念ながらそういうことはあまり報道されないだろうけれど、でも逆に日本でも、中国の人たちの声はなかなか報道されないのよ、というような話しをします。そして、ぜひ中国の人たちが日本に来て、日本の様子を見て欲しいし、日本人ももっと中国の人たちと交流していく必要があると言っているんです。

―――市民同士の交流が本当に大事なんですよね。でもやはり、日本で憲法「改正」の動きがいっそう進むようなことになると、中国の人たちはそのことにより敏感にはなるんでしょうね。
(渡辺一枝さん)
なると思います。私は、市民レベルで言うと、中国の人たちのほうが日本人よりももっと憲法のことやその「改正」問題の動きなどを読み取っていうような気がしています。やはり中国の人たちは日本が平和憲法を持っているということ、したがって軍隊も持たないことにしているということは知っています。しかし、日本政府が憲法を疎かにしているということも感じているんです。

―――そもそも憲法は何のためにあるのかということが、日本人にはあまり理解されていませんよね。
(渡辺一枝さん)

渡辺一枝さんのバッグに貼り付けられたステッカーなど
ほんとうにそうですよね。ですから、やっぱり今、私たちが発言しなきゃいけないんじゃないかと思うんですよね。
丸三年半近くなるんですけれど、私は外出する時に持ち歩くバッグの全てに、憲法改悪反対というステッカーを貼り付けて持って歩いてるんですよ。そうすると、道行く人たちから「それは何ですか」と声をかけられます。そうして憲法のお話しをできるだけ多くの人たちとしていきたいと思っているんです。
先だっても、タクシーの運転手さんがバッグのステッカーに気がついて話しをしたんです。いろいろな話しをしましたが、その運転手さんは「日本海から船で麻薬だとかを運んでくるのはみんな北朝鮮人や中国人なのに、日本は憲法があるからあいつらに手が出せないんだ。北朝鮮の日本人拉致もひどい話しだ。だから自衛隊は軍隊にならなきゃいけないんだ」というようなことを言うんです。私は、憲法の平和主義のことや、いろいろな人が憲法の考え方を広げる努力をしているということを運転手さんに説明しました。まあ小一時間しゃべりましたが、その運転手さんは「いやあ、お客さん。私はいままでそういう話しを聞いたこともなかったし、知らなかったけれど、これからもっと自分でもいろいろなものを見て、もう一回そのことについてよく考えて見ますよ」みたいなこと最後に言っていました。やっぱり、いまいろいろなかたちで一人ひとりが発信してくことが必要だと思うんです。いきなりこんな話しはしにくいけれど、ステッカーが貼られたバッグをいつも持ち歩いていれば、そのきっかけができると思うし、いまいろいろなかたちで発信しあっていかないといけないんじゃないかと思っています。

―――渡辺さんのご努力に感服します。
(渡辺一枝さん)
私は若い方々に、お年寄りの話しをぜひ聞いてほしいと思っているんです。特に戦争中の話を特に聞いて欲しい。やっぱり、本を読むのも大事なことなんですけれど、それだけではなくて、その場に行ってその耳で聞いたりする時は、その人の五感を使ってその相手の人と対するわけですよね。そういうものが今、すごく大事だと思いますし、いまならまだ多く戦争体験者の話しが聞けるんです。
そしてごく身近な人たちと憲法とか平和とか戦争とかについて話し合ってほしい。それはもう、うざったいことでもないし、野暮ったいことでもない、それをうざったいとか野暮ったいとかっていうことを言っていられるのも、やっぱり今の憲法があってのことで、私たち一人ひとりの人権が尊重されているからなんですよね。

―――今日は有意義なお話しをしていただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

◆渡辺一枝(わたなべ・いちえ)さんのプロフィール

作家。1945年ハルビン生まれ。
東京近郊の保育園で18年間保母として働いた後、1987年からチベット文化圏への旅行を重ねてきた。著書に「わたしのチベット紀行」(集英社)、「また ひなまつり」(集英社)など多数。


 
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