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今週の一言

 

日韓の友情を育む
――「銃口」の公演を通じて

2005年12月5日


広戸 聡さん(俳優)

【公演日程】
10月13日(木)唐津(タンジン) 1
   15日(土)・16日(日)公州(コンジュ) 2
   18日(火)水原(スウォン) 3
   20日(木)〜23日(日)ソウル 4
   25日(火)昌原(チャンウォン) 5
   27日(木)釜山(プサン) 6
   29日(土)咸安(ハマン) 7
11月 1日(火)麗水(ヨス) 8
    3日(木)梁山(ヤンサン) 9
    5日(土)順天(スンチョン) 10
    8日(火)・9日(水)光州(クヮンジュ) 11
   11日(金)木浦(モッポ) 12
   15日(火)晋州(チンジュ) 13
   18日(金)済州(チェジュ) 14

―青年劇場は、三浦綾子さん原作の「銃口―教師・北森竜太の青春」という作品で韓国公演をおこなわれたそうですが、どういう公演だったのですか?
10月10日から11月20日まで、「日韓友情年2005」の事業の一つとして(社)韓国芸術文化団体総連合会(略称・韓国芸総)が招聘団体となってくださり実現しました。ソウルや釜山などの大都市だけでなく、日本の劇団が今まで訪れていない郡部をふくむ14都市、24ステージ、42日間にも及ぶ公演でした。

―作品の内容はどういうものですか?
原作は三浦綾子さんが書かれた最後の長編小説で、昭和という時代を丸ごと描いた作品です。三浦綾子さんご自身が、戦前、小学校の教員をしておられた方で、軍国の小学校教師であった自分自身への反省から書かれた作品と思います。劇は、主人公・北森竜太が小学校時代の恩師の影響を受けて、理想に燃えて小学校教師になったところから、治安維持法違反の容疑で教壇を追われ、軍国主義に翻弄されて変転を重ねたのち、敗戦後の再出発までを、一人の青年教師の青春という視点で描かれています。

―公演にはいろいろ、ご苦労もあったのではないですか?
実は、この巡回公演が実現するまでにすでに様々な困難がありました。今年になってから竹島問題、歴史教科書問題、靖国参拝問題など日韓関係に緊張が高まる問題が続いたためです。国民感情を考慮して8月15日に小泉首相が靖国参拝するかどうか見極めてから結論を出したいという地域もありました。けれど、そういう時だからなおのこと文化交流が大切なのだと14都市が受け入れを決めてくださいました。ですから、巡演3都市目の水原(スウォン)公演の日に、小泉首相が靖国参拝したことは、私たちにとっても、受け入れる側にとっても、願いをかき乱すようなできごとでした。
11月3日付のハンギョレ新聞もそうしたことにふれながら『今年は韓日友情年だが、お祭りの雰囲気はない。韓日友情年の名目で多くの文化行事やイベントが行なわれたが、ほとんどは大きな感動を与えることができず忘れ去られていった』と書き、続けて『しかし少なくとも「銃口」の公演に関与した人々は韓国人を相手に新しい未来に向かって行こうと自信を持って話せる資格があると思う』と、韓国の皆さんに受け止めてもらえていることを評価した劇評を掲載しました。

―公演の反響はいかがでしたか?
実はふたを開けるまで、主人公が被害をうけたり苦労したりばかり問題にしているじゃないか、加害の事実をどう考えるんだ、というような批判をうけるのじゃないかとか不安もあったのです。でも公演をやってみると実に素直に受け止めて愉しんでもらえ、アンケートにも、地域や世代をこえて『日本人も私たち韓国人と同じように弾圧や戦争で苦しんだ者もいるのだ!?』という声が多く寄せられました。こうした発見が共感となって「友情」を培う力となっているのではと思われ本当にうれしいです。特に、今回、高校生をはじめとした韓国の青少年との出会いが沢山あったのですが、そのひとつ、梁山市の公演では600人もの高校生が一緒に観劇しました。舞台の息づかいに心をあわせ見入ってくれ、観劇後、マスコミのインタビューに『今まで日本と聞くと鳥肌がたつほどいやだったけれど、これからは仲良くしていかなければならない国だと感じた』と答える生徒もいました。一番うれしいことのひとつです。だって、両国の未来を創るのは、若者なのですから。
また別の面では、『韓国の政治状況と似ている点を感じることができた』『韓国の70年代の姿ととても似ていて驚きました。数多くの人を殺してもまたあの時代を懐かしむ日本の今日は、彼らだけの姿ではなく私たち人類すべての矛盾した姿ではないでしょうか』と、民主主義の視点で共感してもらえたこともうれしいことです。韓日それぞれの「今日の問題」として受け止めていただけ、励ましともなりえたのではないかと思っています。
とにかく、客席はいつもよく笑い、涙ぐみ、俳優の一挙一動、舞台のすみずみに見入り、ストレートに反応してくださいました。それから、主役の俳優がカーテンコールでの挨拶を全部韓国語で通したんです。「皆さん大変ありがとうございます。この作品が韓国と日本の友情の架け橋となることを心から願っています。また会いましょう。ありがとうございました!」と。その一言一言に、大きな歓声と惜しみない拍手を送ってくださいました。アンケートでも、『それまで我慢していた涙がバッとあふれました。本当に両国の和解となる作品になるといいですね』など、多くのお客様が感動したことの一つに上げて下さっています。かつて日本が、この国の言葉も名前も奪ってしまった歴史を思うと、まず日本の私たちが韓国の言葉で語りかけることの大切さを考えさせられました。
もちろん、『日本の辛さはわかったが、朝鮮の深い傷はわからなかったと思う。日本は自分たちが望んで戦争をしたけれど、韓国は望まない侵略をされた。だから深い傷を理解できないのではないかと思う』というアンケートも一つありました。あたり前のことですが「和解」には本当に長い時間と努力が必要だと再発見したことでもあります。

―ほかにも、発見したと思うようなことはありますか?
取材の記者から「このような作品を日本で上演するときには、さまざまな攻撃がありませんか?」と質問されたのは驚きと発見でしたね。ですから、東京初演のときも全日程満席で8000名を超えるお客様に見ていただいたことや、日本各地で沢山の方の応援で上演され支持されているという話をすると意外そうな表情をされるんです。日本は反動一色の国というイメージがあったので意外だというんですね。9条の会が沢山つくられ、憲法を変えてしまおうという勢力に対峙して運動が繰り広げられている話をすると、日本に対する新鮮な発見になったようです。
でも北海道新聞で報道されてますけど、ソウル公演に同行くださった、三浦綾子さんのご主人・三浦光世さんが韓国の人への謝罪の思いを伝えて帰国後まもなく、ご自宅の物置に張ってあった「銃口」旭川公演のポスターが破り捨てられる事件があったというような話を聞くと、悲しいような怖いような気がします。

―最後に、韓国公演を終えていま考えていることはなんですか?
実は、巡演の半ばを過ぎたころから感じ始めていたことでもあるのですが、こんなに私たちの仕事を敬意と愛情をもって迎え入れ、受け止めてくださっていることを肌で感じて、そのことを日本に帰ってから、どう伝えなければいけないのか、伝えることが出来るのかということなんですね。初日の唐津(タンジン)公演後の交流会で、当地の芸総の役員の方が「自分(日本)の事を見ている人の話だった。自分をちゃんと見る者には未来がある。日本の良心をもった人たちのために乾杯しよう」と劇の感想を話されたことに凝縮されていると思うのですが、そういう日本とこそ仲良くしたいというメッセージを託されたような気がするのです。日本に帰ってみると、9条2項をなくし、基本的人権にも制限を加えるような憲法「改正」案が発表されたりしていて、なおさらそのことを感じます。私たちは「銃口」という作品で日本から韓国に橋を架けたつもりでいたのですが、実は今、この「銃口」という橋が、韓国から日本に向けて架けられているのではないかと。その橋をもう一度しっかり日本の同胞のこころに架けることが、私たちを温かく迎えてくださった韓国の方々への返礼になるのではないか、そんな気がしています。引き続く北海道公演や東京再演を、一人でも多くの方に観ていただけるようにと願っています。

◆広戸 聡(ひろとさとし)さんのプロフィール

俳優、青年劇場所属
「銃口―教師・北森竜太の青春」では主人公の同僚教師・木下悟役とパルチザン兵士の二役で出演。最近の出演作には高橋正圀=作「ナース・コール」、ジェームス三木=作「悪魔のハレルヤ」などもある。また2001年に日韓共同で上演した「カムサハムニダ」ではイム・ヨンウン演出の助手もつとめた。なお年内の銃口公演のスケジュールは以下のとおり。

=北海道=
12月5日(月)帯広市民文化ホール
6日(火)釧路市生涯学習センター(まなぼっと)
8日(木)札幌教育文化会館
  11日(日)苫小牧市民会館
  12日(月)まなみーる岩見沢市民会館
  13日(火)旭川市公会堂
  15日(木)函館市芸術ホール

=東京=
12月18日(日)〜20日(火)東京芸術劇場中ホール

詳細は劇団にお問合せください。
info@seinengekijo.co.jp
TEL03−3352−6922



 
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