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「平時の有事化」と日本国憲法の「非戦」の理念

2005年10月24日


田場暁生さん(弁護士)

 「戦後70周年はない」、ある人の言葉です。今年、2005年は戦後60周年という節目の年ですが、戦後10年毎に訪れる節目の年という意味に尽きるものでないことをこの言葉で思い知らされました。戦後70周年を迎える時、先の侵略戦争の加害・被害の体験(特に加害体験)を語り継ぐことができる人、先の侵略戦争の被害の補償を求めている人、残念ながらこの人達の多くはこの世に存在しないかもしれません。戦後60周年の今こそ、先の侵略戦争で何が行われたのかをしっかりと記憶・記録にとどめ、未来に向けてスタートを切らなくてはなりません。
 現実はどうでしょうか。前に向かうどころか、スタートラインから後退するような動きが、近時、特に目立ちます。「平時の有事化」ともいえる動きです。たしかに、「戦時体制に向けて着々と体制が整えられている」、この言葉に、「戦前に戻るという発想は短絡的でワンパターンだ」と思う人は少なくないかもしれません。私も、どんなに日本が右傾化しようとも、戦前同様の社会に戻り、戦前同様の侵略戦争を行うとは考えていません。戦後日本には、戦争を体験した世代を中心とする平和・厭戦の思い、そして、侵略戦争の反省の上に立ち「国際公約」として「非戦」を誓った日本国憲法の思想が根付いていると思うからです。
 しかし、市民的自由の抑圧と戦時体制の確立、これらが一体不可分のものであることは歴史が教えるとおりです。そして、今、ビラを撒いただけで逮捕・起訴がなされるなど表現の自由が抑圧され、教育現場では日の丸君が代に対し忠誠を求められ思想良心の自由が侵害されるなど、日本国憲法が保障する様々な自由が失われようとしています。他方、憲法9条2項や憲法改正規定の改正、「公」の重視、権利意識が強すぎるので憲法を改正して国民の義務を盛り込む(国防の義務などを明記する憲法改正案も出されています)などを内容とする憲法改正の動きも急ピッチで進められています。
 怖いのは、鈍感になることではないでしょうか。「戦時」とは、自ら先頭に立って他国を侵略・攻撃する事態のみを意味するのではありません。例えば、日本は、米軍のアフガニスタン爆撃の際、米軍に対して、爆撃に不可欠な給油活動を行いました。また、イラクのファルージャで「大量虐殺」を行った米軍は、沖縄の基地から飛び立った海兵隊が主力です。
 私は、2003年、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷検事団の一員として、アフガニスタン・パキスタンで調査を行ってきました。アフガニスタンでおこった事実を法的な形で詳細に評価する世界で唯一の試みです(イラク国際戦犯民衆法廷の検事団の一員としても、今年6月にイスタンブールで行われたイラク世界民衆法廷で報告をしました)。アフガニスタンでは、「対テロ戦争」の名の下、米軍の空爆によって多くの市民が犠牲になりました(イラクでも多数の市民が犠牲になりました)。「庭に娘夫婦の肉片が散乱し、肝臓も飛び出していた」と空爆によって娘夫婦を一瞬にして失った様子を生々しく語ってくれたアフガニスタンの老婦人、この被害を受けた民衆の立場に立って考えるとき、直接爆撃をしたものとその爆撃を支援したものとの間にどれだけの違いがあるでしょうか。知らない間に、「戦時」体制に組み込まれ、人殺しに荷担していること、これは本当に恐ろしいことではないでしょうか。直接戦闘行為をしていないからいいではないか、では済まされない現実があるのです。
 こうした「平時の有事化」に慣らされたとき、憲法9条の「非戦」の理念は、危ういものになってきます。時の政府の「戦争加担に反対する自由」でもある表現の自由や、思想・良心の自由などの侵害に対して鈍感になったとき、「有事化」の総決算として憲法9条の改正が現実のものになってきます。
 そんな今、私は、まずは、自分が不自由にならないことが大切だと思っています。おかしいと思ったことには声を上げ、怒りを表す。自由が侵害されようとするときは、躊躇せずに立ち上がる。そんな一つ一つの積み重ねが大切だと思っています。
 その一つの取り組みとして、今、「さらば戦争!映画祭」の準備を進めています。これは、もともと、中国「残留孤児」訴訟・原爆症認定訴訟・中国戦後補償弁護団及び関係者が、昨年来「戦争被害・戦後補償を考える」をテーマに、お互いに戦争責任・戦後の責任及び戦争における加害・被害について学びあおうと、学習会や交流を重ねてきた中での一つの取り組みです(私は、中国「残留孤児」訴訟の弁護団として本映画祭の実行委員長を務めています)。
 本映画祭に一番参加してほしいのは、これまで戦争・核・軍縮・平和といったテーマに関心があってもなかなか触れる機会がなかったような人たちや、または、近寄りがたいと考えていた人たちです。映画を通じてリアルに戦争の加害・被害の実態を伝え、その上で、現在起きている戦争、紛争などについて考えてもらうこと、そしてこのような歴史をふまえ、日本国憲法の非戦の理念とは何なのかを感じ取ってもらうことが重要だと考えるからです。井筒和幸監督もトークショーに出演されるなど盛りだくさんの企画ですので、ぜひ、皆様、ご参加ください。

◆「さらば戦争!映画祭」

<11月19日(土) 13:00〜21;30>
明治大学リバティタワー2F 1022教室
■「乳泉村の子」<監督 謝晋 1991年>
■「日本鬼子(リーベンクイズ)」<監督 松井稔 2001年>
■「HELLFIRE 劫火-ヒロシマからの旅-」<監督 ジャン・ユンカーマン1988年>
■中国「残留」孤児訴訟原告からの被害体験
■ジャン・ユンカーマン監督・『魔の731部隊』の吉永春子監督のトークショー
<11月20日(日) 11:00〜20;30>
発明会館
■「あんにょん・サヨナラ」<共同監督 金兌鎰(キム・テイル)加藤久美子 2005 年>
■「にがい涙の大地から」<監督 海南友子2004年>
■「パッチギ!」<監督 井筒和幸 2004年>
■井筒和幸監督、海南友子監督、金兌鎰(キム・テイル)監督をお招きしてのトークショー
*プログラムや上映時間などはHPをご覧ください。

「さらば戦争!映画祭」実行委員会・明治大学軍縮平和研究所 共催
(連絡先)実行委員会事務局(03-5312-4827 info@eigasai-60.com
http://www.eigasai-60.com/


◆田場暁生(たば あきお)さんのプロフィール

2003年弁護士登録。
中国「残留」孤児国賠訴訟弁護団、板橋高校威力業務妨害事件弁護団などに所属し弁護士活動をすすめながら、アフガニスタン国際戦犯民衆法廷検事団、同イラク法廷検事団などの「平和創造」活動にも取り組んでいる。

 


 
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