法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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今週の一言

 

多文化共生社会と憲法

2005年9月19日
土井香苗さん(弁護士)
「映画 日本国憲法」の劇場公開記念企画・連続トークショー「憲法の話をしよう。私がおもう憲法9条のこと」(主催:シグロ、後援:マガジン9条)での土井香苗さんのトーク(7月21日)を紹介します(タイトルは当研究所。協力:マガジン9条)。

●憲法は私たちが守るものではなく、権力者が守るためにあるルール

私が初めて憲法を勉強したのは、ちょうど10年ぐらい前。大学に入ったばかりでした。逆に言えば、それまでは私も憲法を勉強したことがなくて、きっと私が守らなくちゃいけないルールがたくさんかいてあると思っていました。いまの言葉で言うと「憲法なんて、うざい」という感じでしたね(笑)。
初めて憲法を教わったのは、この映画館の目の前にある「伊藤真の司法試験塾」というところです。伊藤真さんは、法学部生や裁判官、弁護士などならみんな知っている予備校の先生ですが、彼は
「憲法は、あなたが守らなければならないルールではなく、権力の濫用を防止するための、権力者に対するルールである。あなたは権力者ではなくて単なる一国民に過ぎないから、守る必要がない」ということを教えてくれました。
憲法を守らなければいけないのは、「憲法の尊重・擁護義務」がある公務員です。日本は第二次世界大戦でたくさんの人を殺したことから、政府がこれ以上権力を濫用しないように、このようなルールが定められたのです。

●エリトリアで受け入れてもらえたのは、私が9条のある国の人間だから

憲法を勉強して、私は「9条はすごい。日本人として誇らしい」と思いました。それで、ちょっとおこがましいですが、日本の憲法を紹介したいと思い、大学4年生のときにアフリカのエリトリアに行ったのです。
エリトリアという国は、多分ここにいらっしゃるほとんどの人が知らないのではないでしょうか。地図で言うとアフリカ大陸の右上辺りにあります。紅海に面している細長くて小さい、北海道より少し大きいぐらいの国で、1993年に独立しました。
私がエリトリアに行ったときは、まだ法律が整備されていなかったので、エリトリアの法務大臣に直接会って「私をボランティアとして雇ってください」とお願いしたら、あっさりと「いいよ」と言われました。
いま思うと、それは私が日本人だったからです。

エリトリアでは当時、欧米から多くの人が来て援助をしていました。様々なボランティアを希望していた人がいたのですが、欧米人はみんな断られていたのです。
なぜヨーロッパ人がだめで、私が採用されたかというと、日本がアフリカに軍隊を送ったことが一回もないからです。
エリトリアでも、日本は広島、長崎に原爆を落とされた国だということはよく知られていました。そして、日本は戦後60年間、一回も軍隊が外国人を殺していない国であり、しかもトヨタの国でもある(笑)。そういったことから、彼らは日本人が大好きだったわけですね。
エリトリアに行って、私は改めて「日本は平和憲法もあるし、アフリカではとても尊敬されている。日本はこれから、世界に対して平和憲法を生かした独自外交ができるのではないか」と思って帰って来ました。そして、弁護士になったのです。
ところが私の抱いていた希望は、弁護士になったとたんに崩れ落ちてしまいました。

●日本では一日に1,435人もの外国人が、強制収容所に入れられている

みなさんがこの映画を見ていた1時間ちょっとの間、地球上で何人が亡くなっていると思いますか。実はおよそ1,000人が飢餓で亡くなっています。もっとも多いのは子供であり、難民です。
自分の国、故郷を捨てざるを得ない難民が、いま世界中で1,700万人もいます。それを聞いて、私は高校受験ぐらいのころから、アフリカに行きたい、難民を助けたいという気持ちになりました。
そして、難民に会うためにわざわざエリトリアに行きましたが、日本に帰ってきてみると、実は日本にもたくさん難民はいるんですよね。それまで私は、日本に難民が来ていることを知らなかったのです。

日本ではいま、難民はだいたい強制収容所に入れられています。難民というのは、自分の国が危険になり、他国に逃げざるをえない人ですが、日本には難民以外にも自発的に来た外国人がたくさんいます。いま、日本には200万人の外国人がいますが、難民であるないにかかわらず、彼らはいろいろと厳しい状況に置かれています。
最近強く感じるのは、日本の中でナショナリズムがとても力を得ていて、彼らはこの被害者になっているということです。

みなさんはもしかして、最近外国人犯罪がすごく増えていると思っていませんか? なぜかというと、どの新聞もそう書いているからです。これははっきり言って、嘘です。私もいろいろ新聞に抗議しましたが、こういった傾向はなかなか止まらない。一種のブームになってしまっていると思います。

さらに、2003年10月から、東京入国管理局と警察、法務省が一緒になって「不法滞在者半減宣言」というのを出しています。
いま警察などが、外国人を見ると誰彼構わず「あなたビザありますか?」と聞いてまわっています。日本では入管法違反を犯罪だとみなしていますので、外国人をまず「あなた犯罪者じゃない?」という目で見るわけです。
同じ頃から入管が、「不法滞在者やビザがない人を、匿名でいいのでインターネットで通報してほしい」という密告制度をはじめました。そういったことを外国人に対しては、しているというのが、いまの日本です。

ところで、去年の今頃には、イラクで高遠さんと今井君と郡山さんがテロ組織に捕まりました。私は、彼らが捕まったときの弁護団の一員でしたが、それまでは、日本では外国人だけが排除されていると感じていました。しかしあのときは、外国人だけでなく、反日的とみなされた日本人も排除されつつあるのだと感じました。
彼らは反日というハンコを押され、自国の首相からも「自己責任だから死んでも仕方ない」と排除されました。
私もよくインターネットで「反日的だ」と書き込まれていたりしますが(笑)、このまま日本がナショナリズムに進めば、私も捕まるかもしれないなと思うことがあります。

●一番大事な理念の第13条「個人の尊厳」が、いま書き換えられようとしている

今後の憲法改正でどうなるのか、ということを少しだけお話したいと思います。
はっきり言いますと、弁護士を含め法律家も、実は憲法のことをほとんど知りませんし、残念ですが、日本の裁判所も憲法をあまり重視していません。
たとえば外国人の権利を制限しているのは入管法ですが、日本では、事実上憲法よりも入管法のほうが強い。「入管法に反している外国人は、憲法上の権利がない」というわけです。
今、弁護士の間では「憲法なんて勉強しても仕方ない」という、すごくひねた感じがあります。司法試験に受かった人が行かなければならない司法研修所では、民法や刑法はたくさん勉強させられますが、憲法の授業は一つもありません。

また、憲法9条を読んで、自衛隊は違憲だと思われる人は多いと思います。法律的にも違憲であることは明白ですが、司法、裁判所はそれを言えない。さすがに合憲とは言えないけれども、違憲と言うのは怖いと。政府が選んでいる裁判官だから何も言えないのです。
このように、いま憲法は、徹底的に骨抜き化されているのです。

ところで、憲法では13条で「個人の尊厳」を規定してますが、これは憲法の一番中心の概念です。要するに国や天皇が尊重されるのではなくて、「すべて国民は、個人として尊重される」のです。
ただし、個人の尊厳、個人の自由も、たまには制約も受けます。
13条には、続いて「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とあります。
公共の福祉というのは、要するに「他人の人権」という意味です。他人の人権が制限されない限り、私たちは個人として尊重される。法務省は「土井がしゃべると国の秩序が乱れる」と思っているかもしれませんが(笑)、「他人の人権」しか私の人権を抑制できないというところが、13条が憲法の一番大事な理念だという所以です。

実は7月7日に自民党新憲法起草委員会が要綱案というのを発表し、この13条も変えようとしています。
それによると、まさにその「公共の福祉」の概念が曖昧だとして否定され、「国家の安全と社会秩序を維持する概念として明確に記述する」「公益及び公共の秩序などの文言に置き換える」となっています。
これでは大日本帝国憲法とほとんど同じ条文になるので、あまり憲法を知らない弁護士たちでも、さすがにこの要綱案を読んだときはびっくりしただろうと思います。

最後にひとこと。私は外国人を日本の中で支援していますので、いま「多文化共生」ということを言っています。外国人と共生する、女性と共生する、あるいは障害者と健常者が共生する。「いろいろ異なることはあっても、いろいろな文化があっても、お互いに受け入れて対等な関係を結ぼう」というのが、これからの日本にとって本当に大事だと思っています。多文化を受け入れる社会では、多文化と闘う、戦争するということはありえません。多文化共生社会は積極的な平和の社会なのです。
今日はどうも長い間ありがとうございました。

◆土井香苗(どい かなえ)さんのプロフィール

弁護士。大学3年生の時に当時最年少で司法試験に合格。その後エリトリアで司法協力のボランティア活動。現在、全国難民弁護団連絡会議、原爆症認定集団訴訟弁護団などに所属。2005年8月に『ようこそと言える日本へ‐弁護士として外国人とともに歩む‐』(岩波書店)を出版。



 
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