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改憲をめざす勢力と今後の動向

2005年8月15日
浦部法穂さん(名古屋大学教授・法学館憲法研究所主席客員研究員)
<法学館憲法研究所「戦後60年のいま、憲法を学び広げる映画と講演の集い」(2005年6月11日、7月31日)での講演から一部抜粋。全文については小冊子「憲法の原点と生命力」に掲載。詳しくはこちらへ>

・・・

改憲めざす3つの勢力

私の見るところ、いま「改憲」を唱える人々のなかには3つの流れがあると思います。
一つは、日本は強くあらねばならないという、強い国家を目指そうという動きです。これは、たとえば北朝鮮問題だとか、あるいは靖国問題などで、非常に威勢のいい発言をする人たちの動きです。自民党の安倍幹事長代理が筆頭ですが、そういった人たちは、たとえば北朝鮮に対してもっと強気でいくべきだというようなことを言ったり、あるいは中国の反日デモなどに対しても強気の対応をすべきだといったようなことを唱えます。
もう一つは、いわゆる「新自由主義」というのでしょうか、要するにアメリカの世界支配のなかで日本の利益を追求していこうという流れです。アメリカがすすめている世界支配戦略というのは、結局のところアメリカ資本の利益のために世界全体を自由市場化しようということですが、日本の資本もそれにくっついていくことによって利益を得ていこうという、こういう流れです。この流れのなかでは、たとえば靖国問題にしても中国や韓国があれだけ反発しているということになると、中国や韓国を抜きにして日本の経済は成り立たないわけですから、首相の靖国参拝は控えるべきだという発言にもなっていきます。この「新自由主義」的な路線というのは、要するに損得勘定で、どっちが得かで動く部分があります。自民党のなかにもそういう勢力が多いですし、日本の財界というのは大体そういう動きです。だから、とりあえずアメリカにくっついていくのが得だという発想で、アメリカの要求に応じて日本の国内の改革もすすめていこうとします。郵政民営化なども、まさにアメリカの要求・圧力によるもので、そういう「改革」をやり遂げようという方向に動いていくのが、この勢力です。
それから、3つ目の流れというのは、日本は大国として応分の国際的な責任を果たしていかなければならないという、一種の義務感といいますか、そういうもので動いている勢力です。この勢力というのは、ある意味純粋なんです。損得勘定ではないし、日本が強くなって他の国をやっつけたっていいというようなことでもない。日本は経済的にも大きな国になっているんだし、それ相応の責任を果たしていかなければならないという「責任感」に突き動かされている勢力といえます。これは、私の見るところでは民主党のなかの比較的若い世代の人たちにそういう傾向が強いと思います。この勢力というのは、損得勘定では動きませんから、ある意味確信犯的で怖い気がします。損得勘定で動くんだったら、こっちへ行ったら損だと思えば行かないわけですが、この人々はそうではありません。

3つの勢力の一致点が9条改定

この3つの勢力というか「流れ」は、改憲という場面においては、実は一点で一致することになります。それが9条の問題です。日本は強くなければならないという観点からは、当然、日本は一人前の軍事力を持つことが必要だということになります。それから、アメリカにくっついて利益を得ようという立場からしても、やはり、アメリカが展開している戦略のなかで日本もそれに加わっていかないと置いてきぼりにされて損をする、だから日本も軍事力をきちんと持って軍事的な貢献もしなければいけない、という話になっていきます。それから、「純粋」に「責任感」で国際社会において応分の責任を果たさなければいけないと思っている人たちも、たとえば国連を中心とした平和維持のための軍事行動には積極的に参加できるようにしなければ日本は国際社会の中で応分の責任を果たせない、と考えます。だから、9条を変えるという点では、この3つの勢力は完全に一致することになります。
そうすると、いまの「改憲論」というものがどこへ収斂していくかということは、容易に予想できます。いままでは、自民党や民主党がそれぞれの主張をしてきたわけですが、現実に「改憲」ということを行おうとしたならば、まず国会で3分の2とらなければいけないわけですから、自民党単独でもできないし民主党単独でももちろんできない。そうすると、自民党、民主党、そして公明党も含めて一致できるところでまとめようという動きに当然なってきます。その接点をどこに求めるかというかたちで、すでに動き始めているというのが実情です。そして、その接点を探っていけば、軍事力、戦力を持つという点に関しては3つの勢力は完全に一致するわけですから、「改憲」の焦点が、9条2項を変える、あるいは、はずすという方向へ動いていくことが、容易に予想されます。

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<「戦後60年のいま、憲法を学び広げる映画と講演の集い」(7月31日、大阪)での浦部教授への質問と回答>

当日参加者から出された主な質問と浦部教授の回答です。講演会の模様と講演に対する参加者の感想はこちらへ。

【Q】本来、国家権力を制限するはずの憲法を、権力を握っている者が何でもできるように憲法改正しようとしている現在の憲法改正の案は改正の限界に当たらないのですか。
【A】自民党や民主党の「改憲」論は、「憲法制定権力」を「国民」から「国民の代表」が奪ってしまおうとする議論にほかなりません。それは当然に現憲法をトータルに否定し「新憲法」を制定するという議論になります。日本国憲法99条は国会議員にも憲法尊重擁護義務を課しているわけですから、その国会議員によって構成される国会に現憲法を否定するような「改正」の発議権があるとは解しえません。つまり、憲法96条はそのような憲法の変更を「改正」としては予定していないということです。その意味で現在の「改憲」の動きは「改正の限界」をこえるものだといえます。

【Q】先生が仰るように、私も憲法は「国家権力を拘束し、国民の権利・自由を守る」ものだということが国民に浸透していないと思います。私はその理由として、権力にとって都合の悪い憲法をあまり国民に教育すべきではないという政府(殊に文科省)の意図があったのではないでしょうか? 先生のお考えをお聞かせください。
【A】教育の力は、たしかに重要です。憲法をないがしろにするような教育が政府によって進められてきたことも一つの理由でしょう。ただ、現場の先生方の中には、人権・平和・民主主義の価値を熱心に説いておられる先生も少なくありません。政府の意図は意図として、それに抵抗・対抗する一人ひとりの行動こそが重要になります。政府が悪いと言っても、そういう政治を許しているのはほかならぬ私達自身なのですから。

【Q】東京都の学校を中心に、国歌を卒業式などで歌うことが強制され、国歌のピアノ伴奏や国旗の掲揚を拒否する教師が懲戒免職されるというニュースがありました。これはやはり、思想良心の自由を侵害する行為だと考えるのですが、先生の見解をお聞かせください。
【A】「日の丸」「君が代」の強制が思想良心の自由の侵害であることはいうまでもありません。「国旗国歌法」が制定されたとき、政府は「強制するものではない」ということを明言しています。にもかかわらず、いつの間にか「君が代」は「国歌」なのだから学校行事で斉唱するのは当然だといった意識が、一般の人々の間にも浸透しつつあります。それと意識せずに「長いものに巻かれ」てしまう日本的体質を、ここでも感じざるをえません。

【Q】非軍事の「人間の安全保障」の取り組みの重要性はよくわかるのですが、世界でテロをおこしているような人間に対してどのように対応すべきか、日本国憲法の平和主義の理念がそれに役立つのか、などについて説得力のある説明ができません。
【A】いまブッシュ政権がやっていることも、逆の立場の人々からみれば「国家テロ」にほかなりません。イスラム過激派のやっていることは「テロ」で、そのようなテロの脅威に対して断固戦うべきだ、という論理は、逆の立場からいえば、アメリカのやっていることは「国家テロ」にほかならず、そのようなテロの脅威に対して断固戦うべきだ、という論理になります。これでは、ますます暴力の拡大をもたらすだけでしょう。その愚かさに気づくべきです。そうすれば、日本国憲法の平和主義はきわめて「現実的」な方向を指し示しているということが理解されるはずです。


◆浦部法穂(うらべのりほ)さんのプロフィール

1946年、愛知県に生まれる。
1968年、東京大学法学部卒業。
神戸大学大学院法学研究科教授・神戸大学副学長等を経て、現在、名古屋大学大学院法学研究科教授。
法学館憲法研究所主席客員研究員
特定非営利活動法人「人権・平和国際情報センター」理事長
主著
『違憲審査の基準』(勁草書房、1985年)
『注釈 日本国憲法(上)(下)』(共著)(青林書院、1984年、1988年)
『憲法キーワード』(編著)(有斐閣、1991年)
『「憲法改正」批判』(共著)(旬報社、1994年)
『入門憲法ゼミナール』(実務教育出版、1994年)
『ドキュメント「日本国憲法」』(共編著)(日本評論社、1998年)
『全訂 憲法学教室』(日本評論社、2000年)
『いま、憲法学を問う』(共編著)(日本評論社、2001年)
『法科大学院ケースブック 憲法』(共編著)(日本評論社、2005年)
『憲法の本』(共栄書房、2005年)など多数


 
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