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第五回平和博物館国際会議に参加して

2005年5月30日
山根和代さん(高知大学非常勤講師)
第五回平和博物館国際会議が、スペインのゲルニカ平和博物館で5月1日から6日まで開催された。平和博物館国際会議について簡単に触れると、第一回は1992年にイギリスのブラッドフォード大学で開催され、第二回目は1995年オーストリアのシュライニング、第三回目は大阪国際平和センターと京都の立命館大学国際平和ミュージアム、第四回はベルギーのオステンドで開催された。ゲルニカ平和博物館は、スペイン北部のバスク地方にあるゲルニカに2002年に開館された。ゲルニカは、1937年4月26日にフランコ軍を支援するドイツ空軍の爆撃で破壊され、多くの市民が死亡した。その衝撃を受けて描いたピカソの代表的な絵画作品である「ゲルニカ」は、戦争の惨禍をテーマにしており、国際的に反戦と平和のシンボルになっている。ゲルニカ平和博物館は、単に歴史的事実に関する展示をするだけでなく、人々が様々な紛争を平和的に解決できるように教育することを目的にしている。
今回の国際会議の主な目的は、平和博物館、戦争・平和記念館、人権博物館、反戦博物館、歴史博物館などに関わる人々が、「平和の文化」の普及のために交流をし、1992年に創られた平和博物館国際ネットワークを強化することであった。会議のテーマは、「平和博物館:記憶、和解、芸術、平和への貢献」で、次の三つの内容で話し合われた。(1)芸術の平和の文化への貢献(2)世界の和解の種を蒔く平和博物館(3)平和な世界を築く際、重要な役割を果たす記憶について、である。国際会議には28カ国から約140人の参加者があり、英語、スペイン語、バスク語が使用された。
日本からは11人参加し、立命館大学国際平和ミュージアムの安斎育郎館長が、「立命館大学国際平和ミュージアムのリニューアル・プロジェクト、原爆忌全国俳句大会、および憲法9条メッセージ・プロジェクトの紹介―芸術の役割を重点に」、国際平和ミュージアム友の会会長の川畑康郎氏が「『悪魔の飽食』混声合唱の国内外での活動と『世界の子ども平和像・京都』建立の取り組み」山口良子氏が「同志社中学校における平和教育」、立命館大学の東自由里教授が「沖縄の佐喜真美術館」、札幌学院大学の坪井主税教授が「和解のための二つの博物館:花岡とリバプール」、大阪女学院大学の奥本京子助教授が「地域における和解でドラマが果たす役割:パックス・パシフィカのホーポノポノ」、ブラッドフォード大学大学院生の野上由美子氏が「記憶を次の世代にどのように伝えていくことができるのか?広島と長崎」、フォトジャーナリストの矢嶋宰氏が「ピースロード:平和と人権のためのワークショップ」(韓国の「ナヌムの家」における日韓大学生の交流)、平和資料館「草の家」事務局長の金英丸氏が「東アジア共通の歴史認識を目指して―歴史教科書と『反日』デモ」、山根和代が「日本の平和博物館の特徴」を発表し、また第五福竜丸展示館の藤田秀雄氏(立正大学名誉教授)が、聴衆席から様々な発言をされた。
3つの分科会があり、「芸術と平和」の分科会では、平和な世界を築くことが、人間の創造性を発揮する最大の目的であり、芸術が平和の構築、和解、相互理解に果たす役割は大きいこと、多様な文化を表現した芸術を支持すること、2007年に第三回平和・芸術に関する国際会議を開催することなどが話し合われた。「和解の種を蒔く平和博物館」に関する分科会では、対立者が和解し、平和を築く上で、記憶が重要であること、しかし記念館の場合、どのような人々が取り上げられるべきなのか(犠牲者、平和主義者、侵略者、その他)が問題であること、記憶の展示をするだけでなく、未来志向の視点で記憶を取り上げる重要性などが話し合われた。「世界平和の構築のために記憶が果たす役割の重要性」に関する分科会では、歴史的出来事の批判的分析の必要性、勝者ではなく犠牲者の視点でいかに歴史を記述していくのか、過去の記憶と現在、未来を関連付ける際、平和博物館が果たす役割が大きいこと、平和の構築のために行動をする場としての平和博物館、記憶を記録し、よりよい未来の実現のために生かすことなどが話し合われた。
様々な報告や取り組みの中で、印象的なものとして、オーストラリアの画家、ウィリアム、ケリー氏の企画で、参加者全員が音楽や朗読を聴きながらろうそくに火を灯していった。マハトマ・ガンジー、マルティン・ルーサー・キング、ヘルマン・ヘッセ、ケーテ・コルヴィッツ、ジョン・レノンなどの偉大な先人から知恵を学び、私達が進むべき道を考えていく取り組みだが、戦争犠牲者の追悼の際にもこのような取り組みをすることができるのではないかと思った。
またチリのサンティアゴの作家や芸術家が1996年に集まって、芸術を通した平和の取り組みを始めた。サンティアゴの政府の建物は、1973年9月11日に軍人ピノチェト(クーデターでアジェンデ政権を倒し、1974年から1989年まで大統領)の命令でチリの軍隊によって爆撃された。2001年3月に、芸術祭(特に詩)の取り組みとして、ヘリコプターからその政府の建物に向けて、ロケット弾ではなく、子どもが書いた詩を載せたしおりを10万枚撒く取り組みをした。これをきっかけに、空爆をされた他国の都市でも取り組みをすることにした。2002年8月には、バルカン紛争で空爆されたクロアチアのドウブロヴニクで、2004年8月には、スペインのゲルニカで同じ取り組みをした。この「詩の空爆」は、予告なしに行なったが、大量のしおりを撒いたにもかかわらず、すべて拾われ、一枚も路上に残っていなかったそうである。今後、ドイツのドレスデン、日本の広島と長崎でも同様の取り組みをしたいそうである。これは芸術家の創造的な取り組みだが、ビデオを見ると、詩を載せたしおりを拾って読んだ人が泣き出す場面もあり、どれだけ多くの人々が心から平和を願っているのかが伝わってきた。
また2001年9月に国連で、9月21日を「国際的に停戦をし、暴力のない日」として「国際平和の日」(the UN International Day of Peace)と定めることが決定された。イギリスの映画制作者であるジェレミー・ギリー氏が、著名人、芸術家、NGOに働きかけて実現をしたが、その記録映画であるPeace One Dayを鑑賞し、ギリー氏の話を聞いた。その後、世界の平和博物館でも、毎年9月21日に様々な平和の取り組みをしようということが決議された。まだ映画の日本語版はないが、英語版に関しては、下記に問い合わせると入手可能である。
Peace One Day, Block D, The Old Truman Brewery, 91 Brick Lane, London, E16QL, UK
Tel: +44(0)207 456 9180 Fax: +44 (0)207 375 2007
Email: info@peaceoneday.org
HP:http://www.peaceoneday.org

日本国憲法第9条を世界に:チャック・オーバービー氏の発言

平和博物館国際会議には、オハイオ大学名誉教授のチャック・オーバービー氏が杖をついて参加し、日本国憲法第9条の重要性、普遍性について力強い発言をされた。湾岸戦争を機に「第9条の会」を結成し、すべての国の憲法に9条の精神を取り入れることを目指している。スペイン領カナリア諸島のテルデ市には1996年に「広島・長崎広場」ができ、「平和のモニュメント」には9条がスペイン語で刻まれているという。
私は国際平和研究学会に所属しているが、マケドニアのスコピエ大学のスベトミール・スカーリック教授と、妻のオルガさん(バルカン平和研究センター所長)と知り合いである。スカーリック教授は、バルカンの平和実現のために日本で日本国憲法を研究し、9条の精神が必要であると考え、マケドニアで本を出版されている。国際平和研究学会の大会が2004年にハンガリーのショプロンで開催されたが、その際ドイツ人の平和研究者であるクラウス・シリヒトマン氏が、9条の重要性について熱心に話をされ、心強く思った。また「日独平和フォーラム」のハンス・ピーター・リヒター氏も、ドイツで9条の理念を紹介されている。彼は現在ドイツの各地で沖縄に関する展示をし、この夏、広島、長崎、高知を訪問したいというメールが来た。このように、9条は海外で輝きが増している。武力で問題は解決しないこと、紛争の平和的解決が重要であることを、世界の市民が9条を紹介しながら多くの人々にアピールしていることを、もっと多くの日本人が知る必要があると思う。

平和博物館と日本国憲法の今日的意義

日本の平和博物館の数は、世界で一番多い。世界には100以上の平和博物館があり、日本にはその半分位存在している。2001年に約50館の平和博物館の調査をしたが、公立の平和博物館では日本の加害の側面について展示をしている所が、少ないということが明らかになった。しかし大阪国際平和センターでは、様々な考えの団体の代表者が運営協力懇談会(関西大学名誉教授小山仁示氏が座長)に所属し、様々な意見を反映させている。また市民ネットワークが形成され、市民の声が反映されて加害の展示がなされている。段々言論の自由がなくなり、憲法で保障された基本的な権利が蹂躙されているが、市民が声をあげてバランスの取れた展示をしている大阪国際平和センターは、海外の平和研究者や平和博物館関係者に非常に高く評価されている。
日本国憲法を変えようとする動きは、歴史教科書の内容を変える動き、平和博物館の展示に対する攻撃と一体のものであり、日本が戦争をすることができるように準備をしていると言っても過言ではないと思う。日本国憲法では紛争を武力で解決するのではなく、平和的に解決する事を明記している。アメリカが国際法に違反して、イラクで戦争をし、武力行使をしている今日、日本国憲法の今日的意義はますます重要になってきていると思う。
(2005年5月20日)

◆山根和代(やまねかずよ)さんのプロフィール

高知大学非常勤講師として英語教育などに携わりながら、平和資料館「草の家」(高知市)理事、「平和のための博物館・市民ネットワーク」通信「ミューズ」と英文通信Museの編集委員、平和博物館国際ネットワーク諮問委員などを歴任。


 
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