法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

差別と戦争をなくすために

2005年5月16日
有馬理恵さん(舞台女優)

――― 有馬さんが演じる「釈迦内柩唄」(戦時中中国人が日本に強制連行され、秋田県花岡で課せられた重労働に対して蜂起した事件(花岡事件)を背景にしつつ、火葬場の家業を引き継ぐふじ子の思いを描いた物語。水上勉作。)からは火葬場で働く人や朝鮮人などを蔑まれ差別されることの問題点を感じさせられます。有馬さんがこの芝居を演じるようになったいきさつや思いからお話いただけますか。
(有馬さん)
私が高校2年生の時に父から強く勧められこの芝居を観に行ったんです。そうしたら芝居の最初から最後まで涙がとまらなかったんです。そして、私は一週間寝込んでしまったんです。

――― すごいことになったのですね。なぜそんな状態になったのでしょうか。
(有馬さん)
実は、私は昔の未解放部落で育ったんです。そのことが自分の中で一番大きな問題だったんです。私の父はもともとは違うんですが、未解放部落の人に育てられました。私が高校1年生だった時、私の母方の祖母が病気になり、私は母と見舞いに行くことになりました。母は未解放部落の人に育てられた父との結婚を反対され、実家とは縁が切れた状態でした。母は私を連れて10数年ぶりに実家に帰ったのでしたが、私たちは母のお父さん、つまり私の祖父から「玄関までで家には入ってくれるな」と言われました。私はめちゃくちゃ腹が立ちました。未解放部落には親切な人がたくさんいます。私もいろいろな人たちから本当によくしてもらいました。しかし未解放部落の出身という理由で多くの人が就職や結婚で差別されます。肉親からも拒否されるんです。母の実家に行った時のことから、私はこうした差別は絶対におかしいという気持ちがすごく強くなっていました。そんなことを考えている中で「釈迦内柩唄」の芝居を観て、ショックを受けたんだと思います。

――― 大変な経験をされていたんですね。その後有馬さんは役者となり、その「釈迦内柩唄」を演じるようになったわけですが、なぜそうなっていったのでしょうか。
(有馬さん)
その後自分の進路をいろいろ考えることになるんですが、たった一回の芝居で自分が凄まじい衝撃を受ける体験をし、父の影響で役者への興味もあり、その道を進むことにしたんです。芝居を通して未解放部落出身者への差別をなくしていきたいという気持ちもありました。
実は、この判断には母と私を家に入れてくれなかった祖父のことも影響しました。「釈迦内柩唄」を観てしばらくして、私は祖父に手紙を出し、会ってもらうことにしました。祖父に会って、なぜ家に入れてくれなかったのか聞かせてもらうことにしたんです。祖父とは長い時間いろいろな話をしました。私は最初は祖父に反感を持っていましたが、その後すごく仲良くなったんです。いろいろな話をするうちに祖父がすごく変わっていったんです。というか、私は祖父がすごく変わったと思ったんです。私は人間って変わるんだということを実感したんです。そのことと、私が「釈迦内柩唄」を一回観て衝撃を受けたことがダブって、芝居を通して人々に訴えたいという決断になったように思います。

―――有馬さんがご自分をめぐる様々な境遇や経験の中から自分なりの問題意識を探し当て、その人生を切り開いていることに多くの人たちが感銘するのだろうと思います。有馬さんが芝居の傍らに平和の運動をされていることも有馬さんなりの思いからだと思うのですが、どんなことをされているのか、お聞かせください。
(有馬さん)
「釈迦内柩唄」からも日本が中国などに対して戦争を起こした中で中国人などへの差別が生まれたことがわかります。差別が生まれる背後に戦争があるんだと思います。それで戦争の悲惨さを実際に感じてみようと、私は長崎で開催された原水爆禁止世界大会に参加してみました。そのことを「釈迦内柩唄」の原作者である水上勉さんにお話したところ、絶句して「ありがとう」と言ってくださいました。水上さんの晩年のことです。
戦争の問題は決して過去の問題ではなく、現在でも日々イラクなどで戦争状態になっています。私も戦争をやめさせるために何かできないかと考え、イラクに行く予定でした。航空券も買っていたんですが、イラクで人質事件が発生し、人質となった3人を救出するとりくみをすすめました。
未解放部落の問題=同和問題はいまなお深刻な問題として残っています。なんとしても差別をなくしていきたいと思います。同時に、私はなぜそのような問題が生じているのか、社会の大きな流れの中でそれを見極め、その解決をはかる必要があると思います。具体的にどうすればよいのか悩ましく、迷いながらなんですが、そう考えています。

―――差別や戦争の問題に大きく関わることとして憲法のことがあります。最後に憲法についての有馬さんのお考えをお聞かせください。
(有馬さん)
憲法は人々の人権を守るために政府を監視するものと言われます。私は、同時に、その政府を形づくり、世の中をつくっているのが私たち自分自身であるということも憲法には書かれているように思います。私は憲法の9条とともに、13条や14条が大変重要であると思います。そこには人がみな個人として尊重されること、人はみな平等であることが書かれています。それは私自身に対して自分の過ちや行き過ぎを気づかせ、セーブしてくれているように感じるんです。
憲法をもっと多くの人に知ってほしいと思います。それには憲法をわかりやすく伝え、自分のものとして理解していただけるようにする必要があると思います。その点、お国言葉で憲法を読んでみるのもよい方法だと思いました。和歌山出身の私は和歌山弁の憲法を聞いたとき、なるほど素晴らしいと感じました。

―――ありがとうございました。「釈迦内柩唄」は人間の弱さやたくましさを伝えており、そこから多くの人々が差別や戦争のない社会の重要性を感じる芝居だと思います。今後ともがんばってください。

◆有馬理恵(ありま りえ)さんのプロフィール

舞台俳優。劇団「俳優座」劇団員。「肝っ玉おっ母とその子供たち」「ミラノの奇跡」「ステッピング・アウト」など多くの作品に出演しつつ、「釈迦内柩唄」をライフワークとして全国各地で公演、その回数は100回を超える。2003年、文化庁から新進芸術家・国内研修生に選ばれる。日本平和委員会理事。


 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]