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『日本・中国・韓国=共同編集 未来をひらく歴史―東アジア3国の近現代史』

2005年5月2日
俵 義文さん(子どもと教科書全国ネット21事務局長)
 私たちはこれまで、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の歴史教科書に対して、日本の過去の侵略戦争や植民地を正当化し、歴史を歪曲する自国中心・排外主義の教科書であるなどと批判してきた。しかし、ただ単に批判するだけでは、歴史教科書問題は解決しない。私たちには、日本の子どもたちをはじめ、アジアの子どもたちにどのような歴史を伝え・学ばせ、どのような歴史認識を共有するのかが問われている。歴史認識の共有は子どもたちだけの問題ではない。東アジアの平和な共同体をつくっていくためには、その前提として、ひろく歴史認識の共有が不可欠である。
 「つくる会」は、歴史は一国のものでアジアの人びと(国)と歴史認識の共有など不可能だと主張してきた。しかし日本は、19世紀後半から20世紀の半ばまで、約60年間にわたってアジアを侵略し、日清・日露戦争、日中戦争、太平洋戦争をほぼ10年おきに戦ってきた。日本の歴史、とりわけ近現代史はアジアとの関係ぬきには考えられない。侵略戦争と植民地支配の歴史を謙虚に学び、過去の克服をめざして東アジアの子ども・市民と歴史認識を共有する努力が、日本においてどうしても必要である。同時にこのことは、日本だけの課題にとどまらず、中国や韓国においても同様であると私たちは考えている。
 その課題に答える試みとして、私たちは、日本・中国・韓国の3国共同で共通の歴史副教材づくりをすすめてきた。それが5月27日に発刊予定の『日本・中国・韓国=共同編集 未来をひらく歴史―東アジア3国の近現代史』である。

●共通の歴史教材を
 2002年3月に中国・南京で開催した日中韓3国の「第一回歴史認識と東アジア平和南京フォーラム」で、東アジアの子どもや市民が歴史認識を共有するために、共通の歴史副教材がつくることが話し合われた。その後、各国で東アジア共通歴史副教材開発・作成のための委員会が組織された。日本では、大日方純夫早稲田大学教授を委員長に、研究者(在日を含む)、中学・高校教員、大学院生、市民活動家など13名で委員会がつくられている。
 副教材のための第1回国際会議は、2002年8月にソウルで開催。その後、各国を持ち回りで開催され、2005年1月末の東京での会議で10回を数える。第1回会議では、私たちがつくる副教材は、近現代史に焦点をあて、通史ではなくテーマ別の内容にする、これまでの各国の教科書のような自国中心の歴史ではなく、東アジアの視点で歴史を見る、ナショナリズムを超えて世界市民的な立場から歴史の共有をめざす、などで合意した。その後、取り上げるテーマについて、大項目、中項目、小項目やコラムについて議論を重ね、それらについて最終的に合意ができたのは、2003年11月のソウルでの第5回会議である。ここで各国がどこを分担して原稿を書くかも合意ができた。

●構成と特徴
 以上の合意をもとに、各国が担当した原稿を書き上げ、その後の国際会議で原稿を検討し、意見や注文を出し合い、それにもとづいて原稿を修正して持ち寄って検討するという作業を続けてきた。合意した副教材は全体を次の六章で構成している。
 序 章 開港以前の3国
 第一章 開港と近代化
 第二章 「大日本帝国」の膨張と中韓両国の抵抗
 第三章 侵略戦争と民衆の被害
 第四章 第2次世界大戦後の東アジア
 終 章 東アジアの平和と友好を求めて
 ここからもわかるように、日・中・韓3国の歴史を東アジア史のなかに位置づけて認識できるようにし、国境を超えた歴史の見方を提示することをめざしている。
 本書の特徴は次の五つにまとめることができる。
(1) 東アジアの過去の葛藤・対立を未来に向けて超えるための初めての試み―19世紀半ばの開港・近代化への出発から、日本の侵略・戦争をへて現在までの、文字通り東アジアの近現代史を扱い、未来への課題を展望する。
(2) 多様な視点を取り入れ、共存の未来への歴史叙述を提示―女性、少数者、庶民などの視点を豊富に取り入れ、権力者・強者の一面的視点の歴史を克服し、多様な見方ができる歴史叙述を提示する。
(3) 日中韓3国のメンバーが共同で編集し、各国の言語で同時に刊行―日韓など2国間の取り組みは、これまでもあったが、日中韓3国で共同編集し、分担執筆して一つの本にまとめ上げるのは、この本がはじめてである。
(4) 開かれた視野から歴史を見、3国それぞれの立場を尊重した歴史叙述を提示―狭いナショナリズムにとらわれた自国中心の閉鎖的な歴史認識に対し、3国の国内状況と相互関係に目配りした歴史叙述を提示する。
(5) 読みやすい叙述、わかりやすい内容に配慮―見開き2ページを基本として、問題を投げかけながら、3国の近現代史をわかりやすく語り伝える。中学生からおとなまで興味をもって読み、考えることのできる内容である。(共通教材発刊「賛同呼びかけ」より)。

 これまで、日韓、日中という2カ国の歴史対話や歴史副教材づくりの試みは行われてきたが、私たちのような3国での共通歴史副教材づくりは歴史的にもはじめてのことである。2国間でも大変な作業なのに、それを3国で行うことには予想を超えた困難があった。これまでの各国の歴史研究や歴史教育・教科書の違いによる認識の違いを克服することが重要な課題になった。例えば、日清戦争・日露戦争など過去の戦争に対する見方、明治維新や3・1独立運動など個々の歴史的事件の見方・とらえ方など、3国によってかなり異なっていることが明らかになった。
私たちは、対等・平等の原則を前提に、お互いの立場を尊重しながら、粘り強い議論を通じて、それらの見方やとらえ方の違いについて意見を調整することをすすめてきた。各国が分担執筆した原稿を5回の国際会議で章ごとの分科会で議論し、意見を付けあって修正する作業を続けてきた。こうした議論や交流を通じて、3国の関係者は真の友人関係になってきたことも大きな収穫であった。そして、日本の「つくる会」教科書問題への取り組みや、この共同での共通歴史副教材づくりを通じて、中国・韓国でも自国の歴史教科書を見直す活動もはじまっている。

●2005年5月同時発刊
 さて、この『日本・中国・韓国=共同編集 未来をひらく歴史―東アジア3国の近現代史』)は、2005年1月末の東京での第10回国際会議で第5次原稿の検討を行った。現在、第6次原稿の最後の調整作業をすすめているが、原稿を完成させ、同じ内容を3国の言語で、5月に27日に同時発売することになっている。日本では、「つくる会」や地方議員などによって歴史教科書や平和教材・平和教育に対する卑劣な攻撃が行われているので、この副教材を公立の中学・高校で採用してもらうことは困難だと思われる。したがって、市販が中心になるが、私立学校での採用を積極的に要請する予定である。
 5月29日には出版記念のシンポジウムも企画している。これについては、以下を参照していただきたい。 http://www.linkclub.or.jp/~teppei-y/tawara%20HP/2003.10.31/1.html
 多くの方が、「つくる会」教科書とこの副教材を読み比べていただき、アジアの平和な共同体づくりを担う子どもたちや市民に、どちらの歴史を学ばせたいかを考え、議論していただきたいと願っている。この副教材は、2005年の「つくる会」教科書の採択を阻止する活動にとっても有力な材料になると確信している。

●日本国憲法の理念に合致した『未来をひらく歴史』
 日本国憲法前文は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないように決意し、…」「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」「…国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」「…いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない…」としている。そして、この理念を体現しているのが第9条であり、教育基本法である。
 私たちが発刊する『未来をひらく歴史』はこの憲法の理念に合致したものだと思う。こうした理念を実現するためには、何よりも、過去の侵略戦争と植民地支配の歴史を謙虚に反省し、2度と日本がアジア、世界の火種にならないようにすることが必要である。そのためには、東アジアの平和な共同体をつくるために、積極的な役割を担わなければならない。その前提として、アジア諸国、とりわけ東アジアの中国、韓国、「北朝鮮」と間で、過去の歴史問題を解決し、信頼と友好にもとづく過去史の克服が不可欠である。そのためにも、歴史認識の共有は大前提であり、『未来をひらく歴史』はそのための1つの教材として大きな役割を担うものであると確信している。

◆俵義文(たわら よしふみ)さんのプロフィール

1941年 福岡県生まれ。大学卒業後出版社に入社し、1965年から故・家永三郎さんが提訴した教科書裁判の支援会員になり、1998年まで裁判を支える。また、職場の労働組合の役職を長く務める。1998年 家永教科書裁判32年の成果と運動を引き継ぐ新組織、子どもと教科書全国ネット21の結成に参加。事務局長に就任し、国内外で教科書問題のとりくみと講演活動などに携わる。2000年3月、定年前に退職して事務局長に専念し現在に至る。立正大学心理学部非常勤講師。
『ドキュメント「慰安婦」問題と教科書攻撃』(高文研)、『徹底検証 あぶない教科書』(学習の友社)、『歴史教科書 何が問題かー徹底検証Q&A』(岩波書店、共著)、『別冊・世界 歴史教科書問題 未来への回答―東アジア共通の歴史観は可能か』(岩波書店、共著)、『家永三郎が残したもの 引き継ぐもの』(日本評論社、共著)、『ちょっと待ったぁ〜!教育基本法「改正」』(学習の友社、共著)、『あぶない教科書NO!』(花伝社)、『教育基本法をかえる? なんでだろう〜Q&A』(学習の友社)、『とめよう!戦争への教育』(学習の友社、共著)など著書・論文多数。


 
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