法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

「憲法を子どもたちに教えたい」

2005年4月4日
仲井真司さん(高校教員)
「憲法を子どもたちに教えたい」
私は本気でそう思って教職を目指し、運良く私立高校の教員になることができました。
18年前、24歳の私は意欲満々。張り切って戦争放棄、国民主権、生存権などを子どもたちに語り始めました。でも、子どもたちは「憲法を教えられたい」でしょうか? コクミンシュケンやセンソウホウキに興味があるでしょうか?私は完全に空回り。全体の雰囲気は落ち着いた学校ですので、「授業崩壊」とまではいきませんが、私の授業は私語と教師への反発であふれることになりました。
「先生、だいぶ苦労してるね」「親からの苦情も来てるみたいだけど」
「・・・一生懸命なのはわかるが、あれじゃあ真面目な生徒がかわいそうだ・・・」

今思えば演説みたいな授業だったのですね。
だから、生徒の気持ちがつかめない。「こいつ、私たちのこと何もわかってないナ・・」と思った生徒たちは、自分の存在をアピールするために反抗するわけです。
教師になって2年目、担任になりました。忘れることができない初担任のクラスです。4月、たしかに「熱血型」の教師だから生徒たちは期待します。「いい先生みたい。」
ところが、生徒とのズレはどんどん広がっていくから次々にトラブルが発生します。
学級委員は誰から見ても、クラスをまとめる力を持った優秀な生徒でした。だけど、クラスの気持ちはバラバラになっていく。楽しいはずの行事もうまくいかない・・・。
その生徒が、一年の終わりに私に言いました。
「私はこの一年間を消してしまいたい。『一体、どういう先生だ・・』と思ってきた。だけど、いつかきっと、いい先生になると思うよ。」

こんなことを生徒から言われる先生って一体なんでしょうか?今思えば、我校の生徒たちは何て立派なのでしょう。
「憲法を教えるために教師になったのだ」・・この観念的な「理想的教師」は現実に打ち砕かれ、私にとって痛くて苦しい、教師としての出発点になりました。

でも、これって憲法について考えるとき結構大切なことじゃないかなあ、と今は思っています。憲法の一番中心にあるものは「国民主権」ですよね?
理念ではなく、ナマの現実で生きている一人一人の国民(もちろん、子どもから大人まで一人一人)が主権者であるということ。
私の勤める学校では伝統的に平和教育に力を入れてきました。被爆者や戦争体験者の講演を聞く機会は何度も設けて、そのたびに生徒たちはいい感想文を書いてくれます。戦争は絶対にやってはいけない、『一人一人の子どもの心に平和の砦をつくる』こと、結構できているのではないかと思います。
けれども、今の情勢の中で、不安があるのも事実です。
満州事変から敗戦まで、わりとていねいに授業をやった後でしたが、昨年夏に北京で行われたサッカーワールドカップの報道の後、生徒たちの感想の多くは「中国むかつく!」でした。もちろん、そうでない生徒もいますよ。
発表授業のとき、誰かが小林よしのりの「戦争論」をもとにして従軍慰安婦批判をすると、「そうだったのか」となってしまう。「戦争論」みたいな論調は以前からあったし、目新しいものではありません。それが、一般市民や高校生にすっと入っている現状が問題だと思うのです。

あるとき、戦後補償問題でレポートを書いて発表した生徒とこんな対話をしたことがあります。
(私) 「日本とドイツで戦後補償の問題が、こんなに違うのはなぜだろう?」
(生徒)「ドイツの人は、ヒトラーを自分たちが選んだ。民主的なワイマール憲法があってみんなに選挙権があって、ヒトラーを選んだ。だから、一人一人のドイツ人がヒトラーの独裁と戦争を引き起こした責任を感じているんだと思う。だけど日本は、天皇も軍部も自分たちで選んだわけじゃないから、責任があいまいになっているんだと思う。」
(私) 「ヘー。すごいね。よく調べたというか、考えを深めてるというか。だけど、それじゃあ、民主的な日本国憲法を持つ私たちは、ヒトラーみたいなのを選ぶところから始めるんだろうか。今の日本はそういう方向に、向かっているような気がするんだが・・。」
 
元日本兵として、中国戦線と沖縄戦を経て奇跡的に生還された方が、生徒たちに自らの体験を目に涙を浮かべて話されたあと、「戦争は絶対に繰りかえしてはいけません。今の日本は戦前と違って国民主権です。国に運命を決める主権は国民にあるのです。なのに、それがわかっていない・・」と、振り絞るように言われました。
憲法をめぐって危機的な事態になっています。主権は国民にある。この言葉をナマの現実と結びつけていくこと、それが今の私の問題意識です。

◆仲井真司(なかいしんじ)さんのプロフィール

名古屋市在住。私立高校教員。


 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]