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軍隊を持つことの弊害を考える

2005年2月21日
新垣勉さん(弁護士)

私は安全保障の問題を考える上で、アメリカの銃社会の現実が大変参考になると思います。アメリカでは銃を持つことが市民の「権利」になっています。安全は力によって守られるという思想がアメリカ文化の根底に流れているのですね。アメリカの女性には銃があるから安心だという人が沢山います。銃があれば乱暴されそうな時にも男性と対等に闘えると思う人が多いのです。日本では銃を持つことは“危険だ”と思われています。力によって安全が保たれるという考え方ではなく、むしろ武器を持たないほうが“安全だ”というのが日本の発想なのですね。アメリカとは正反対です。
ところで、アメリカでは銃によって毎年たくさんの死亡者が出ています。1992年の統計では銃による死亡者は2万3760名となっています。死亡した事情を分析した資料をみますと、ギャング麻薬がらみの事件は4%くらいで、不法な侵害を撃退するために銃を使用して死亡した事例、いわば正当防衛による死亡の比率はわずかに数%と報告されています。銃による人の死亡事案の中で一番高いのは口論が高じて銃で相手を撃ち殺した事例で、その率が29%となっています。銃を持つことで自分の安全がより守られるという考え方は一面では正しいかもしれませんが、それを制度にしたところ、現実には銃の所持を認めることによる弊害の方が大きく出ていることをアメリカの銃社会の現実は教えているのですね。ですから安全保障の問題を考える場合にも、一面だけを見るのではなく総合的にバランスよく考える視点が重要だと思うのです。
日本国憲法9条をめぐる安全保障の問題を考えるときにもこのような視点が必要だと思います。北朝鮮などが日本に攻めてきたとき、軍隊がなければ日本を守れないという人がいます。そうかもしれません。強盗が入ってきたときに銃があったほうが相手を撃退する可能性は高いかもしれません。それと同様のことが言えるかもしれませんね。しかし、銃の所持を制度化したことによりアメリカ社会に生じた「大きな弊害」と同じように、軍隊を制度として取り入れることにより生じる「大きな弊害」の問題も考えなければなりません。軍隊を持つことを制度化することが良いのか、それとも軍隊を持たないことが結果として良いのか、総合的にバランスよく考えなければなりません。ややもすると、この視点忘れて「極限状態」(日本が侵略されたらどうするか)だけを見て議論をする人がいますが、それは部分的局部的な見方で、軍隊を制度化することによる制度的・社会的な弊害を見る総合的全体的考察の視点を忘れてはいけません。
私は安全保障の根幹は「信頼」だと思います。安全保障にとって「相互の信頼関係」が決定的に重要なのです。日本の安全保障を築く最大のポイントは、諸外国との信頼関係を築くことです。日本が諸外国との信頼関係をつくっていく上で大切な3つの問題点があります。
第一に、誤ったことをしたときには「謝罪」をすることです。これは信頼関係を築くための第一歩です。しかし日本は、太平洋戦争においてアジア諸国に大きな被害をもたらしながら謝罪していません。謝罪を行って初めて胸を開いた会話ができ、信頼関係が生まれるのです。謝罪は「信頼」を築く、すなわち安全保障を築く出発点なのです。
第二は、近所づきあいと同じで、相互が交流しコミュニケーションを図ることによって「信頼」が生まれるものです。しかし日本は、被害を与えた国に謝ることをしなかったため、これを行うことが大変不十分でしたし、遅れました。現在問題となっている北朝鮮との間では積極的な対話・交流ができていないのですね。
第三は、「信頼」を得るためには約束したこと、自分が決めたことは守るということが必要なのですが、日本政府は自分が決めた最高法規である憲法を守ろうとしてこなかったという点です。日本国憲法9条には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と明確に書いてあるのに、政府は「法律解釈」という名の下に憲法を守りませんでした。政府が自分の国の憲法を守らずに他国に対して「信頼して欲しい」といっても、外国が日本を信頼しないのは無理もないことです。
このように、日本政府は自ら安全保障の要とも言える「諸国の信頼をえる努力」を怠ってきました。これを行わないまま「軍事力」に頼って安全保障を実現しようとするのは、どこか主客転倒した考え方ではないでしょうか。
私は国会の憲法調査会の公聴会で意見を述べましたが、公聴会の時に、政府は自分がつくった憲法をどれだけ活かす努力をしたのかという質問が会場から出されました。政府関係者は答弁に窮していました。自分がつくった憲法を活かす努力をして、その上で憲法に問題があるので改正したいということならばともかく、自らは憲法を生かす努力をしないで、ただ不都合だから変えたいと言ってもそれでは誰も納得しないのではないでしょうか。

伊藤塾での講演内容から)

◆新垣勉(あらかき・つとむ)さんのプロフィール

1946年生まれ。1968年、中央大学法学部卒業。1973年、弁護士登録。1976年、コザ法律事務所開設。

・反戦地主弁護団 ・代理署名拒否訴訟大田知事弁護団 ・米軍等による不法行為被害救済の立法運動を推進 ・沖縄弁護士会常議員(現) ・日本弁護士連合会人権委員(元)・日本弁護士連合会有事法制問題対策本部副本部長(現) ・沖縄弁護士会会長(2003年度) ・日米地位協定改定の実現を求めるNGO事務局長(現) ・普天間基地爆音訴訟弁護団 団長(現)

著作:「沖縄はなぜ基地を拒否するのか」(共著・新日本出版社)、「日米地位協定」(共著・岩波ブックレット554)


 
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