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立川反戦ビラ事件無罪判決と表現の自由

2005年1月31日
内田雅敏さん(弁護士・東京弁護士会)
聞き手 事務局

立川反戦ビラ事件無罪判決

―立川反戦ビラ事件について、昨年12月16日に無罪判決が出されました。この事件は、平成16年1月と2月に、「自衛隊のイラク派兵反対」などと記載したビラを防衛庁立川宿舎の各室の玄関ドアの新聞受けに投函した3名の行為が住居侵入罪に問われていた事件です。判決は控訴されています。訴訟を担当された内田先生に、裁判の感想を伺います。
内田 この事件は本来起訴されるような事例ではありません。例えばピザ屋のチラシなどの配布はよくて、イラク反戦ビラはいけないというのはおかしいのではないかという素朴な疑問があります。公安警察の暴走です。検察はそれを制御しなければならないわけですよ。ところが検察はそのまま起訴しました。そこで裁判所も判断せざるをえなくなり、形式的には住居侵入の構成要件該当性はあるが、実質的にみれば刑事罰をもって臨まなければならないほどの強い違法性はないと判断しました。ビラの内容などからみる被告人らが立ち入った動機の正当性や、時間帯、滞留時間等立ち入った態様の相当性などをかなり丁寧に分析しています。極めて当然な判決だと思いますよ。極めて当然なことを今の裁判所はなかなか受け入れてくれないなかで、今回裁判所は法の支配や立憲主義の破壊に対して踏みとどまってくれたという気持ちです。
 判決理由では明確には述べられていませんが、このビラはイラク戦争に対する反対を狙い撃ちにした選択的、政治的な起訴であるという配慮が働いていると思います。
 なぜこのようなことで逮捕されるのかということを、法学者が早々と声明を出したり、朝日新聞や東京新聞等が社説や特報面で取り上げたりなど、いろんな人たちの力があって初めて無罪判決まで来たわけです。
 
―判決の問題点としてはどんなことが指摘できますか。
内田 ビラの中身が自衛隊に対する誹謗、中傷ではなく、自衛隊をイラクに派遣することに対する当否に過ぎないと言っています。このように国論を二分するような問題ではなくもう少し少数派的意見だった場合はどうなのかという問題があります。2番目の問題として、ビラを受け取ることについて不快感を持つならば、ビラに書いてある発行者の宛先に対して連絡すればいいのに、最初からいきなり逮捕、拘留、起訴というのはやりすぎではないかといっています。ではそのような警告を十分にした上で、逮捕、拘留、起訴すれば妥当だったのかという危険性があります。それから、テント村の性質はごく普通の市民団体だといっています。普通の市民団体ではなかったのならいけないのかという問題もあります。もっとも裁判所は、控訴審でも破られないようにということを意識して書いているとは思います。

最近表現活動に対する締付けが強化されている
 
―この事件で逮捕者を出した昨年ごろから、表現活動に対する締め付けが一段と強くなっているようですね。
内田 社会保険庁の職員が、日曜日に「赤旗」を配ったことが、国家公務員法の政治的行為の制限条項違反として起訴されました。あるいは東京板橋の高校の卒業式の開始前に同校OBが「日の丸・君が代」の強制に反対である旨の発言をしたことに関して、威力業務妨害罪で起訴されたりしています。卒業式が始まる前に「君が代のとき皆さん方が立つと座っている先生が処分されるから、立たないで下さい」と呼びかけたのであり、卒業式そのものには全くといっていいほど支障はありませんでした。昨年末には、東京の葛飾区で、共産党の都議会報告書を配っていた人を住民が取り押さえ警察に突き出して、これも起訴されています。これらの動きは、底が通じ合っています。本当に大変な社会になってしまったのだろうという気がします。
 立川の件でも、逮捕・拘留・起訴だけが問題ではなくて、毎回の裁判の際、裁判所の近くに立川警察と警視庁の公安が10数名必ず来て傍聴者をチェックしていました。判決のあった日の夜の集会のときも、近くの交差点の所に10数名の公安がいました。公安が事件を作り出しているという感じがします。
 オウム事件のときに、刑法や刑事訴訟法から見ればとても無理だと思われるようなことが、住居侵入罪などで無茶苦茶な逮捕、起訴がされましたね。しかしオウムだから仕方ないということであまり非難の声は出なかった。そういうことを見過ごしてしまった私達の社会が、オウムによって復讐されているんじゃないかという気がします。ナチズムによる弾圧の最初は共産主義者で、次が社会主義者でした。大方の人はまだ大丈夫だって思っていたら、その後自由主義者がやられました。同じような流れになってきているのではないでしょうか。

―わが国は自由で民主的な国家だとされていますが、自由や民主主義の中核である政治的表現行為についてはもともと制限が厳しいですね。
内田 最近ではNHKの国際民衆法廷の記録の放送が、政治的な圧力で事前に改ざんされましたね。他方では、保護法益が異なる住居侵入罪のような条文で政治的表現活動が制限されています。

―先生は、憲法調査会市民監視センターの事務局長として「憲法について広範に調査する」目的で設置された憲法調査会を監視してこられました。憲法調査会では、今指摘されたような表現の自由の制限の実態についてきちんと調査されていましたでしょうか。
内田 政治的表現の自由、とりわけ政府の行為を批判する自由という権利が十分に機能しているかどうかについての検証はされていませんね。

自衛隊員の政治的行為には目をつぶっている

―ところで、先生は東京地検に対する告発状を準備されているそうですね。
内田 はい。公務員の政治的行為の制限に対する国の態度は極めて恣意的です。昨年10月15日に、陸上自衛隊の幹部が、元防衛庁長官で当時自民党憲法改正案起草委員会座長だった中谷元衆議員議員の依頼を受けて、勤務時間中に憲法改正草案を作り提出しました。草案には、自衛隊を「自衛軍」として憲法に明記すべきであり、現行憲法上許されていない集団的自衛権の行使について憲法改正することによって、これを可能にすべきだと主張するなど,公務員の憲法尊重擁護義務(憲法99条)に反する行為をしています。これは自民党の憲法改正草案大綱に盛り込まれました。
 かつては、三ツ矢作戦とか、来栖統合幕僚会議議長の超法規発言という自衛隊員の政治的発言については、厳しい批判を受けました。しかしその時代と違って今度はあまり批判されません。今回防衛庁は文官である内局ではなく、制服である陸上幕僚監部の幕僚による身内の調査委員会の報告書にもとづく幕僚長による口頭注意処分しかしませんでした。一方では社会保険庁などの末端の公務員や一般民衆の政治的な発言を制限しておきながら、他方では自衛隊員のそのような行為については目をつぶっており、著しく偏頗な対応をしています。国家公務員法102条の政治的行為の制限の規定違反の罰則は、3年以下の懲役または10万円の罰金です。ところが自衛隊法61条1項による自衛隊員の政治的行為制限規定に違反した場合は、3年以下の懲役または禁固であり、罰金刑の規定はありません。それだけ自衛隊法違反の方が重くなっています。自衛隊員は実力組織の一員だからです。
 それなのに自衛隊員に対しては非常に甘い処分に止まっています。法の支配、立憲主義、シビリアンコントロールが空洞化されてきています。1月20日、件の自衛隊幹部と中谷元防衛庁長官を、自衛隊法違反で刑事告発しました。

憲法改正論議における「表現の自由」の取扱い

―公職選挙法では自由主義国家では珍しいほど選挙運動について厳しく制限しています。
内田 公職選挙法でいえば、立川の無罪判決を契機として、戸別訪問の禁止規定や最高裁の合憲判決をもう一度見直すべきだという意見も出ています。個別にビラを配布することと選挙活動として訪問することとは同じような問題ですね。さらに発展して、憲法改正国民投票法案の問題があります。国民投票のために憲法改正について意見を表明し運動しようという場合、公職選挙法の厳しい制限規定をそのまま使おうとしています。公職選挙法は、もともと政治家になろうとする者の違法な選挙活動を制限するという所から出発しています。憲法改正の国民投票に際しては広く国民の意見が反映するようにしなくてはならないのですから、公職選挙法の規定を横滑りさせるという発想自体が間違いです。
 
―今、政党などの改憲案を見ると、「知る権利」や「情報開示請求権」など、表現の自由をより保障しようという意見が主張されていますね。
内田 よく言われているように、「新しい人権」は憲法9条の改正を通すための「目くらまし」として使っているわけです。しかし、実はそれに止まらず、人権の総則規定で「公共の秩序」を強調するなどして、「新しい権利」についても実質的には制限する危険性があるのではないでしょうか。改憲案を見ると、憲法13条などを生かして日本国憲法の創造性を発揮させてきた判例の到達点をさらに進めるというのでなく、逆に制限するという方向が認められます。

―「創憲」を唱える民主党は、昨年6月の同党憲法調査会「中間報告」で、「憲法を国民の手に取り戻す」と主張しています。
内田 そうすると、今憲法は国民の手にないのかと、押し付け憲法論とどこに違いがあるのかという気がします。民主党は、一方で「基本的人権尊重」と言いながら、現実には今まで「日の丸・君が代」の問題で、学校でどのような処分が行われ憲法番外地となっているかということについてほとんど発言していません。むしろ民主党のある突出した東京都の議員が推進しているという気がします。言っていることとやっていることが違うんじゃないかと思いますね。教育基本法についても、民主党自身は何も言っていないでしょう。沖縄などの基地問題についても同様です。

◆内田雅敏さんのプロフィール

1945年、愛知県生まれ 1975年、東京弁護士会登録
日本弁護士連合会人権擁護委員会委員、日弁連接見交通権確立実行委員会委員長等を経て現在、日弁連憲法委員会委員、日弁連有事法制問題対策本部事務局次長、東京弁護士会憲法問題協議会副委員長。
 弁護士としての通常の業務の他に、花岡事件、香港軍票問題などの戦後補償請求裁判に取り組む。
東京女子大非常勤講師(「現代社会と人権」2003年〜)

○主な著書
「弁護士―?法の現場の仕事人たち」(講談社現代新書)
「『戦後補償』を考える」(講談社現代新書)
「《戦後》の思考―人権・憲法・戦後補償」(れんが書房新社)
「憲法第9条の復権」(樹花社)
「懲戒除名―?非行弁護士を撃て」(太田出版)
「敗戦の年に生まれて―ヴェトナム反戦世代の現在」(太田出版)
「在日からの手紙」(姜尚中氏との共著・太田出版)
「憲法9条と専守防衛」(箕輪登氏との共著・梨の木舎)


 
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