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今週の一言

 

かけがえのない自分を生きよう そのために憲法を「獲得」しよう

2004年12月13日
田中伸尚(たなか・のぶまさ)さん(ノンフィクションーライター)
伊藤真(法学館憲法研究所所長)

 田中伸尚さんは、憲法で保障された権利を現実のものにするために、裁判などで闘っているたくさんの人々のドキュメントをお書きになり、現在も「週刊金曜日」に「不服従の肖像」を連載中です。ご著書の「憲法を獲得する人びと」や「憲法を奪回する人びと」をご覧になった方も多いと思います。法学館憲法研究所の伊藤所長と対談していただきました。

■生きるために憲法を「獲得」していく

伊藤 田中さんが憲法に拘っていらっしゃる動機というか、きっかけのようなものは何でしょうか。
田中 新聞記者を10年ほどやって、その後出会った最初の大きな事件が山口の自衛官合祀拒否訴訟でした。原告の中谷康子さんはクリスチャンで、彼女の信教の自由に国家権力が突然土足で入り込んでくる事件が起きました。中谷さんは高校卒で、しかも憲法はほとんど学んだことのない人でした。中谷さんは、自分の心が侵されていることは許しがたいとして、異議申し立てをしました。彼女が異議申し立てをしなければ、この事件は当然なかったわけですね。しかも中谷さんは実務家である弁護士や裁判官にも問題を提起したのだと思います。私はこの方によって憲法というものを教えられました。これが非常に大きなきっかけとなりました。
 その後いろんな事件、いろんな人に出会うなかで、常にどこかで憲法を意識して作品を書くようになりました。
伊藤 憲法という抽象的なものが先にあったのではなくて、一人ひとりの生活や生きざまなり、信念なりがまずあって、田中さんがいろいろとお調べになり、お話をいろいろ伺っていくなかで、憲法にたどり着いたという感じですか。
田中 そうですね。中谷さんにしても、最初に憲法があるからやったのではありません。そこが私は大事だと思います。私の言葉で言うと、生きるなかで憲法というものをいわば「獲得」していったのだと思います。
伊藤 イギリスとかフランスでは、市民が自由、平等を獲得しようとして戦って憲法を得たわけですよね。日本ではどうしても上から与えられるもののように受け止められています。「これを学びなさい」とか言われて教えられるようなものなんですね。
田中 「学びなさい」という状態がずっと長く続いたと思います。そうじゃないんだということを感じるようになったのは、ある意味では憲法が非常に危機状態に陥るようになってからですね。いろんな人が気づくというふうになってきたんじゃないのかなと思っています。ですから、むしろこれからだと思います。
伊藤 そうですね。いままでは、上から与えられて学ぶもの。教養としての憲法。これからは現場でいろいろ苦しんだり、理不尽な目にあっておられる方が、自分たちが自分らしく生きるための道具としての憲法。まさにこれからこそが真の憲法の時代だと。
田中 そうですね。憲法は遠い存在ではない。実際は身近なんだと思えるようになってくれば、憲法の豊かさみたいなものが出てくると思います。

■「旅」、出会い、そして自分にとってかけがえのないものの発見

伊藤 いまの時代、どうしても、自分にとって譲れないもの、かけがえのないもの、というようなものを自分自身で自覚することがあまりなくなってきているように思います。ましてや、それを人に主張するなんてことは少ないですね。
田中 そんなことを言えば「何、言ってんの」とか、「とんでもない」みたいな冷笑的な反応が返ってくることが多いんじゃないですか。
伊藤 「何、わがままなこと言ってんの」とか、自分勝手なことを言っているととられてしまったりすることがあると思います。でもやはり、自分らしく生きるためには、自分で譲れないものを何か持っているということが、とても大切なことだと思います。
田中 若い方も、本当は譲れないものを持っていると思います。しかし、それに気づいてない。あるいは、気づこうとしないというのかな。気づくきっかけがないのだと思います。多分あまり自分を突き詰めて考えることをしないからでしょう。
 いま、私は本当のジャーニーというか、いっぱい旅をするんですよ。旅をするということは、ただ窓から景色を見ているとことだけでなく、人と出会うということこそその本質だと思っています。出会いを求めると、ものすごくいろんな発見があります。その発見の喜びというのは、年齢は関係ありません。
 この前、かつて自民党の国防族だった箕輪登さんにインタビューしました。今80歳の方です。会うまでは、ゴリゴリのタカ派だと思っていました。
 ところが、会ってみるとそうではないんです。ある意味では、専守防衛のゴリゴリなんですね。箕輪さんはイラク派兵違憲の訴訟を起こした後に、いわゆる平和運動、市民運動をやっている人たちと初めて接するわけです。それで彼が言ったのは、「平和運動をやっている人は、本当にいい人たちだね」「初めて知ったよ」と。80歳にして初めて彼は、そういう発見をするわけです。
 彼はそこで感動しているわけです。僕は僕ででそういう人に感動した。僕は、それが広い意味での「旅」だと思っています。
 ですから、旅をするというのは人との出会いです。出会いには必ず発見があります。憲法の問題も出会いによってどんどん身近になると思います。
 
■バーチャルな情報化社会―そこを突破する
 
伊藤 いまの日本の社会では、ある程度、当たり障りのない生活をしようと思えば、新たな出会いですとかね、旅をしなくても、そこそこ幸せに生きることができるじゃないですか。テレビを見たりとか。
田中 疑似体験でね。
伊藤 DVDなりインターネットなりでそこに行った気持ちにはなれますし、いろんな人の話を聞いた気持ちにもなります。まさに、バーチャルといいましょうか、そういう世界のなかでそこそこ幸せに生きられるものですから、どうしても生の事件とか、本物とぶつかってみたりとかを経験するチャンスが非常に少なくなってきました。その意味では、大人というか先輩たちが、そういう場をもっともっと子どもたちのためにも作ってあげないといけないのかなと思います。
 それから、憲法というのはなかなか実際自分が経験したくても、できないことがたくさんありますね。
 たとえば、生活保護を受けている方は135万人。日本で暮す外国人は200万人を超えます。しかし、それは100人に1人とか2人です。そんな中で憲法を学ぶには、田中さんがおっしゃったような経験とか、それからイマジネーションがすごく重要な気がします。
田中 そうですね。バーチャルな体験ができるという所で満足してしまっています。想像力そのものが奪われていると言えるかもしれないし、その射程を延ばすということさえもできないという状況がありますね。
 生の体験はもっとスリリングでエキサイティングです。現場に足を向ければ違うわけですよ。裁判でも、新聞に書いてあったりテレビに出てくるものと法廷で見聞きするのと全然違います。たとえば、証人の後姿とか、声とか、それから裁判官の席だとか、相手方とかね、そういうものを見て、彼がしゃべったこと、彼女がしゃべったことが初めて立体的に理解できるわけです。それはすごく面白いことだと思うんですよ。
伊藤 そうですね。いま情報化社会で、居ながらにして何でも体験できるようなことを言うじゃないですか。しかしそれはまさにスクリーニングされた情報でしょうし、情報が本当に豊富だというような勘違いを私たちは持ってしまっていると思うんですよ。
田中 その勘違いが勘違いだと自覚できないんです。誰かに言われてそれは勘違いだということを気づくというケースのほうが多いですね。
伊藤 映像が送られてくれば、「ああそうか」で終ってしまうんですね。イラク戦争の中のファルージャで視力を失った子どもだとかクラスター爆弾の破片が体のなかに入ってしまった子どもとか、サッカーをやりたかったのに傷ついた子どもとか、これからの彼の人生はどうなっていくんだろうかとかいうことも含めて、いろんな想像力を働かせると辛くなってしまうんですけどね。現実は写真に写っているベッドの中に横たわっている子どもの絵だけじゃないわけですよね。
田中 それは切り取られた場面だけですね。その背後には無数の現実があるわけですよ。しかし、イラクの写真やなんかを見ても、それがイラクのすべてであり十分だと錯覚させる情報しか与えられていません。しかしそこはやっぱり突破していかなければならないと思います。むろん、それには誰かが積極的にならないとだめなのですが。
伊藤 そこから逃げちゃいけないですよね。
田中 最近ある大学での講演でこんな話をしてきました。与えられたものは、全体のなかのごくごく一部にしか過ぎないんだ、100あるうちの1つだけ与えられ、残りの99っていうのは自分たちが知らないことなんだ、あるいはその1つの背後にあることが重要なんだということに気づいてもらいたいと。大学などで話すときは、だいたい若い方でしょ。そうすると目の輝きがぜんぜん違いますね。極端に言うと、初めて聞いたみたいな。
伊藤 本当にそうだと思いますよ。
田中 すごく生々しく感じられるんでしょうね。
伊藤 そういうことが大切なんだぞと気づかせてくれる大人も、いまの時代少ないんだと思うんですよ。大人は大人で、自分の生活をどうするかという情報を獲得するだけで手一杯で、子どものことなんかにまで手が回らないというのがありますからね。

■立憲主義の「危機の10年」

田中 最近、私は「危機の10年」という言い方をしていますが、立憲主義というものがこの10年ガタガタになってしまったと思っています。政治を担当する人たちが立憲主義を放り投げているような感じがします。
 箕輪登さんが根底的に問いたいとおっしゃっているのは、一つは歴史認識の問題です。それと立憲主義の問題です。自衛隊の存在は認めるけれども、それは外へ行っては絶対いけないものなんだ、専守防衛なんだと憲法にある、それは最低限守らなければならないと言っている。それを平気で破ってしまうのは許せないと言っています。
 ところが、メディアは結局のところ、箕輪さんが元国防族であったとか、タカ派であったとかいう、表面的な伝え方をするわけですよ。そうすると、多くの人たちはそういう見方で見てしまうわけでしょ。
伊藤 いまの日本社会で、立憲主義という言葉をきちっと意識して使おうとする人だとか、それを自覚しようとする人というのは、すごく少ないと思いますね。まだ明治憲法の時代のほうが立憲改進党とか立憲民政党とかね、立憲ということを政党の名前に冠してみたりしていました。いまは、「立憲」という名がつく政党は思いつきません。「民主」という言葉はたくさん使っていますが。
 権力に歯止めをかける、強い者の横暴を許さないという立憲主義の根本の価値観がいまほど揺らいでいるときはないだろうと思います。そういう立憲主義の思想をこの国が理解していないということになると、国際社会からまともに相手にされなくなるんじゃないかと思います。いくら軍備を増強しても、まわりは立憲主義を理解していないような危ないところは勘弁だと、多分言うと思いますよ。
田中 そのことがほとんど気づかれてないといってもいいかもしれませんね。
伊藤 民主主義と立憲主義のバランスといいましょうか、立憲主義の根底があってはじめて民主主義が成り立つんだというようなことを、もっともっと、伝えていかなくてはならないと思います。

■「勇気と希望の配達人」

伊藤 ご著書のタイトルも、憲法を「獲得する人びと」から「奪回する人びと」へと変わっていますね。
田中 それは、事態がより深刻化しているという思いがあるからなんです。
伊藤 でも、きょうの話をうかがってみて、いまやっと、市民の側から1人ひとりが、自分を取り戻すといいましょうか、自分らしさを取り戻すために、憲法を獲得する活動を始めている、そういう芽生えがあちこちに出てきているかなと思います。
田中 確実にあると思いますね。
伊藤 押さえつけられれば押さえつけられるほど、逆に市民の本来持っているエネルギーがこれから出てくる時期なのかなという期待が私なんかにはあります。
田中 そういう希望の芽というものが間違いなく私はあると思いますね。
伊藤 田中さんは、ご著書の授賞式で、私は「勇気と希望の配達人」であるとおっしゃっていましたね。たいへん価値のあるお仕事だと思っています。今日はどうもありがとうございました。

◆田中伸尚さんのプロフィール

1941年東京都に生まれる。67年慶応義塾大学卒業後、朝日新聞記者を経て、現在ノンフィクション・ライター。
 著書。『自衛隊よ、夫を返せ!』(現代書館、現代教養文庫)。『ドキュメント昭和天皇』(全8巻)、『戦争の記憶 その隠蔽の構造』(以上、緑風出版)。『大正天皇の「大葬」--国家行事の周辺で』、『一九二八年、「御大典」の裏側で』(以上、第三書館)。『よりよい医療を「買う」ために』、『なぜ医療が信用できないか』(以上、社会思想社)。『遺族と戦後』(共著)、『日の丸・君が代の戦後史』『靖国の戦後史』(以上、岩波新書)。『政教分離』(岩波ブックレット)。『反忠--神坂哲の72万字』、『さよなら、「国民」』、『天皇をめぐる物語』(以上、一葉社)。『教育の靖国』(共著)、『生と死の肖像』『合祀はいやです。』(以上、樹花舎)。『憲法を獲得する人びと』『憲法を奪回するする人びと』(以上、岩波書店)ほか 
  『週刊金曜日』に、教育ドキュメント「不服従の肖像」を連載中


◆伊藤真さんのプロフィール

1958年生まれ
1984年弁護士登録
1995年、憲法を実現する法曹養成のため「伊藤真の司法試験塾」を開業。弁護士業務を休業して指導に専念。
・法学館憲法研究所所長。
・憲法の理念を広める講演活動も各地で行っている。

【主な著書】
『憲法のことが面白いほどわかる本』(中経出版、2000年)
『憲法のしくみがよくわかる本』(中経出版、2001年) 
『自分を信じて ゆっくり進め!』(ダイヤモンド社、2002年)
『伊藤真の憲法入門』(第3版)(日本評論社、2004年)    
『伊藤真の明快!日本国憲法』(ナツメ社、2004年)


 
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