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今週の一言

 

「グローバリズムの終焉」の始まり

2004年12月6日
金子 勝さん(慶應義塾大学経済学部教授)

ブッシュ再選:最初の効果

 米国大統領選の結果の判明を待つように、11月5日にファルージャ空爆が始まった。この日、ファルージャに住むイラク人ジャーナリスト、ファディル・バドラニは英BBCの電話インタビューに答えて「(米大統領選は)生死の問題だった。多くの人々は、ジョン・ケリーなら、このように私たちの町を攻撃することはなかっただろうと感じていたので、彼が勝つことを願っていた」と語る。総攻撃の最中、バドラニは、10日に「行く所はどこでも、壊された建物と死骸」だと言い、11日には「噴煙と死骸」と題して「街路には死んだ女性と子供が横たわっている。人々は飢えから衰弱している。町には医療救済が全くないために、多くが負傷から死んでいる」と伝えている。そして13日には「(町は)ゴーストタウンだ」と述べている。
 さらに、NBCテレビのカメラクルーが撮影した、モスクにおける負傷した市民を銃で撃ち殺すシーンを、アルジャジーラはノーカットで放映し、多くのアラブの人々がそれを目撃している。ブッシュ再選が最初にもたらしたのは、誰の目にも明らかなイラクでの大量殺戮であった。
 だが、小泉首相は、11月9日に米軍などのファルージャ総攻撃を治安安定の努力と位置づけて米国支持を明言した。12月14日に自衛隊のイラク派遣の期限切れが迫り政府与党内部からも慎重論が出るなか、10日の国会の党首討論において、小泉首相はイラク復興支援特措法が定める「非戦闘地域」の定義について「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域だ」と、爆笑問題のコントまがいの発言を国会で堂々と繰り広げている。
 一方、ファルージャ攻撃に加わったイラク治安維持軍として、米軍はクルド人を利用したのではないかと言われている。クルドとスンニ派の対立が煽られるだろう。またシーア派のシスターニ師は動かなかった。選挙で多数を握れると読んでのことだろう。今後はスンニ派・シーア派の対立が一層激化するに違いない。だが、仮にシーア派が選挙で多数を占めたとしても、イラクは内戦の様相を呈するかもしれない。さらに、米国はイラク国内で石油と軍事基地を目的にしているので、長く駐留しようとするだろうが、それに対する反発も強まろう。要するに、イラク国内はひどい混乱に陥る。そのなかで、37カ国の有志連合のうち、すでに11カ国が撤退ないし撤退を表明している。
 
亀裂と不安定の時代へ

 ブッシュ再選のもう一つの効果は、政権がますますブッシュの狭いグループに限定されつつあることである。何よりも、政権内でかろうじてバランスを保とうとしたコリン・パウエルを退け、コンドリーザ・ライスを国務長官につけた。ネオコンによる単独行動主義はますます強まるだろう。またアシュクロフト司法長官の後任にアルベルト・R・ゴンザレスが就いた。ゴンザレスは、ブッシュがテキサス知事時代からの親しい知り合いでテキサス州検事など要職を歴任し、人権無視のテロ容疑者尋問を支持する人物として知られている。たとえば、六月一三日付け英『テレグラフ』紙では、アブグレイブ刑務所を作った人物として報じられている。さらに宗教右派から、同性婚や妊娠中絶の禁止が強まっており、今後予想される連邦最高裁判事の任命にも圧力が加えられている。米国の「自由と民主主義」は岐路に立たされていると言ってよい(アンドリュー・デウィッ/金子勝「ネオコンからテオコンへ 新ブッシュ政権の下で何が起きるか」世界2005年1月号参照)。
 ブッシュ再選が、予想通り、世界に亀裂と不安定を作りだしている。この間、欧・中・ロは、軍事・通貨・エネルギーで緊密な協力関係を築きつつある。それは米国の覇権に対する明確な挑戦だと考えられる。筆者は、『長期停滞』と『経済大転換』(ともに、ちくま新書)の中で、ITバブル以降、グローバリゼーションは第3局面に入ったと述べたが、いよいよ歴史は新たな段階へと進みつつある。端的に言えば、時間はかかるが、アメリカニゼーションが世界を食い荒らしたグローバリズムの時代は終わりつつある。そして世界は、急速に一極支配から不安定な多極構造へと進み始めている。アンドリュー・デウィットとの共著『反ブッシュイズム3』(岩波ブックレット)の副題が示すように「世界は後戻りできない」。だが、米国人はブッシュを選んだ意味をまだ自覚していない。
 
愚かな孤立への道

 隣国中国は明らかに、こうした流れをつかんで戦略的に動いている。だが、小泉首相との会談で、中国首脳は靖国参拝問題を持ち出してきたことで、日本のメディアは反中国キャンペーンを繰り広げている。その効果もあってか、11月29日の日本経済新聞において、18、19日に実施されたインターネットによる調査の結果が掲載され、「中国が嫌いになった」と答えた人が34%に上ったと伝えている。ここでは、アジアで中国不信が高まっていると書かれているが、ほとんどデタラメに近い。
 むしろ、ここのところ、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙では、週に2、3回、中国がアジアでのアピールを強めていることが報じられている。たとえば、11月18日付けのニューヨーク・タイムズの記事“China Spread”では、アジア地域でアメリカの影響力が低下し、中国のソフトパワーが高まっていると述べている。特に、アセアンの中心となるシンガポール、マレーシアなどからインドに至るまで、イスラム教が多い国では中国の姿勢が歓迎される一方で、米国への不信感が高まっている。しかも、日本は必ず米国に従うと考えられているため、記事の中で言及すらされていない状態である。つまり小泉外交は、外国メディアでは相手にもされていないのだ。
 日本の人々も、小泉を選んでいる歴史的意味が分かっていない。小泉政権はイラク戦争に賛成して協力し、かつファルージャでの大量殺戮を容認した。加えて、米軍再編では、もはや協力しなくなった欧州(NATO)に代えて、日本を一つの中心にしてアジアからアラブ地域(いわゆる「不安定の孤」)に至るまで、米軍と連合軍化して「防衛」しようと言うのだ。こうした状況の下で、靖国参拝は、ドイツのシュレーダー首相がナチス幹部の墓を参るのと同じように映る。小泉首相が国際的に(なかでもアジアで)孤立するのは当然であろう。外交をしない日本と違って中国は外交をする。外交は正当性で争うものなのだ。これでは国際的に通用するはずがない。アジアでの日本のイメージは失墜しつつあり、中国はアジアで完全にイニシアティブを握り始めている。
 さらに試練は、ドル安にどう対処するかという形で目の前にやってきている。ブッシュ政権は無責任な「双子の赤字(財政赤字と貿易赤字)」のたれ流しをドル安で調整しようとしているが、日本だけが米国債を買い続けて支えざるをえなくなるかもしれない。このままブッシュと心中路線を突き進めば、気がついた時は日本の居場所は世界のどこにもなくなっているのだろう。憲法改正の動きは、こうした日本のリーダーたちの無能の裏返しとして出てきていることを忘れてはならない。
(2004年12月2日)

◆金子勝教授のプロフィール

1952年生まれ。慶応義塾大学経済学部教授。専攻は財政学、地方財政論、制度経済学 。広く経済や政治に関する時事的な問題について朝日新聞の「論壇時評」やテレビなどで活発に発言し、「憲法再生フォーラム」などにおける講演活動も展開している。

【主な著書】
『市場と制度の政治経済学』(東京大学出版会、1997年)
『反グローバリズム』(岩波書店、1999年)
『市場』(岩波書店、1999年)
『セーフティーネットの政治経済学』(ちくま新書、1999年)
『反経済学』(新書館、1999年)
『「福祉政府」への提言』(神野道彦氏との共編著、岩波書店、1999年)
『財政崩壊を食い止める』(神野道彦氏との共著、岩波書店、2000年)
『長期停滞』(ちくま新書、2002年)
『逆システム学 市場と生命を解き明かす』(児玉龍彦氏との共著、岩波新書、2004年)
『月光仮面の経済学―さらば、無責任社会よ』(朝日新聞社、2004年)


 
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