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最近の改憲論議とその問題点
―常任理事国入りのために9条改憲?

2004年10月25日
山内敏弘さん(龍谷大学教授)

 憲法の改正論議が、近年とみに活発になってきている。昨年の衆議院選挙では自民党が改憲を掲げただけではなく、従来は「論憲」を言っていた民主党も「創憲」を掲げたし、公明党も「加憲」を提唱している。2000年に国会に設置された憲法調査会は、来年春には最終報告書を提出する予定という。憲法改正国民投票法案も、来年の通常国会には上程される可能性が高いといわれている。
 
 このような改憲論議の主要なターゲットが憲法9条にあることは周知の通りである。しかも、9条改憲論の中身は、自民党が今年6月に発表した「論点整理」によれば、単に自衛隊を憲法的に認知するだけではなく、集団的自衛権の行使を認め、さらには国民の国防協力義務をも明記する点にある。民主党が発表した「中間報告」では、「国連憲章上の制限された自衛権」を認めるとしているが、これは集団的自衛権の行使を否認する趣旨ではない。また、同「中間報告」は、国民の国防協力義務については言及していないが、有事法制に賛成した経緯に照らせば、この点でも自民党との違いは程度問題のように思える。なお、公明党も、新たな運動方針では「新しい人権」に加えて、9条についても「加憲」の姿勢を打ち出している。

 しかし、このような9条の改定が、日本のみならず、アジア地域の平和と安定にとってプラスになるのかといえば、私見では否である。現在でもすでに日本の軍事大国化が危惧されている状況の中で、9条の改憲はアジア地域の緊張を激化させることになるであろう。それだけではない。9条改憲論の狙いの一つが国民の国防協力義務の導入にあることに照らせば、改憲によって国民の人権が大幅に制限されるのは必至であろう。昨年来の有事法制の制定で有事における物資の保管命令違反等に対する罰則規定は導入されたが、業務従事命令違反に対する罰則は見送られた。国民保護法でも、国民の有事訓練拒否に対する罰則は見送られた。憲法に国防協力義務を導入することは、これらの罰則規定(さらには、徴兵制)を導入することを憲法的に認知することを意味するであろう。

 もっとも、9条改憲がこのような意味合いをもつことを多くの国民も察知しているように思われる。各種の世論調査でも9条の改憲には反対の意見が多数を占めていることがそのことを示している。そこで、このような国民世論を変えていくための方策として打ち出されてきたのが、最近の安保理常任理事国入りの話である。アメリカのアーミテージ国務副長官やパウエル国務長官が相次いで、日本が安保理常任理事国になるためには9条改憲が望ましいという趣旨の発言したことは、国民の間にもある大国意識をくすぐり、常任理事国入りのためならば9条改憲もやむなしという方向に国民世論を変えていくことを狙ったものと思われる。

 しかし、日本の常任理事国入りについては中国などからの反対が予想されるだけではない。常任理事国になったとしても、日本の対米追随外交の現状からすれば、「アメリカの二つ目の投票権」になるにすぎないであろう。そもそも、常任理事国にのみ拒否権を付与する常任理事国制度そのものが「主権平等」をうたう国連憲章の原則からすれば、矛盾をはらむものであり、廃止の方向で検討されるべき制度である。現にそのような観点からの国連改革案も出されている(拙著『人権・主権・平和』参照)

 日本政府は、現在の時点では、現行憲法の枠の中で常任理事国入りを目指すとしているが、しかし、常任理事国になった場合には、政府は、ほぼ確実に、常任理事国としての責任を果たすためには日本も多国籍軍や平和維持活動に積極的に参加して武力行使を行うことが必要であり、そのためには9条の改憲が必要と主張するであろう。現に、国連憲章自身が、47条で常任理事国の参謀総長等からなる「軍事参謀委員会」の設置を定め、この軍事参謀委員会が「安保理事会の下で、理事会の自由に任された兵力の戦略的指導について責任を負う」と規定している。軍事参謀委員会は現実には必ずしも機能していないとしても、このような制度が存在する以上は、常任理事国入りが9条との関係で微妙な抵触問題を惹起することは明らかであろう。

 アメリカが対イラク戦争に示されるように国際法を無視して「単独行動主義」に走っている状況の中で、国連の役割はきわめて重要といえよう。それだけになおさらのこと、特権的な常任理事国制度やそれと結びついた軍事参謀委員会制度を見直し、国連における民主主義と法の支配の確立を目指すことこそが、本当の意味での国連改革になるというべきであろう。常任理事国入りのための9条改憲ではなく、平和憲法の理念に即した国連改革こそがいま日本と国際社会のために求められていることを銘記すべきと思われる。

◆山内教授のプロフィール

1940年山形県生まれ。
獨協大学教授、一橋大学教授を経て、現在、龍谷大学法学部教授。
法学館憲法研究所客員研究員。

【主な著書】
『平和憲法の理論』(日本評論社、1992年)、
『憲法判例 を読みなおす』(共著・日本評論社、1999年)
『有事法制を検証する』(編著 ・法律文化社、2002年)
『人権・主権・平和』(日本評論社、2003年)
『新現代憲法入門』(編著・法律文化社、2004年)



 

 
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