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大統領選挙を控えたアメリカより 〜 ロースクールへの留学

2004年10月18日
伊藤和子(弁護士)

 今秋から1年間、日本弁護士連合会の派遣で、ニューヨーク大学ロースクール(NYU law)客員研究員としてニューヨークに滞在しています。2009年からスタートする裁判員制度下での刑事司法に役立てるために、ニューヨーク州のチーフ・ジャッジのご協力を得て陪審制度・刑事手続を調査していますが、その一方でロースクールでは国際法・国際人権法・開発と司法支援の研究に携わる日々です。NYU lawでは最先端の国際法・国際人権法の知識を得ることができ、また私の所属するグローバル・パブリック・サービス・プロジェクトでは、世界の公益弁護士と一緒に、各国の人権状況と人権活動について意見交換する機会に恵まれています。NYU lawには30人以上の日本人学生がいますが、企業法務を学ぶ学生がほとんどです。たくさんの日本の企業弁護士が留学をして力をつけている一方で、人権分野の弁護士の留学は極少数という実情には驚きました。人権分野の活動をしようとする皆さん、留学は国際水準の人権活動や知識を得、視野を広げるまたとない機会ですので、是非機会をつくって留学されることをお勧めします。

大統領選挙を控えたアメリカ

 ところで、アメリカは4年に一度の大統領選挙を今年11月に控え、激動の時期にあります。 2000年にブッシュ政権が誕生してからアフガン、イラクで多くの人命が失われ、今も悲劇が続いています。一方で9.11以降アメリカ国内には「愛国法」という法律が成立し、いとも簡単に市民を逮捕し、盗聴などの人権侵害も許されるようになり、自由が抑圧されています。ブッシュ政権がさらに4年間継続するのか否か、大きな議論になっています。

 私が渡米してまもなく8月下旬に、NYで共和党大会が開催されましたが、大会前日には40万人がNYに集まってNOブッシュのデモンストレーションが行われました。その前後にも本当に多くの市民が多彩なプロテストを展開しました。ところが、警察は平和的なプロテストに対し「愛国法」を適用し大会期間中だけで1800人という大量の市民を逮捕しました。このうち約500人の逮捕を裁判所が違法と認めて釈放しましたが、その他の市民の裁判は進行中です。この出来事に象徴されるように、アメリカを変えようという躍動的なグラス・ルーツの力と、それを止めようとする力が今、ダイナミックに動き、衝突しています。

 9.11から3年目を迎える今年の9月11日には犠牲者を痛み、平和を求める様々な行動がありました。数少なくない9.11の遺族の方々が、報復でなく平和的解決を、と訴えて「ピースフル・トゥモローズ」(http://www.peacefultomorrows.org/)という市民団体をつくり、アフガン、イラクへの戦争に「私たちの名において人を殺すな」と反対し、アフガニスタンやイラクの戦争被害者と交流を重ねるなどの活動をされています。彼らは、9.11の前後数日間、ボストンからニューヨークまでの長距離を、平和を訴えて歩く「ストーン・ウォーク」を実行しました。日本からも、NGOピースボートが9.11にあわせてNYに入港し、NYの市民団体と一緒に、NYリバーサイド教会で平和セレモニーを開催しました。セレモニーでは、広島の被爆者から託された火を9.11遺族の方が受け取り、「アメリカが暴力の道、世界からの孤立の道を断ち切って世界と友情を再び取り戻すことを求める」とスピーチされました。深い痛みをもった方々の声だけに、とても感動的でした。

 今夏には、アブグレイブ・グアンタナモでの拷問の経過に関する機密メモが全て公開され、ブッシュ大統領や国防総省など政権中枢が拷問・虐待にゴーサインを出していたことが明らかになりました(http://john.hoke.org/archive/2004/06/torture_memo_pr.php)。9月中旬には、国連のアナン事務総長が「イラク戦争は違法だった」と言いきり、先日は、米大量破壊兵器調査団が「イラクに大量破壊兵器はなかった」という最終報告を発表するなど、イラク戦争に対するブッシュ政権の責任は客観的には明らかになっています。

 しかし、それがすぐにアメリカの世論に結びつかないのがこの国の複雑なところです。アメリカでは共和党大会と9.11を終えて、ブッシュ支持が急増し、ケリー支持は凋落しました。ケリーは共和党大会直後にブッシュのイラク政策を強く批判しはじめ、「4年以内にイラクから米兵を撤退させる」と演説し、それ以降、支持が急落しました。最近少しケリーの支持が回復しつつあるという状況です。9.11当日には保守的なメディアが「華氏9.11」(マイケル・ムーア監督)に対抗する巧妙な世論誘導番組をつくって放映し、かなりの影響を与えましたし、メディアでは「テロに強い姿勢で立ち向かわない者はアメリカの指導者としてふさわしくない」という論調が強まっています。このままでは、ブッシュが再選される危険性もかなりある、という状況です。


中国とインドから留学しているロースクールの仲間と

 世界の7割がブッシュ不支持だ、というのに、何故だ?と思うみなさん、是非、アメリカの普通の市民のハートに落ちる言葉で、世界の願いを伝える方法を考えられないでしょうか? アメリカの中間層・浮動票層の市民は、根は悪くないと思うのですが、ブッシュ政権誕生後の4年間、イラクやアフガニスタンでどんなに多くの人々が殺され、苦しんでいるのか、実感・想像できない人々がまだまだ多いと思います。イラクが泥沼化すればするほど、恐怖がアメリカ人の心に渦巻き、武力行使を辞さない強いリーダーを求める悪循環がうまれます。アメリカ人にしか、ブッシュ政権を終わらせる直接の選挙権はない、そしてそれが、世界にとって、たくさんの人命に関わる本当に大切な機会だということを、アメリカの中間層に一人でも多く知ってもらいたい、と思います。私もここNYで、ネットワークを広げ、近々日本から「平和の投票」を呼びかけにNYに来るアーティストの方々もいますが、アメリカに来なくても、日本から、世界から、アメリカの友人にメールなどでメッセージを送って世界の願いを伝える、そんな行動ができないだろうか、と思います。ひとりひとりのグラス・ルーツが集まって、世界を変えることができれば、とても素晴らしいことだと思います。

◆伊藤 和子(Kazuko ITO)さんのプロフィール

弁護士。「劣化ウラン廃絶キャンペーン」呼びかけ人。イラク拘束事件で被害者・家族代理人として活動。これまで、米軍基地被害の裁判や、子どもに対する商業的・性的搾取禁止、アフガニスタン国際民衆法廷など、平和・国際人権問題に関わって活動。また、刑事冤罪事件の経験から刑事司法制度改革・司法への市民参加の実現に携わる。
日弁連司法改革実現本部幹事 日本国際法律家協会理事 自由法曹団前事務局次長
2004年8月よりニューヨーク大学客員研究員。



 

 
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