| (聞き手) 今回は、難民認定を求めるクルド人の裁判にかかわっている弁護士の細田はづきさんにお話を伺います。まずは、クルド人の方たちのおかれた状況について教えてください。
(細田弁護士) クルド人は、国をもたない世界最大の民族です。第一次世界大戦時に、イギリスはトルコを倒すためにクルド人を利用しました。しかし、オスマントルコ崩壊後、欧州列強の中東分割統治のなかで分断され、新たにイラク、イラン、トルコなどができましたが、結果的にクルドとしての独立はかないませんでした。
トルコでは、1923年の建国以来、クルド語やクルド文化を否定し、激しい同化政策を展開してきたため、1984年に、クルドの自由と独立を掲げたクルディスタン労働党(PKK)がついに武装蜂起し、トルコ政府軍との間で内戦が勃発しました。それをさらに政府は抑圧したため、PKKはテロ組織のようになってしまったのです。
トルコ国内にいると迫害される恐れがあるため、クルド人は難民として国外に脱出するようになりました。トルコから日本へはビザなしで渡航できることや、トルコやイラクにいる日本のNGOの評判がとてもよいこともあって、日本は良い国でみんな親切だと思い、日本に来る人が多いのです。 (聞き手)
本件のジランちゃんの父親も、トルコから日本へ政治的迫害を理由に逃げてきたトルコ国籍のクルド人なのですね? (細田弁護士)
そうです。ただ、この一家は、ほかの難民事件とは少し事情が異なります。というのも、この父親の場合、同じクルド人に対して銃を向けることはできないことを理由に徴兵を拒否したに過ぎず、難民として認められやすい事情、たとえば、トルコ国内でPKKの一員として政治活動を行っていたというような事情はないのです。
しかし一方で、特殊な事情もあります。ジラン一家は、お父さん、お母さん、3歳になる子供(ジランちゃん)の3人家族なのですが、母親はフィリピン人の厳格なカトリック信者の家に生まれ育ち、イスラム教徒と結婚したために実家から絶縁されており、フィリピンで一家3人が暮らしていくことはもとより、母親とジランの2人でさえも迫害される恐れがあります。他方、トルコで3人が生活することも、クルド人が日常的に迫害されている現在の状況では、非常に危険なことです。
なかでも一番の問題点は、ジランちゃんが日本で生まれ育ち、家族で使う言語も100%日本語であるために、ジランちゃんは日本語しか理解できないということです。
このように、家族が3人揃って生活できる場所は日本以外にはないのです。それにもかかわらず、入管は、父はトルコへ、母と子供はフィリピンへ帰れと言っています。
(聞き手) 現在はどういった状況にあるのですか? (細田弁護士)
現在は、両親とも仮放免されています。母親の方が先に出てきました。両親が入れられているときに、会いに行ったジランちゃんが不安定な状態になってしまい、入れられている母に対し、「なんで鍵をあけてくれないの」と泣き喚いたりするようになってしまったのです。また、父親の方はヘルニアがひどくなり、尿がまったく出なくなってしまいました。手術が確実になった時点で、入管は手術費用を出したくないのか、仮放免になりました。今は小康状態で、仮放免も継続しています。
しかし、父親は就業することを禁止されており、現在は、支援者のカンパなどによって何とか生活が成り立っている状態です。今後、父親の手術費用をどうするかも含めて、頭の痛い問題です。
諸外国の例では、就業禁止処分がなされている場合には、別途生活費を与えたり、反対にお金を出さないならば、一時的に就業禁止を解くなどの措置が採られています。
日本の入管行政のやり方は、まるで兵糧攻めのような、いじめのようなことをして、健康状態が悪化して根をあげるのを待っているかのようです。 とにかく、この一家にはそういう特殊な事情があるので、裁判では、家族統合の利益、子供の権利といったところを主張していきたいと考えています。 (聞き手)
家族統合の利益というのは、ビルマ難民のキンマウンラさんの裁判などでも論点として発展してきたところですよね(キンマウンラ事件については、「難民訴訟」(4)も参照してください)。ポイントは、オーバーステイであろうか何であろうが、家族離散をさせてはいけないというところになりますか? (細田弁護士)
そうですね。日本も批准している子供の権利条約9条には、親からの分離禁止という規定があります。日本に生まれ育って日本語しか解さないジランちゃんを中心に、主張を構成することになるでしょう。そのためにも親を離散させてはならないという。他にも、信教の自由による構成も考えられます。
国は、どんな外国人を受け入れるかについて広範な行政裁量を有しているとされていますが、追い返されることによって生ずる当該外国人の不利益と、とどまらせることによって生ずる当該国の不利益を比較衡量したうえで、当該外国人を受け入れるかどうかを判断せよとする比例原則が、外国において用いられた事例が多くあります。この場合には、難民認定を迫るというよりは、むしろ、在留していること自体を許せというような主張になると思われます。高裁・最高裁は外国人の受け入れに対して消極的な姿勢を採っているので、どうしようか悩んでいるところです。
裁判自体は、裁決の取り消し、退去強制令書の取り消しを求めるものです。弁護団会議では、法務大臣の段階で裁決を認める決定をしたとしても、入管が裁決に反して、難民性を認める可能性はあるかということが議論になりました。つまり、法務大臣の裁決が出たとしても、入国管理局の退去強制令書を出さなくてもよいのか。その可能性があるならば、私たちの主張する相手の範囲が広がりますからね。
さらに、日本の場合、第三国への出国を認めないことも大きな問題です。 (聞き手) 今後、弁護団の方針としてはどのようなお考えなのでしょう? (細田弁護士)
なるべく引き伸ばしてジランちゃんの成長を待ちたいという想いもありますが、あまり引き伸ばすこともできません。家族統合と比例原則を軸に、家族全体が一つのところで暮らしていける権利を主張していきます。これがだめだったら私たちは別の方法を考えていかなくてはなりません。 (聞き手)
裁判外でも、クルド人の難民問題を知ってもらうために色々と活動をされているそうですが。 (細田弁護士)
クルド人の難民問題については、日本では知らない人がほとんどです。交流会などの機会を設けて、多くの人に知ってもらうための活動は今度も行っていきます。同時に、法廷外では立法政策の取り組みもあわせてやってゆく必要があります。事実上の問題として、日本はこの先、外国人を受け入れていくしかないという現実があるわけです。違法な滞在をせざるを得ない彼らの立場を利用し、労働させておいて賃金を払わない雇い主がいるなど、問題は深刻化しています。怪我をして病院に運ばれたが、医療費が払えない彼らの手術を医者が拒否し、死んでしまった事件。同じく医療費が払えないがために風邪をこじらせ死んでしまったなど、多くの非人道的なことが日本の政策の結果として起こっているのです。
在日外国人に対する政策を、なんとか変えてゆくために、今後も頑張りたいと思います。 (聞き手) どうもありがとうございました。
■ジラン事件訴状(PDF) ■ジラン事件署名のお願い(PDF)
■ジラン事件署名用紙(PDF)
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