法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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今週の一言

 

「活憲」を楽しくやろう(要約版)〜特派員の眼で見る憲法9条

伊藤千尋 さん(朝日新聞外報部記者)
聞き手  事務局

朝日新聞記者として

―伊藤さんは最近まで朝日新聞のロサンゼルス支局長でした。新聞や週刊金曜日などの記事、狛江市で50回以上続けておられるトークショー、「朝日ニュースター」のキャスター、「憲法フェスティバル」でのトークなどを通してファンはいっぱいです。新聞記者のお仕事のことを少しお聞かせください。
(伊藤)記者になったのは1974年で、今年で30年になります。このうちの20年くらいは国際報道をやっています。最初特派員になったのは、1983年からのサンパウロ支局長です。88年に朝日新聞社で『AERA』という雑誌が創刊されたときは編集メンバーでした。
2001年から今年の4月までの2年半はロサンゼルスの支局長をしていました。中米とカリブ海まで担当していました。
 この間、各地で戦争や内戦、革命を取材してきて、社会を変えるっていうのは、普通の人々が自分の力を出そうとしなければ変わらないんだということを実感してきました。

9条は人類の宝物

―憲法9条についてはどうお考えですか。
(伊藤)僕は、9条っていうのは、本当に宝物だと思うんですよね。日本にとって宝物だし、それ以上に人類にとっても宝物だと思います。たとえばこの憲法研究所で出している浦部法穂先生の本に、歴史というのは戦争の歴史であると書いてある。確かに、人類の歴史って、戦争の歴史でもあるわけじゃないですか。ところが、同時に、戦争をやめたい、戦争じゃなくて平和な状態を求めるという歴史でもあったじゃないですか。
 戦争を避けようとして、人間はいろいろ工夫してきましたよね。そういう人類の平和への思いの集大成として、こうあれば国家同士が戦争をすることがなくなるというものが、この日本国憲法に凝縮されています。すなわち、世界の全部の国がこの憲法を持てば、戦争はなくなります。そういう意味では、長い長い人類の歴史がようやく辿り着いた英知だと思うんですよ。それを持ってるのが、なんと我ら日本である。これはね、とっても喜ぶべきことじゃないですか。それがいま、なくなろうとしている。なくすようなものではなくて、逆にもっとアピールするものだと思っています。

―今9条を変えようという意見が盛んです。日本にとってなぜ9条がいいのか、私たちに伝わってきていない面があるのではないでしょうか。
(伊藤)そうですね。現に、この平和憲法があったので、日本は半世紀以上戦争をしていない。いまのこの世界で、半世紀以上戦争をしてない国ってあんまりありませんよ。戦争をしてないことによって、日本はいまの平和・繁栄があるわけじゃないですか。若い人は今までのものは古臭いと思っている、変えたいという意識はどうしても働きます。何を変えて、何をそのまま残すべきなのか、あるいは残すというよりも発展させるべきなのか、そこをきちんと押さえるべきでしょう。

―憲法は押しつけられたという意見も強いですよね。
(伊藤)押し付けというのは、悪いものを押し付けたられたときにいうことなんだと思いますよ。押し付け押し付けという人は、憲法はいいものだという認識がないんだと思うんですよね。腹が減ったときにご飯をもらったら、それを押し付けとは言わないですよね。

コスタリカの永世非武装・積極的中立を宣言したモンヘ元大統領

―憲法9条は、世界ではどの程度知られていますか。
(伊藤)世界ではどこに行って知られてないですよね。それは、日本側からこれをアピールしていないということが大きいです。政府は全然それをしない。むしろ、なくしてしまいたいと思っている。だったら、市民の側が、自分たちで広めるということをしなくちゃいけないと思うんですね。そういう意味では、この憲法研究所っていうのは、とっても素晴らしいものを立ち上げられたと思うんですよ。
 いま、イラクの戦争もあるし、アフリカや南米でも内戦がまだ続いているところがありますね。こういう所って、ともかく力が強い者が勝ちだという考え方に立っているでしょう。これをやっては、世界はいつまでも戦争がなくならないですよね。結局、誰かが力で押さえようとする。そうすると、押さえられたほうは必ず反発してきて、相手をやっつけようと。戦争はもう広がるばっかりじゃないですか。そういう所の人たちにも、実はそうじゃない考え方があるんだよと知らせることによって、日本人って、すごい世界・人類への貢献ができると思います。

中南米事情 ―中南米は今どんなようすですか。
(伊藤)たとえば、グァテマラでは36年間内戦をして、20万人が死にました。内戦が終われば、もうそれですぐ平和なのかというと、そうではありません。36年間もお互い武器を取り合って対立していた人のわだかまりってなかなか解けないんです。96年に内戦が終わってもう8年経ちますけれども、お互いに「あいつが俺の親を殺した」という人が現に生きているわけですよ。そうすると、そういう憎しみというのが、今の世代が生きている間はずっと続いてしまうわけです。内戦、戦争でものを解決するという考え方っていうのは、一人の人間のなかでは一生続いてしまうわけですよ。

コスタリカってどんな国?

―最近、中米の国コスタリカがよく話題になっていますが…。
(伊藤)コスタリカは、日本国憲法によく似た平和憲法を持っています。中米の内戦を終わらせたのがコスタリカなんですよ。コスタリカのアリアス大統領が、内戦をやっている国々をまわって、内戦がいかに愚かかということを諭して、中米地域の3つの国の内戦が終わりました。彼はその功績で、1987年にノーベル平和賞をもらいました。

コスタリカでは選挙の大切さを子どものときから教える。大統領選挙のさいに小学生がもぎ投票をするのもその一環だ。

―コスタリカでは子どもたちに憲法をどのように教えているのでしょうか。
(伊藤)僕がすごいと思ったのはね、中学校、高校の授業に行ってみたんですよ。日本の場合は憲法第1条がなんで、第2条がなんで、それは覚えなさいとか、そういう形で教えるでしょ。コスタリカの場合そうではなくて、身をもって憲法を使わせるような教育なんです。たとえば、先生が生徒の前で、世の中ではいろんな喧嘩があるでしょう、このクラスでも友達同士でも喧嘩がある、家の中でも夫婦喧嘩とか兄弟喧嘩とかあると。そういうのを、どうやったら一番うまく解決できるんでしょうねと言って、勝手に討論させるわけです。すると、生徒はね、それは強いもの勝ちだから喧嘩してやるんだとか、いや、喧嘩したらお互いに痛いからやっぱり話し合いをするとか、いろいろディスカッションやりますね。そういうなかから、やっぱり結局は、対話してお互いに納得するのが一番いいなという結論を導き出す。そこではじめて先生が、やっぱり対話というのが一番大事なんだと、みなさんの喧嘩もそうだと、だったら国のいろんな対立も、結局は話し合いで解決するというのが一番いいことですねっていう、そういう調子でやるわけですよ。
 それから、コスタリカですごいと思ったのは、平和、平和ということを言うだけじゃなくて、平和以前にまず重視するのが基本的人権なんです。これもきわめて実践的です。
 日本のように憲法は第何条が何だから、それを覚えなさいとか、そんな教育じゃなくて、憲法っていうのはいかに身近なものか、それをどうやって使うのかということを日々の授業でやっています。
 
9条を世界に広めることの意味

―9条を世界に広めるということは、日本にとってはどういう意味をもつのでしょうか。
(伊藤)グローバリズムの世の中になって、要するに強い者が勝ちであるというアメリカの価値観が世界の共通の価値観なんだというような意識をアメリカは広めています。イラク戦争もこの価値観で行われています。今イラクではアメリカから爆撃されて、フセインの手先とかいわれている人だけでなく、子どもを殺された一般の市民もアメリカ兵に復讐しているわけでしょ。アメリカの価値観をそのままグローバリズムで広めてしまうことは、人類にとっては破滅だと思うんですよ。そういう時代だからこそ、憲法9条の考え方を世界に広めることの意味があると思います。これを広められるのは、日本とコスタリカしかないわけです。

―日本にとってイラク戦争はどんな意味を持っていますか。
(伊藤)イラク人は、もう反日反米になってしまっていますよね。イラクに自衛隊が行って、人道支援してるんだから,喜ばれてるだろうと、普通にそう思いがちですよね。しかし、向こうの人の目に映っているのは、軍服でよその国へ出て行って、よその国の領土に、日本の基地を作っているという軍隊ですよ。
 日本は今まで、中東地域でとっても評判がよかったんですよね。それは、中東だけじゃなくて中南米でも同じだからよくわかるんですけれども、なぜ評判がいいかというと、日本人は金は出すけど口は出さないという実績を作ってきたからですよ。
 それがね、今回アメリカの手先という形になって、日本の軍隊が出てきた。いったいなんだ日本は、と。日本の正体はこれなのかって、今、疑問に思われているんですよ。
 これからアメリカが未来永劫に渡って中東の支配権を握るというんなら別ですが、そうじゃない。それなのに、どうしてわざわざ中東の人々の怒りを買うような行動をするのか、逆効果です。

―特派員として外からご覧になっていて、日本が発信するメッセージは重みがあるとお感じですか。
(伊藤)ありますよ。外国の新聞で、日本のニュースが載るのは唯一経済の話だけですよね。なぜかというと、経済力はあるからです。それしか取り上げられないというのは悲しいですよね。一頃エコノミックアニマルという言葉がありましたけれども、日本人というのは金儲けのことばかり考えていると思われています。
 日本はそうじゃないと、わが国は世界平和の先頭に立ちますということを言えば、世界はちゃんと新聞に載せるし、テレビでも伝えます。経済的な力を持っている国が、実はこういうことを言わんとしているんだ、こういう国を目指してるんだということをアピールすると重みがあります。

護憲から活憲へ

―伊藤さんは、「活憲」を唱えておられますね。
(伊藤)よく、護憲、憲法を護るということを言いますけれども、護るっていう概念はあまり好きじゃない。なにか目標を定めて、勝ち取るものじゃないと。オリンピックの金メダルだって、それに向かって自分の体を鍛えるとか、技術を磨くとか、そうやってはじめて金メダルをとれますよね。
 具体的には何か。憲法を活かすことですよ。「活憲」ということを主張している。いまの憲法はせっかくいいものなのに、輝いていないという思いがあります。曇っています。

―「日本国憲法を活かす」って、どういうことなのでしょう。
(伊藤)たとえば基本的人権、日本では会社をクビになって、多くの人は泣き寝入りしているじゃないですか。また、有給休暇が取れるという規定があるのに、なかなか使わないですよね。会社に勤めている人は、労使の協約で決められていることをちゃんと使いましょうねっていうことです。
 それから、平和憲法。普段の争いごとを対話で解決していきましょうという風潮を社会でつくりあげることです。まわりでいろいろ喧嘩しているときに、見てみぬふりをするとか、そういうことが平和憲法を壊すわけですよ。ちょっと待てと、なぜ喧嘩するんだ、お互いに傷つくんじゃなくて、まず話し合おうじゃないかということを普段の生活でわれわれが実践することです。なにもデモすることが、平和憲法の道じゃないですよ。普段の生活で、対話という精神を根付かせる、実践するということが結局、平和憲法につながっていきますよ。

楽しくやろう

―伊藤さんのお話を聞いていると、なんだか元気が出てきます。
(伊藤)あらゆる発展している会社、NGO、家庭、みんな明るいじゃないですか。楽しくやるからもっとやりたいとか、そういうエネルギーになりますよね。物事を悲観するから暗くなるんであって、悲観したら物事は達成できません。結局人間って、なんでもそうだと思う。楽しくやらないと長続きしない。長続きしないものは達成されないですよね。逆に言うと、達成したいと思ったら、長続きさせないといけない。長続きさせるためには楽しくやらなければならない。楽しくやるってことがコツだと思うんですよ。だったら、楽しくやれるように、工夫しなきゃいけないですよね。まず大事なことは、これは、楽しいことなんだという、自分の確信ですよね。
 運動を広めることも楽しくやることですよ。例えば、今ごろのデモの仕方も変わってきたじゃないですか。街中をしょぼしょぼ歩くんじゃじゃなくて。この前のロスの反戦デモでは、踊りながら歩くというパフォーマンスもあったり、見てて楽しいんですよ。楽しいとですね、沿道の人たちが、何で彼らはこんなことをしてるんだろう、いやに楽しそうだなあと、じゃあ自分も加わってみようかとか、そういうことになるわけですよ。運動を楽しくやろうというコンセプトが必要なんですね。

◆伊藤千尋さんのプロフィール

1949年生まれ。1974年朝日新聞社に入社。長崎支局、筑豊支局、東京本社外報部等を経て、1984年〜87年サンパウロ支局長。帰国して社会部員、「AERA」創刊時の編集部員の後、91年〜93年バルセロナ支局長。その後、NGO国際協力チームなどを経て2001年〜2004年4月ロサンゼルス支局長。現在は外報部記者。
 「朝日ニュースター」キャスターや「アジア記者クラブ」代表も務めた。狛江市内でトークショー「奇聞総解」を53回まで開催中。今年の「憲法フェスティバル」出演。
 紛争の現場に果敢に入り核心を伝える報道姿勢と、70か国近くの豊富な取材経験にもとづく明快な語り口には定評がある。
 主な著書は「燃える中南米」(岩波新書)、「観光コースでないベトナム」(高文研)、「フジモリの悲劇」(三五館)、「狙われる日本―ペルー人質事件の深層」(朝日文庫)、「闘う新聞―『ハンギョレ』の12年」(岩波ブックレット)、「歴史は急ぐ―東欧革命の現場から」(朝日新聞社)、「人々の声が世界を変えた!―特派員が見た『紛争から平和へ』」(大村書店)など多数。
 
公式サイト http://homepage1.nifty.com/CHIHIRITO/



 

 
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