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今週の一言

 

『にがい涙の大地から』

2004年7月19日
海南友子さん(映画監督)

(聞き手)
 今回は、『マルディエム −彼女の人生に起きたこと』『にがい大地の涙から』など、戦争責任や戦後補償に関するドキュメンタリー映画を撮られている海南友子さんにお話を伺いたいと思います。まず、いわゆる戦後補償という難しい問題をテーマにして、ドキュメンタリー映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

(海南さん)
 私の父は、昭和7年生まれの軍国少年でしたので、小さいころから戦争時の話、強制連行の話などを聞いていました。大学に入って東洋史を専攻し、アジアの国々を旅したのですが、旅先では、「君が代」を歌い出すおじいさんや、私が日本人だと知ると怒り出す人に出会ったりしました。それらの経験を通して、アジアにおける日本という存在を肌で感じたことが原点になっています。

(聞き手)
 大学時代は東洋史を専攻されたということですが、そのときすでに、前作の「マルディエム −彼女の人生に起きたこと」でとりあげた「慰安婦」問題を扱うきっかけなどはあったのですか?

(海南さん)
 大学では、東洋史のなかでも現代史、ずばり日本とのかかわりをテーマに扱いましたので、ゼミなどはほとんど戦争のことでしたね。卒論は、戦後の賠償問題をとりあげました。当時はまだ、「慰安婦」などの資料が公式にされておらず、政府の公式見解も、そのような事実を認めていなかったのです。これはひどいと思いました。私はもともとアジアが大好きなので、アジアの国々と仲良くしたい。仲良くするためには、日本とアジアの国の間にある、それぞれの問題が解決されなければならない。「慰安婦」にこだわっていたわけではありませんが、自分が女性なので、強制連行などに比べれば、女性として「慰安婦」問題に関心がありました。一人の女性として、とても許せないと思っていましたから。

(聞き手)
 大学卒業後は、NHKに入社されていますよね。その後、退社して、『マルディエム』を撮るまでの経緯などを教えてください。

(海南さん)
 私がNHKに入社したのは1994年です。翌95年は戦後50年ということもあり、局でも様々な企画がなされました。私自身、やりたいことができると思い、小さいものでしたが企画をだしたりしました。しかし、テレビだとやはり、その時期に一時は盛りあがるものの続かない。そして、ものすごく情熱と時間をかけて製作しても、基本的には一回放送されて終わってしまいます。会社をやめるときに、会社ではできないことをしようと漠然と思っていましたが、何かを決めていたわけではありません。インドネシアには、「慰安婦」のおばあちゃんに会いに行きたいなと思って行ったのです。最初から映画を撮る目的ではありませんでした。実際に現地に行き、おばあちゃんに会うと、ものすごくかっこよい人だった。そんなかっこよいおばあちゃんの人生を記録したいという思いから、カメラを回しはじめました。

(聞き手)
 そうして『マルディエム』ができあがっていったのですね。その後、海南さんは、今回の新作では中国の遺棄兵器の被害者の方を撮られていますが、それはどういった経緯だったのですか?

(海南さん)
 前作が重いテーマでしたので、次回はもっと明るいテーマにしようと思っていました。しかし、たまたま友人と中国に旅行したときに旧日本軍による遺棄兵器の被害者に会い、すごいショックを受けたのです。戦後補償の問題についてはかなり勉強していたのに、日本軍によって遺棄された兵器によって、戦後50年もたったいま、被害にあって死んでいる人がいることを、そのときまで知りませんでした。しかも、私と同じくらいの若い人たちが傷ついている。死んでゆく。彼らに出会ってしまった以上、撮らないわけにはいかないと思いました。

(聞き手)
 戦後補償というと、若い人の多くは「過去のこと」として、少なくとも自分自身に責任はないと考えるのではないかと思うのですが、その辺はどのようにお考えですか?

(海南さん)
 「若い人たちに戦後補償に関する責任はあるか?」という問いに対しては、少なくとも現在の政府の政策を支えているのが私たちである以上、その政府がとっている政策について、私たち若い世代にも責任はあると考えています。とくに、遺棄毒ガスなど現在進行形の被害は、今日政府が動いてこの問題に対処すれば、もうこれ以上被害はでないかもしれない。このことのもつ意味は大きいですよ。

(聞き手)
 新作の『にがい大地の涙から』は、すでに一部の地域では上映されているようですね。観客の方の反応などはどうですか?

(海南さん)
 これまでに京都と福岡で上映しています。大体100人前後の方が観にきてくださるのですが、一番多い反応は、「知らなかった」というものです。上映会といってもそんなに大々的に宣伝をしていたわけではありませんし、観にくる方々はどちらかというと、もともと戦後補償問題に関心ある人たちです。そんな人たちでさえも知らなかった。そして、「私に何ができますか」と聞かれることもあります。短縮版ビデオを10本くらい買って、周囲に配るといってくださる人もいました。一人でも多くの人に観てもらいたいので、年度末までに全部の県をまわりたいです。

(聞き手)
 海南さんは、ご自分の映画の各地で上映されるときに、できるかぎり会場に行って、上映会の後には
 ご自分の見てきたことなどを観客の方にお話されますよね。それはどういったお考えからでしょうか。

(海南さん)
 私の扱っているテーマは、重いし、暗いけれども、深刻にならざるをえないその問題を、一見そんなことをしていそうにない人が、実は真剣にやっているのだという良い意味でのギャップを大事にしたいと思っているのです。私はブランド物も買うし、何か特別な生い立ちがあるわけでもない。普通の人が日常生活の一部としてこういうことをやっているということをわかってほしい。それと、やっぱりお客さんとのコミュニケーションを大切にしたいという想いもあります。テレビだと、一度に万単位の人が見ることもあるわけですが、見た人の反応というのはダイレクトには聞こえてきません。でも、今は作品を通じて、お客さんの反応や、喜びや怒りも聞くことができて、それがとても楽しい。みんなが私の作品を見て同調する必要なんてなくて、そこで議論になることに意味がある。だから、これからも上映するときは、できるかぎり会場にでかけてゆきたいと思っています。

(聞き手)
 海南さんは、一人の人に密着した撮りかたをしているように思いますが、ドキュメントを撮る過程でこだわっていることなどはありますか?

(海南さん)
 マルディエムの場合はその人だけを深く追いましたが、遺棄毒ガスのときは、あの広大な中国の大地にものすごい数の被害者がいるために、複数の人を追いました。何の問題を撮るにしても、そこに生きているのは自分と同じ人間だという視点を大切にしたいと思っています。同時に、「かわいそうな人」というよりも、「一人の人間の一生を描く」という視点を大切にしたいと心がけています。基本的に、作品としては自分のやりたいことをやるだけなのですが、やはりせっかく想いを込めて撮ったものですから、できるだけ多くの人に見てほしい。そのため、PRでは工夫しています。ドキュメンタリーだと、どうしても身内だけで観るような感覚があるけれど、普通の映画と同じような感覚で広めたい。たとえば、マイケル・ムーアの作品なども、フライヤーなどにとても工夫がされているのですね。きれいなフライヤーを作るとか、そういったレベルのことから、商品としてちゃんと宣伝していこうとは思っています。

(聞き手)
 今回の作品は、中国でも反応があったそうですが?

(海南さん)
 中国ではいま、遺棄兵器の問題はとても大きく報道されています。いってみれば、日本でいう拉致問題のようです。両事件とも、平和な時代における被害というところで共通していますよね。今回の作品は、中国の中央電視台でとりあげてもらい、私はインタビューも受けました。こういう問題は、放置したらいつまでも残るし、いつまでも消えない。新たに拉致され続けているのと同じだと思うんです。それくらい深刻なのです。

(聞き手)
 海南さん自身、観客の方の反応で印象に残っているものなどはありますか?

(海南さん)
 インドネシア本国で『マルディエム』の上映をしたときは考えさせられましたね。加害国の人がなんでこんなことをやっているのかという質問は、インドネシアでも中国でも何度も聞かれました。そして、国と国との関係はあるけれども、個人でやることによって受け入れてもらえるきっかけになるということに、とても励まされました。それと、自分のつくった映画をみて、若い女の子が泣いているのを初めてみたときはびっくりしました。自分の映画の影響力を知ったというか。そういう人たちが何かを感じて、何らかのアクションにつながっていったらいいなと思います。

(聞き手)
 今後は、ドキュメント以外のものを撮ることもあるのでしょうか?

(海南さん)
 今後もドキュメンタリーしか撮る気はないです。最近は、マイケル・ムーアの影響もあるのでしょうが、ドキュメンタリーを見る土台というのができあがり、社会的認知度も高まってきていますね。私は、極端なことをいうと、映像には興味ないのです。たまたま時代がこんな感じだから文字情報よりも映像となってしまいますが、手段が映像であるというだけで、根本的な興味は、そこに生きている社会問題や人にあるのです。だからやはり、映像ならばドキュメンタリーのみですね。文字媒体の方が深く伝わるという側面はありますが、それは役割分担ですね。視覚的に訴えることの良さを最大限活かしていきたいです。

(聞き手)
 戦後補償との関連でいえば、いま改憲論議のなかで、9条についても変えようという意見もありますが、それについてはどう思われますか?

(海南さん)
 日本は戦争終結後、最高責任者として天皇が直接責任を問われることもなく、国としてもちゃんと戦争責任をとっていません。にもかかわらず、ここまで他のアジア諸国との関係が回復したのは、憲法9条があって、戦争をしないということを明記したことが大きいだろうと思っています。9条があったおかげで、かろうじて日本とアジアの関係がつながれた。これから憲法が改正されて9条がなくなるのであれば、アジアとの関係も難しくなると思います。だから、絶対に9条は殺してはいけないと思います。

(聞き手)
 今日は、どうもありがとうございました。今後ですが、とりあえずは7月30日の東京での上映会(詳細は下記のプロフィール参照)ですね。盛会となることを願っています。

◆海南友子(Tomoko KANA)さんのプロフィール

 1970年生まれ。大学卒業後、NHKの報道ディレクターとして7年勤務した後、2000年に独立。2001年、インドネシアの元『慰安婦』を取材したドキュメンタリー映画『マルディエム−彼女の人生に起きたこと』を製作。山形国際ドキュメンタリー映画2001で上映されたのを皮切りに、全国各地で上映が相次ぎ、2003年には劇場でも公開された。
2004年には、新作『にがい涙の大地から』で、過去の戦争で遺棄された化学兵器に苦しめられる人々の姿を追った。新作は、東京では、7月30日(金)18:10から東京ウィメンズプラザでの上映会が予定されている。
【各地での今後の上映会の予定や上映会の開催の問い合わせ】
ホームページ
メール<info@kanatomoko.jp>
【参照ホームページ】
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【当サイト映画紹介】
『にがい涙の大地から』



 

 
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