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編集という仕事と平和主義への想いと− 岡本厚さん(「世界」編集長)に聞く

2004年7月12日
岡本厚さん(「世界」編集長)

 雑誌「世界」は、1945年12月というまさに終戦の直後に創刊されました。創刊者は、なぜこんな戦争をしてしまったのかという慙愧(ざんき)の念でいっぱいだったといいます。周りは全部焼け野原となり、若い人は殺されていかざるを得なかった。なぜそんなことになる前に自分たちの世代が、それこそ「特攻隊」のように、体当たりで戦争への道を阻むことができなかったのか……。そういう想いを、出版という形で表したのが「世界」です。当時、「科学」や「思想」などの雑誌もありましたが、それだけでは戦争を止めるには届かなかった。自分たちは悔恨の共同体として、もっとインテレクチュアルな人たちに訴えかけるような雑誌を作って、この慙愧の念をどうにかしたい。二度とあのような戦争を引き起こしてはならない。「世界」は、そこから始まり、その想いによって現在も貫かれています。

 私が、「世界」に携わるようになったのは1977年で、ちょうどデタント(雪解け)の時代でした。ベトナム戦争が終わり、世の中が緩んだ時期で、戦争をダイレクトに感じることはなかった。しかし第二次冷戦といわれる時代に入ると、中距離核ミサイルが配備されるなどもう一度戦争というものにリアリティが出てきました。その当時の「戦争」は、本格的に始まればすぐに核ミサイルが飛んでくるというイメージで、現在のアフガンやイラクのような「すぐ横にある戦争」よりは遠い存在でしたが、やはりこういう状況になって、日本国憲法の位置づけというものを考えざるを得なくなりました。

 9.11のいわゆる「同時多発テロ」以降は、特集などもすごくこだわっています。これを書かなければ「世界」として意味がないと考えています。現在、自衛隊の海外派遣という信じ難いほどの踏み出しかたを政府はしたわけですが、この話が出てきたとき私は、それこそ内閣を潰すくらいの勢いで反対運動があるだろうと考えていました。しかし、信じられないくらい簡単に出てしまった。我々の力が足りなかったのかなとも考えました。けれども、今年も繰り返し「撤兵せよ」という特集をやっています。雑誌というのはいろいろなことをしなければならないという捉えかたが一般的ですが、やはり、こだわるときには徹底的にやらなければならないと私は考えています。世代が変わり、また多くのメディアがこのような社会の大変化に気づいていないかのような状況で、このように「世界」が原点を貫いていくことの意義は大きいと思っています。

 私は、1996年に編集長になりましたが、それから「世界」は相当変わったと思います。以前は、執筆者は学者や弁護士などにほぼ限られていましたが、現在は、フリージャーナリストやNGO、中高生だっていいという考えかたです。なぜなら、現場で活動し、問題にぶつかって、本当の意味での「苦しみ」を考え続けている人たちは、真に「インテレクチュアル」だと思うからです。インテレクチュアルな人というのは、知識があるとか学問がどうとかではなくて、社会に対して働きかけ、こういう社会であるべきだ、というビジョンを持っている人のことだと思っています。ましてインターネットで国際的に繋がることのできる時代ですから、こういった人たちがどんどん強くなってきていると思います。そういうなかで「世界」は、若者にも対象を広げて、現実と泥まみれになって取っ組み合うような、いってしまえば「カッコ悪くたっていいじゃん」という路線でいきたいと考えています。これは読者への「挑発」ですね。岩波は、「ブランド」イメージが強いと思いますが、雑誌は、読むことで考えたり、行動できたり、励ましになったり、そういうことがなければ意味がないですから。

 編集者の社会のなかでの役割を考えるにあたっても、とにかく編集者は人に会わなければならない職業だと思います。最近は、電話やメールだけのやりとりで済ます人が多いようですが、それでは相手のほんの一部分しかわからないし、壊れやすい関係しか作れないでしょう。それではおもしろくありません。会いに行って20分でも話せば、いろんなことが見えてきます。同じように、現場に出て行って、若い人はどんなことを考えていてどんなことをしているのかをリサーチして知ることは、編集者としての政治感覚や問題意識といったものとも関係してきます。社会や生活のなかで、いろんなことが起きているときに、整理してこれが大事なことだと判断する力が編集です。だから、こういう経験はあればあるほどいい。新聞を読んで毎日暮らしていても、物事がすっきりわかるようにはなるかもしれませんが、そうではない。会うことでいろいろな人と共感できるような広い視野を持つことが大切です。そういったなかから、ネットワークやアソシエーションのようなものが生まれてくるのではないでしょうか。そういう「繋ぎ」の役割も、編集者は演じることができると思います。

 最後になりますが、「編集」という職業は、楽しみと苦しみが同じです。自分は意味のあることをやっているという想い、やりたいことをやっているということ、社会はこうあるべきだという想い、全てが仕事と繋がっています。これで死んでもいいと思えるような仕事であること、これは、最大の喜びだと思います。

◆岡本厚(Atsushi OKAMOTO)さんのプロフィール

1954年生まれ。早稲田大学卒業後、岩波書店に入社。1996年から世界編集長。雑誌編集の傍ら、最近は朝鮮半島問題や教育問題などの講演会でもパネリストとして発言している。1980年代には、JVC(日本国際ボランティアセンター)の創設にもかかわった経験がある。



 

 
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