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今週の一言

 

NGOと国際貢献

2004年7月5日
佐藤真紀さん(日本国際ボランティアセンター、中東担当)
     原文次郎さん(日本国際ボランティアセンター、イラク・プロジェクト調整員)

(聞き手)
 今日はお忙しいなかありがとうございます。では、早速ですが、いまイラクで何が起きているのかといったところからお話いただけますか?

(原さん)
 イラクの状況というのは、刻一刻と変わっていきます。私は4月5日から18日までバグダッドにいましたが、人質事件があったり、また9日にはバグダッドが陥落するといわれていた時期なので、かなり緊張感が高まっていて、基本的に外を自由に出歩くということはできませんでした。病院の支援をやっていた関係で、ホテルと病院を往復する毎日のなかで耳にした人々の生活状況は、とても厳しいものです。人が生活してゆくのに当たり前に必要とされる水、電気が足りない。一日数時間きて、数時間こない。それがだんだんひどくなってきていました。電気がこないと水も汲めない。バグダッドの中心部はそれでも、パイプが通っているからいいが、郊外になるとパイプ自体が届いていないので給水に頼るしかなく、それさえもこぼれる地域は、その辺の汚い池から汲んでくる状態です。これからイラクも夏になりますが、今後はさらに厳しい状態が予想されます。

(佐藤さん)
 イラクの人びとは、アフガニスタンの場合と違って、もともと一定レベルの生活水準を保っていました。経済制裁などで停電はありましたが、ここまでひどくはなかったのですね。空爆などで、見た目としては、実はそれほど被害を受けているわけではないのですが、ピンポイント攻撃で生活ラインが破壊されているため、感覚的に、人びとの不満は大きいのです。当初、期待感などもあったようですが、結局何も変わらない、むしろ悪くなってきているという……

(聞き手)
 JVCとしては、そうした状況のなかで、今は具体的にどんな活動をされているのですか?

(佐藤さん)
 JVCは、もともとは経済制裁を契機に緊急支援からはじまりました。国境なき医師団のあとに入り、超音波検診の機器や手術台のランプなど、そういった医療環境において具体的に必要なものを提供するなどの活動をしてきました。そもそも緊急支援というのは、1年くらいでやめなくてはならないのです。そこから先は僕らの領域ではなくなりますからね。しかし、経済制裁は思ったよりもひどかった。そういった戦争の影響を目の当たりにするなかで、やはりJVCとしても戦争反対の声をあげていかなくてはならないと感じ、今回のイラク戦争からはあえてそういった声をあげることにしました。JVCはNGOとして一体なんなのかということを突きつけられていました。

(聞き手)
 どういう想いで活動にかかわられているのですか?

(佐藤さん)
 僕は中東を担当して10年目です。最初は、イエメンに協力隊で入ったとき、難民キャンプに入れられました。そこで、自分は逃げられるけど、この人たちはどうなるのだという想いをもった。それから、シリアやパレスチナへ行くのですが、そこで出会った人びとに対してシンパシーを感じたことがすべてです。紛争地域に入っていくという感覚ではないのですね。ビジネスではありませんから。彼らが家族のような存在になってゆくのです。

(聞き手)
 NGOといっても幅が広いですが、nearly governmental organizationではなく、文字通りのnon governmental organization を選択した理由は何だったのでしょうか?

(佐藤さん)
 その辺りはあまり意識しませんでした。協力者としてもっと住民の立場に立つということは考えていましたけれども。シリアのバース党政権時代に、公務員として一般的な生活をしている人々のなかに入って働きましたが、そのときに、アラブを知るという意味で、人の気持ちがわかる入り方というのは重要だと思いました。日常生活では、政府かNGOかによってできることの違いはないと感じました。しかし、戦争になると全然違います。NGOにしかできないことがあるのです。

(原さん)
 JVCのイラク現地調整員として1年契約で仕事をしていますが、イラクに関してはこれまでの経験から個人的な思いも強くあります。9.11以後、アフガンの難民キャンプやパキスタンへ行っていました。人道支援にかかわりたい、現場に出たいという思いがあり、たまたまこういうポジションがまわってきたからうまくつかまえたという感じです。
 もともとは、会社員として働いていました。会社をやめたきっかけは、アメリカIRCの難民の現地受け入れにたずさわる現地事務所でインターンとして仕事をしたことです。ここでの経験は、NGOの仕事のトレーニングになりました。同時に、この時期のアメリカを、反戦運動の中心地サンフランシスコバークレーで過ごしたということも影響しています。当時は、国連査察問題やブッシュ大統領のイラク戦争終結宣言などがありました。それら政治的動きと、それに対する国民の反応というものを一部始終見ることができたのです。アメリカが始めた戦争ではありましたが、アメリカ国民にも賛成していない人は多数います。たまたまのめぐり合わせだけれど、これが自分の使命だというようなものを感じました。その後、アメリカからイラクに渡りました。

(聞き手)
 戦時下で、NGOだからこそできることとは何だとお考えでしょうか?

(佐藤さん)
 まず、冷静に状況を分析して判断することが大切です。政府、自衛隊、NGO、それぞれに役割分担があると思います。金額的にも、NGOだけでやれるわけではない。ベースがあって、そこからこぼれ落ちてゆくものをNGOが拾ってゆく。たとえば、サマワを例にとってみても、学校などを造る際に、建物を建てた後の役割をNGOは担う。つまり、魅力的なものを創ってゆくということです。
そして、NGOにはポリシーがあります。やってはいけないということをやる前から訴えてゆくことは、NGOでしかできないし、市民とつながっているからそういう考え方ができる。次の戦争をやってはいけないよということを、市民とのパイプのなかでイラク人の声を代弁して、伝えてゆくことができます。non profitな市民活動を通して、日本の中へも伝えてゆくこともできます。一方、アメリカは建物を壊し、そこに新たな建物を造りますが、ゼネコンがもうかるからもう一度戦争しようということになってしまう。サマワにはイラクの人口の1%しかいません。それは小さいことかもしれませんが、次に何をやるべきかという市民の声を伝えてゆくのは、ポリシーをもったNGOだからこそできるのだと思います。

(聞き手)
 国際貢献の方法として、人道支援イコール軍、自衛隊という発想になりがちな日本をどう思われますか?

(佐藤さん)
 東京新聞の記事に、「フランスNGO(12万人)は陸上自衛隊(1万6000人)の8倍」という記事が載りました。自衛隊を出すというのは、明らかにアメリカに向けてのプレゼンスです。少なとも人道支援と言って欲しくないですね。人道支援目的というのは詭弁でしかありません。テロとの戦争に行くといえないから人道支援といっているだけなのです。人道支援目的の軍隊というけれど、軍隊とはもともと破壊を目的とするものであるのだから論理的に矛盾していますよ。 
 サマワだけでなく、ファルージャの状況を考えれば問題がわかりやすくなります。ファルージャは、現在アメリカが占領していますが、攻撃するだけなく、病院に来て患者を逮捕し、アブグレイブ刑務所に連れて行く。イラク人にとっては恐怖です。人道支援などと言っているが、スパイではないのか、というようなことを言われ始めます。次第に、スパイという言葉が一種のキーワードのようになってしまうのです。ですから、人道支援目的のNGOと自衛隊を一緒にしてはいけない。NGOは、あくまでも自分たちの政治的中立性を強調し、アメリカに情報を流すなどもってのほかです。川口外務大臣は、人質事件の際に犯行声明を出したグループに対して、人質は人道支援目的でイラクにいるということを言ったあとに、自衛隊も人道支援だということを付け加えましたが、自衛隊と同じということはアメリカに協力しているという意味で、スパイになってしまう。その辺の認識がないのですね。

(聞き手)
 自分たちの現地での安全保障にもつながると思うのですが、人道支援をしている人がスパイ活動をしていると思われないような、信頼感といったものはどのように作っていっているのでしょうか?

(佐藤さん)
 イラクがいまでも簡単じゃないのは、スパイ秘密警察があったという歴史的事実に関係があります。監視社会で、常に誰かに監視されていたのです。サダム・フセイン政権下においては、一度レッテルを貼られてしまったら大変でした。そういう歴史があるところなので、自分たちがどういったことをしているのかということを、きちんと伝えないといけない。先日、人質となった高遠さんは、あの状況下でスパイじゃないということを証明したのだからすごいと思います。彼女なりの人道主義というか、ボランティア精神をもっていて、それをやっとわかってもらえた。かなり危険な状態だったと思います。結局、切り札を持つことが重要になるのですね。実績を認めてもらうしかないのです。

(聞き手) 
信頼関係を築いていく具体的なルートは、イラクの場合はどういったものなのでしょう?

(佐藤さん)
 モスクや教会を拠点として食料の配給をしています。それらは彼らにとって、宗教組織であると同時に、市民組織でもあります。政府は戦争が起こるとすべてのネットワークが崩壊してしまいますが、現地では宗教といっても市民活動に近いものがあるのです。つまり、草の根ネットワークになりうるのですね。そのようなルートを主に使っています。

(原さん)
 イラクではしきりに医療品不足が言われましたが、言われているほど大変じゃないところもありました。なぜなら、イラク人同士の助け合いがすごいからです。ファルージャへの支援も、イラク人の地元のボランティアスタッフが、ファルージャ・エイド・アソシエーションをつくったのです。考え方の根底には宗教的なものがあるにしても、助け合いの精神が根づいているのは確かです。そして、自分のもっているものを提供しようと、あれだけ大変だといわれていたファルージャから、今度はナジャフなどへ送られました。

(佐藤さん)
 シーア派とスンナ派の対立というようなことがよく言われますが、実際にはイスラム、アラブの人たちの助け合い精神はすごいものがあると思います。見ていると、イスラム、キリスト教徒であっても分け隔てなく助けていますよね。政治的利用ももちろんありますが、その文化はすみずみまで浸透していると感じます。
  
(聞き手)
 今後は、どのような活動を展望されてますか?

(佐藤さん)
 今後も、白血病の子どもの支援を続けます。劣化ウランの影響もあって、白血病の子どもの数は非常に多いです。日本だと白血病というのは、8割から9割助かるものと言われているのですが、イラクでは経済制裁のせいもあって治せない状態になっています。これは犯罪だと思う。いまやっていることというのは、基本的に、遅れた分を取り戻すという作業です。今後、緊急支援も必要になるでしょう。この1年は泥沼で、予測するのも大変でした。

(原さん)
 仕組みが安定していないので、いままでやってきたことがすべてダメになるという心配もあります。しかし、それでもやろうという病院の先生の意欲は高まってきています。彼らが立ち直るための後押しをし、見届けることできればと思っています。実際、NGOのできる支援というのは穴埋めでしかありませんが、それが大事なのです。

(聞き手)
 これまで様々な取り組みをやってきて良かったと思うのはどんなことですか?

(原さん)
 患者はなくなる人も多いのですが、一方で自分たちの届けた薬によって状態のよくなった人もいます。たとえば、癌によって抵抗力の弱まった人が感染症にかかり、その感染症にきく抗生物質を飲ませることによって、一時的によくなり家に帰れる姿を見たときなどは、嬉しいですね。

(佐藤さん)
 私は、子どもたちの文化に関心があります。イラクで白血病になった子どもは、20%の生存率のなか死を覚悟します。バスラの病院では、プレイルームで絵など描いたこともない子どもに描き方を教えました。すると、一時間後にはかけるようになっているのです。そのような姿、できなかったことができるようになるという、子どもの成長する姿を見るのはとても勇気づけられるし、その発達する力を「尊い」と感じます。

(聞き手)
 長い時間、どうもありがとうございました。

◆JVC(日本国際ボランティアセンター)のプロフィール

 JVCは、1980年に設立されたNPO法人。この間、カンボジア、ベトナム、ラオス、南アフリカ、タイ、エチオピア、アフガニスタン、北朝鮮など20カ国以上で、「緊急支援」「食糧支援」「農村開発」「平和交流」などに取り組んでいる。「平和で、食料が自給でき、持続的である」社会を目指し、一見地味に見える取り組みにも、現地の状況やニーズなどを考慮して長期的な視野にたって活動している。

JVCのWEBサイト: http://www1.jca.apc.org/jvc/index.html



 

 
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