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ヨドバシカメラ違法派遣暴行事件

2004年6月21日
弁護士 笹山尚人さん

尊厳回復のたたかい
 人が奴隷のようにこき使われるのは、過去の時代の話だと、みなさんはお思いでしょうか。しかし現実には、残念ながら、人を奴隷のように、人とも思わずに働かせるだけ働かせて使い捨てにすることは、広がりつつあるのです。
 「おまえにヨドバシの便器をなめさせてやる。」
 この事件は、こんな暴言を浴びせられ、殴る蹴るのすさまじい暴行をふるわれて、人以下の扱いを職場で受けてはずかしめられた青年A君の、尊厳回復のためのたたかいです。

事件の概要
 A君は、携帯端末の営業販売の仕事に意欲を燃やし、この業界で働こうとしました。しかし、彼の勤め先は、人材派遣会社しかありませんでした。ここから彼は、まず携帯端末のメーカーであるDDIポケットに派遣され、さらに、携帯端末を販売しているヨドバシカメラに派遣されて、実際にはヨドバシの店舗でヨドバシの社員に指揮されて働きました。
 意欲に燃えた彼を待ち受けていたのは、すさまじい暴力の連鎖でした。ヨドバシカメラの社員は、派遣社員が派遣元から、派遣先のヨドバシの社員の指示は絶対だと指導されていることにつけこんで、私用に至るまで派遣社員をこき使います。そして、接客態度が悪い、仕事上のミスをしたと何かに関係づけて、気に入らない派遣社員の「非行」をDDIや派遣会社に「チクる」のです。果ては、怒りにまかせて、社員自らが暴行をふるうことも珍しくないのです。
 こうした関係のなかで、A君は、2002年秋から2003年春までの間に、都合4回の暴行を派遣元の社員やヨドバシカメラの社員から受けました。3度目のときは、派遣元の社員は、ヨドバシから「チクられた」ことにあわて、A君に殴る蹴るの暴行をふるった後、ヨドバシのトイレを清掃することを命じたうえ、冒頭に紹介した「便器をなめろ」との暴言を吐いたのです。この言葉に辞職を決意したA君でしたが、派遣先のDDIやヨドバシの怒りを恐れた派遣元は、なんとA君の実家にまで押しかけてきて、A君の母親が見ている目の前で、A君に4度目の殴る蹴るの暴行をふるい、結果、A君は3週間もの入院を必要とする肋骨骨折等の怪我を負ったのです。

「ヨドバシカメラ違法派遣暴行事件」と名づけた理由
 A君がDDIに派遣され、そこからヨドバシカメラに派遣される「二重派遣」は、労働者派遣法違反であり、暴力をふるうのは犯罪です。一連の暴力のうち一部については、刑事事件として立件済みですが、それにとどまらない問題をはらんでいます。すなわち、この暴行事件は、二重派遣というシステムの中で、派遣社員を上手に使い回すことで派遣社員を最終的には使い捨てることになっても、利益をあげようとした構造を企業が作りあげたことに由来すると私たちは考えています。
 憲法は、25条で生存権を保障し、28条まで社会権と呼ばれる人権を保障しています。27条は、その一つとして、労働者の「働く権利」を保障しています。この「働く権利」を人権として保障するということの意味は、人間が生活をするにあたって労働することが不可欠であることから、その労働が、自己実現になるように、平たく言えば「働く喜び」にあふれたものであるようにということで規定をされているのです。全ての労働者は、自分が働くとき、それが「働く喜び」によって満たされたものになることを要求する権利があるのです。ですから、国は正社員であれ、派遣であれ、アルバイトであれ、雇用形態のいかんを問わず、労働者の労働がそのような「働く喜び」によって満たされるよう関係法令を整備し、企業に対し適切な指導を行わなければならないのです。企業も、この働く権利を尊重して働いてもらうようにしなければなりません。
 今回の事件は、そのような「働く喜び」とは全く無縁な、A君の労働者としての、また個人としての尊厳を粉々にうち砕くものでした。企業は、A君の「働く権利」を完全に無視したのです。彼の人権をふみにじってでも、「二重派遣」というシステムを生み出し、そのなかで巨大な利益を得ようとした企業のエゴが、4度の暴行などという常軌を逸した信じられない事件を引き起こしたのです。
 その意味で、この事件については、関係した企業全ての責任が問われなければなりません。A君とA君の母親は、ヨドバシカメラとDDI、派遣会社と関係する個人を被告として、損害賠償請求訴訟を提起しました。違法派遣の構造が生み出した暴行を断罪し、失われたA君の尊厳を回復する。そのことが、憲法の定める人権(27条)の実現につながる。その願いをこめて、私たちは、この事件を「ヨドバシカメラ違法派遣暴行事件」と名付けました。

広がる派遣労働への警鐘として
 昨年労働者派遣法が改正され、労働者派遣はますます世の中に広がりを見せています。そのなかで、A君のような、人以下の屈辱的な扱いを受けて心身を傷つけられる例は、私が実務で体感する感触としては、増加傾向にあります。労働者の「働く権利」は、恒常的な危機にさらされているといえるでしょう。この事件を、そのような働き方への警鐘にし、派遣であっても、人間らしく、尊厳をもって働ける雇用環境作りの一助にしたいと願って私たちはこの事件に取り組んでいます。
 裁判の審理は、7月で主張の整理を終え、9月以降はいよいよ証人尋問に入ります。今が旬です。良かったら法廷に傍聴に来てみてください。

期日案内
   7月21日 10時〜 東京地裁706号法廷

◆笹山尚人さんのプロフィール

 弁護士(53期)。東京法律事務所。小泉首相靖国参拝違憲訴訟、京王電鉄分社化リストラ事件などの弁護団も務める。

【主な著書(共著)】
『法律がわかる事典』(日本実業出版社、1981年)


 

 
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