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筑豊じん肺訴訟最高裁判決と日本国憲法

2004年6月7日
弁護士 馬奈木昭雄さん(福岡県弁護士会)

 筑豊じん肺訴訟は、福岡県筑豊地方に存在した炭鉱で、粉じん作業に従事したことによって「じん肺」にり患した原告たちが、国と企業6社に対して、じん肺防止義務を尽くさなかった責任を問い、損害賠償を請求した事件です。
 このうち企業5社とはすでに和解が成立し、2004年4月27日、最高裁第三小法廷(藤田宙靖裁判長)は、上告した国と日鉄鉱業の二者に対して判決を下しました。最高裁は、「国が1960年4月以降、粉じん防止の規制権限を行使しなかったことは違法」と述べ、福岡高裁判決を全面的に肯定しただけではなく、さらに一歩進めたと評価できる、国に勝訴した初めての判決でした。
 
 ところで、憲法27条2項は、労働条件の基準は法律で定めることを命じています。
 炭鉱労働者については、鉱山保安法が基本法となっており、「鉱業権者は、粉じん等の処理に伴う危害又は公害の防止のため必要な措置を講じなければならないものとし(4条2号)、同法30条は、鉱業権者が同法4条の規定によって講ずべき具体的な保安措置を省令に委任している」とされています。ところが、この省令である石炭鉱山保安規則は、同様の鉱山のうち金属鉱山に適用される金属鉱山等保安規則と比較して、著しく不合理な内容でした。この点について、最高裁判決は、次のように判示しました。
 通産大臣は、「じん肺に関する医学的知見及びこれに基づくじん肺法制定の趣旨に沿った石炭鉱山保安規則の内容の見直しをして、新たな保安規制措置を執った上で、鉱山保安法に基づく監督権限を適切に行使して、上記粉じん発生防止策の速やかな普及、実施を図るべき状況にあったというべきである」、「昭和35年4月以降、鉱山保安法に基づく上記の保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは、その趣旨、目的に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法というべきである」。
 
 この最高裁判決において、とくに強調されるべきは、次の諸点です。
 第一に、粉じん防止義務を一般論として認めており、石炭鉱山だけではなく、すべての粉じん職場に適用される判示となっていることです。このことは、この判決が、すべての職場のじん肺防止について適用されるべきことを示しています。
 第二に、省令改正の義務を積極的に命じていることであり、合理性を欠く省令制定権限の不行使は違法となることを宣明していることです。いわゆる立法不作為の違法に関して、法律については、たとえばハンセン病訴訟において認定されましたが、省令制定においてもさらに厳しく違法となることが認められています。
 第三に、異なる省庁間において、同様の法律が制定される場合、その整合性を保つために法制局が一定のチェック機能をはたしていますが、しかし省令においては、その機能をはたす部署が存しておらず、各省庁が独自に勝手に規則を制定しています。その結果、極めて不合理な規則間の不整合が生じている現状にあります。今後、この整合性を是正する部署の検討が必要となっています。
 
 以上の三点をふまえて、私たちは、じん肺患者の悲願である「あやまれ、つぐなえ、なくせじん肺」を達成するため、この画期的な判決を幅広く活用していくつもりです。


 参考URL: 最高裁判決全文
http://courtdomino2.courts.go.jp/judge.nsf/View1?OpenView

◆馬奈木昭雄さんのプロフィール

弁護士(21期)。久留米第一法律事務所。久留米大学大学院法科大学院教授(訴訟実務・環境訴訟)。元九州大学大学院法学研究科講師。
水俣病福岡訴訟弁護団副団長、九州予防接種訴訟弁護団長、南九州税理士会訴訟弁護団長、三井三池じん肺訴訟弁護団長、筑豊じん肺訴訟弁護団長、「よみがえれ! 有明」訴訟弁護団長などを歴任し、とくに国の責任追及を中心に被害者救済問題に取り組んでいる。また最近は、産業廃棄物処理場やゴミ処分場など、地域の問題に多く携わっている。

【主な著書】
『公害・環境と人権』[共著](岩崎書店、2001年)
「水俣病訴訟」法の科学1号(1973年)
その他、法律時報、法学セミナー、法と民主主義、環境と正義、賃金と社会保障などに論文がある。


 

 
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