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建設アスベスト訴訟について

2017年12月11日



田井 勝さん(弁護士・首都圏建設アスベスト訴訟弁護団)

1、アスベスト(石綿)について
 アスベスト(石綿)は、蛇紋石や角閃石が繊維状に変化した天然の鉱石です。耐火性・耐熱性に優れ、かつ値段も安かったので、わが国でも1960〜2000年代にかけて、アスベストを含んだ建材が重宝され、海外から大量に輸入され、建材等に使われてきました(「奇跡の鉱物」と言われました)。
 一方、建設作業者などがこのアスベスト建材を切断するなどの加工作業において粉塵(ふんじん)を吸い、その結果、大勢の方が、石綿(アスベスト)関連疾患である石綿肺・肺がん・中皮腫を発症し、病に苦しんでいます。また、工場や建設現場の周辺住民がアスベストを吸ったこと(間接曝露)で被害を発症する事例も出てきています。
 アスベストについては、潜伏期間が長く、アスベスト粉塵を吸い込んでから重大な被害が発症するまで20〜30年経過することが多いのが特徴的です。多くの作業者が1960〜1970年代に大量にアスベスト粉塵を吸い、その結果、現在では、毎年1000人程度の方が、石綿関連疾患として労災認定されています。
 今回報告する建設アスベスト訴訟は、建設作業に従事し、このアスベスト粉塵を大量に吸ったために、石綿(アスベスト)関連疾患である石綿肺・肺がん・中皮腫などを発症した被災者及びその遺族が原告となり、国と石綿含有建材の製造メーカー43社を訴えている裁判です。
 2008年に東京地裁と横浜地裁で提訴され、現在、14もの地裁・高裁で同種の裁判が争われています(全国での原告総数は約800名)。
 そして2017年10月24日には横浜地方裁判所第2民事部(大竹優子裁判長)、そして同月27日には東京高等裁判所第5民事部(永野厚郎裁判長)で判決がおりました。いずれも、国と一部の建材メーカー(地裁では2社、高裁では4社)の賠償責任を認める結果となりました。

2、国に6勝目、7勝目!!
 同種の集団訴訟において、これまで7件の地裁判決があり、国相手としては、これまで原告側が6勝1敗でした。その「1敗」が今回の神奈川第1陣訴訟の横浜地裁判決でしたので、今回の東京高裁判決をもって、原告側は国に対して7連勝となりました。もはや国の責任は不動のものとなっています。
 国の責任として認められたのは、厚生労働大臣の責任です。判決は、規制権限不行使の違法性判断基準について、これまでの最高裁判例(泉南アスベスト、筑豊塵肺、水俣病関西訴訟等)を引用し、国(厚生労働大臣)は、労働者の労働環境を整備し、生命・身体に対する気概を確保し、その健康を確保することを目的とし、できるだけ速やかに「適時かつ適切に」行使されるべきと指摘しました。そのうえで、建設現場におけるアスベスト粉塵が危険であることを国が認識していたにもかかわらず、マスク着用義務付けなどの必要な対策を怠ったことの問題が指摘され、国の規制権限の行使を怠った違法があると認定しました。
 一方で、一人親方・零細事業主であった原告については、労働者ではないことを理由に、国(厚労大臣)の責任は認められていません。いわゆる保護対象者は労働者に限定されるという理屈ですが、これら一人親方らの原告もまた当時、アスベストの危険性に関する知識は労働者と変わりませんし、労働者と同じようにアスベスト曝露にさらされていました。一人親方らに関する国の責任が認められていないことは問題として残ります。

3、メーカー責任について、因果関係の立証の壁を乗り越える判断
 メーカー責任を認めたのは、昨年の京都地裁と合わせると、今回の横浜地裁判決、東京高裁判決で3件目となります。
 メーカーについては、共同不法行為における因果関係が大きな争点となっています。
 当然、それぞれの原告の当時の作業現場も日々異なっています。また、職種ごとに作業内容も異なっており、かつ、メーカーが製造していた建材も時期ごとに異なっています。そのため、原告がどの建材の粉塵に触れて発症したのか特定が難しく、この因果関係の立証が裁判で大きな壁となっていました。
 しかし、今回の両判決とも、被告メーカーに1975年(地裁は1976年)以降、石綿の危険性を警告する義務があったとしたうえで、各メーカーの建材の市場シェアや被害者が従事していた現場数、各作業での粉塵曝露濃度などを厳格に分析し、民法719条1項後段・民法709条に基づき、一部メーカーの建材が保温工・大工などの原告に触れた(到達した)と推定できると認定し、そのメーカーの責任を認めました。
 今回の被害発症の根源は、国のみの責任ではありません。当時、アスベスト含有建材を「安全だ」と宣伝し、十分な警告表示を行わず、漫然と製造・販売を続けた建材製造メーカーもまた、その責任を負うべきです。私たち弁護団も原告も、何としてもこのメーカー責任を認めてもらうべく、たたかいを続けてきました。
 今回、特に高裁でメーカー責任が認められたのは非常に大きな意義を持ちます。

4、今こそ被害救済基金制度の創設を!!
 重篤な石綿関連疾患のために多くの被害者が命を失っています。神奈川第1陣訴訟でも、被害者75名に対し、生存しているのはわずか19名。2008年の地裁提訴後、大勢の原告が壮絶な闘病生活の末、無残にもお亡くなりになっていきました。
 一人でも多くの原告が生きているうちに解決を。国と建材メーカーは今回の裁判結果に向き合い、被害者を救済する制度の創設に向けて真摯な取り組みをしなければなりません。
 今回、国もメーカーも上告・控訴しました。最高裁の判決が出るのは来年以降となりますが、判決ではない解決を求めて、私たち弁護団も原告らとともに頑張っていこうと思います。

◆田井 勝(たい まさる)さんのプロフィール

1975年、香川県高松市生まれ。
2007年弁護士登録(横浜弁護士会)。横浜合同法律事務所に所属。
現在、自由法曹団の本部事務局次長(労働担当)。日産自動車期間工・派遣切り裁判弁護団、首都圏建設アスベスト訴訟弁護団に所属。






 
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