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映画『不思議なクニの憲法2018』を広めながら

2018年9月17日



松井久子さん(映画監督)


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憲法が遠い
主権者の関心がこんなにも薄いのに、なぜ今改憲なのだろう?
憲法を守るべき人たちが改憲を騒ぎ、国民は憲法で保証された権利が奪われる危険をまったく感じていない。ほんとうに不思議な国だ。
それが憲法にまつわるドキュメンタリー映画をつくることになった私の動機だった。
国会では違憲な法律がつぎつぎと成立し続けているのに、国民はそれに怒るどころか反対もしない。マスコミもいつの間にか、政治に対するチェック機能をまったく果たさなくなってしまった。
そんなすべてをひっくるめての疑問と批判をタイトルに込めて、「(不思議な)国」を「クニ」とカタカナにしたのである。
また、私はもともと劇映画をつくってきた者なので、普通の人びと、日頃政治の話などしない人たちに向けた憲法映画を作りたいと思った。
なぜならこの日本では、政治と憲法の違いさえわからない人や、難しいことは考えたくない人のほうが、国会前の抗議デモに参加する人やSNSで安倍政権を批判する人よりも圧倒的に多いのだから。
「改憲派」VS「護憲派」といった対立の図式を感じるだけで、無視を決め込む人が大多数を占める国だから。

「憲法には、私たちがどう生きるべきかが書いてある」
これは、観客の主なターゲットを「女性と若者」にしぼる意図でつけたチラシなどのキャッチ・コピーである。
それでなくても硬い文字の世界の憲法を、どう無関心層に伝えるか?それが自分に与えられた役割と思い、様々な年齢層と立場の市民にインタビューして歩き、憲法が自分の生活や人生といかに密接につながっているかを語ってもらった。
そして2015年5月3日に取材を開始し、一年後の2016年5月に映画が完成・公開をした。それから2年半近くの間に、全国で大小約1300回の市民による自主上映会を重ねることができたのは「映画を観るまで憲法のことなど考えたことがなかったけれど、本当に観てよかった。私の町でもぜひ上映会を!」と一観客から上映会の主催者へと変身を遂げてくれた沢山の「普通の人びと」のおかげだった。
が、いよいよ安倍総裁の三選が確実視され、次に召集される臨時国会で総理から「改憲の国会発議」の提案が予想される今、安倍改憲を阻止する運動がうねりになって来たかといえば、到底そうはなっていない。
特に、この国の未来を心配する高齢者と、安倍政権の政治手法を疑うことさえしない若者との間は、ますます分断が進んでいるとさえ思える。

教育現場の人びとの声を聴く
18歳選挙権が施行された今の、この若者たちの無関心さと「リベラル嫌い」をどう考えたらいいのか?学校教育に問題があるのではないか?あれこれ思いあぐねていたとき、大分県のN市で小中高校の教師たちが主催する上映会に招かれ、教育現場の人びとの声を聴く機会をもつことができた。
主催者の一人、小学校の先生になって30年というYさんは、
「この映画を観る前、私にとって憲法は空気みたいなものでした。あるのが当たり前で、『この平和憲法を守ったほうがいいよ。2度と戦争をする国になってはならないでしょ?』と、子供たちには折に触れ話してきたつもりでした。でも『不思議なクニの憲法』を観て、自分がいかに上っ面な平和教育しかしてこなかったかに気づかされました。教師が魂のレベルで伝えなければ、子供たちは頭の上を通り過ぎるだけです」と言われた。
また、Yさんの呼びかけで参加された50代の中学教師のIさんは、
「僕たちの世代は、教師自身が正しい憲法教育を受けてこなかった。教師たちがまず学び直すことから始めなければならない」と苦衷を語り、若い女性教師のSさんは、「教師である前に最近は公務員としての縛りが強く、中立でなければならないという上からの圧力で、教室で自分の考えを口にすることさえできないのです」と嘆かれていた。
教育現場もまた、報道機関と同じように「中立」という名の下で改憲勢力に牛耳られているのである。

大学での上映会
小・中学生はともかく、まずは選挙権のある大学生に観て貰いたい。その思いを映画の完成時から訴え続けきたために、この2年の間に都内の大学数校で上映会が開催されたが、どこも一般市民も参加できる公開講座だったので、参加者は一般の上映会と変わらぬ高齢者ばかり。学生の参加は皆無に近い状態が続いていた。
ところが外国の大学では授業上映が叶い、私も映画とともに招かれて学生たちと議論の機会を持つことができたのである。
ドイツではベルリン自由大学、ボン大学、ハレのマルチンルター大学、そしてハンブルグ大学の4大学と、韓国のソウル大学といずれも著名な大学の日本学科の授業だった。もちろんどの大学でも参加者はすべて学生で、異国の憲法映画を100人ほどが熱心に観てくれたばかりか、上映後の議論も活発で、日本の教育現場との違い、若者の政治意識の違いをまざまざと知らされたのだった。

学習院大学での上映会
そして、なんとか日本の大学でも授業で上映して貰えないかと考えていた時、学習院大学の英文科のK教授が授業上映を買って出てくれたのだった。
授業だと学生たちは映画を観た後でレポートを書かせられる。今、私の手元には学生たちが映画鑑賞後に与えられたわずか10分で書いた200枚のレポートがあるが、どの紙もA4にびっしりと映画を観ての感想や意見が書かれている。
内容の大半が「こんな大事なことを私たちは学んでこなかった」という嘆きに始まり、それに続いて様々な意見や感想が書かれている。その内容は実に多様で、白い紙に水が染み込んでいくかのような感受性はどれを読んでも感動してしまうほどだった。
つまり、若者たちは教育によって知る権利を奪われて来ただけなのだ。
高齢者が集まる憲法上映会に出かけることはしなくとも、強制的に学ぶ機会を与えれば、そこで知識を得ることには若者らしく貪欲である。そして知識を得れば、鋭い感受性で受け止め、即座に自分の意見や考えを述べることができる。
この国は「若い人の政治離れが深刻だ」などというのが、いかに安易な思い込みだったかということが、その200枚のレポートを読むとわかるのだ。
たった一人の教授の勇気ある行動で、これだけの学生たちが憲法についての知識を得て、「もっと学びたい」と綴るのである。なんと希望の湧く試みだろう。
10月24日、その学習院大学の有志の教授陣と9条地球憲章の会の共催で、再び学生と教師と市民が一緒に映画を観て、憲法を語り合う場が実現することになった。ぜひこの機会に映画『不思議なクニの憲法』を観ていただき、学生たちと語り合って欲しい。
私も、怒りを自分の中で溜め込んだり、SNSで発散するよりも、「希望のために何ができるか?」を考えて行動する者でありたいと思っている。

映画『不思議なクニの憲法2018』公式サイト

◆松井久子(まつい ひさこ)さんのプロフィール

映画監督
1946年東京出身。早稲田大学文学部演劇科卒。
フリーライター、テレビドラマ・ドキュメンタリーのプロデューサーを経て、1998年52歳のとき映画『ユキエ』で監督デビュー。2作目は認知症の家族愛を描いた『折り梅』が2002年に公開され、2年間で100万人の動員を果たす。2010年には彫刻家イサム・ノグチの母の生涯を描いた日米合作映画『レオニー』を発表。2013年春より世界公開された。2015年『何を怖れる フェミニズムを生きた女たち』、2016年5月『不思議なクニの憲法』と立て続けに2作のドキュメンタリー映画を手がけ、自作の上映会や講演で全国を飛び回っている。

著書:『ターニングポイント?「折り梅」100万人をつむいだ出会い』(講談社) 
   『ソリストの思考術・松井久子の生きる力』(六耀社)

編書:『何を怖れる フェミニストを生きた女たち』(岩波書店)

聞書き:『教える力・私はなぜ中国のコーチになったのか』(井村雅代著・新潮社)
     『シンクロの鬼と呼ばれて』(井村雅代著・新潮文庫)





 
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