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シネマde憲法
映画『日本鬼子(リーベンクィズ)日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』(英題:RIBEN GUIZI JAPANESE DEVILS)
花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



 前回ご案内した「憲法映画祭2022」のメインにプログラムともなる『日本鬼子』を紹介させていただきます。
 日中友好協会などが行っている巡回写真パネル展「一日本兵が撮った日中戦争」の前書きにその写真を撮った村瀬守保さんの言葉があります。「一人一人の兵士を見るとみんな普通の人間であり、家庭では良きパパであり、良き夫であるのです。戦場の狂気が人間を野獣に変えてしまうのです」という文章があります。この映画『日本鬼子』を見ながら、その言葉を思い出しました。そしてこの映画では、さらに深めて「人間を野獣に変えるもの」は、それだけでないことを知らせてくれます。

映画の解説
1931年の満州事変から15年間に及んだ日中戦争で、中国に対する侵略行為の実行者となった元日本軍兵士14人を取材し、彼らが行った加害行為の告白を記録したドキュメンタリー。生体解剖や細菌実験を繰り返した軍医、731部隊隊員や、自らの功績や名誉のために拷問と大量処刑を行った憲兵、上級者の下級者に対する私的制裁によって日本軍特有の軍隊機構を叩き込まれ、人間性を喪失した兵士たち。生い立ちや学歴、職業、軍隊での経歴も様々な証言者たちが、人間の行いうる狂気のような行為と弱さ、そして本当の戦争を伝えたいという痛切な思いから、彼ら自身が行った壮絶な事実を語る。

 この映画が作られたのが2000年、今から22年前です。戦争を実際に体験して「戦争を語り伝える」ことのできる人がいなくなってしまうことが言われますが、兵士として日中戦争からアジア太平洋戦争に至る戦争に直接行った世代は、仮に敗戦時(1945年)20歳だった人が、この映画ができたときには75歳、20年後の現在は100歳を超えていることになります。
 戦争に行った兵士たちがどんなことを行い、強制され、またそれをやってしまった自分をその後、どう感じてきたか、それを知ることはこうした映画や書き遺されたものを通してしか可能ではないのです。
 そして彼等の生々しい戦争の体験と自分たちがやったことへの反省と悔恨を、さらに私たち自身も戦争に向かおうとしている今に活かしていかなければならないと思います。そうした思いが、この映画を上映することを決めた理由でした。
 『日本鬼子』のジャケットに「あなたは、本当の戦争を知っていますか?『何をされたか』ではなく、『何をしたか』」「実に憎むべき、私であります」とキャッチコピーが書かれています。

 映画の制作から14年後、再び上映とDVDの販売が開始された時、この映画の監督の松井稔さんがその時点でのこの映画のねらいと役割について書いています。
 「2014年─平和主義と戦争放棄を貫いてきた日本の戦後の歩みを『戦後レジームからの脱却』『積極的平和主義』を唱えて否定しようとする安倍晋三政権、戦争への反省を自虐と罵り、日本軍の犯した蛮行を虚偽や捏造と否定する連中の横行などの不穏な情況から戦争ということが意識されだしたのか、2000年に公開された『日本鬼子』が都内の大学やミニシアターでの上映、初DVD化と再び甦った。
 安倍政権が国民的理解も納得もいかないままに憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使容認を閣議決定する暴挙に出た。姑息で横暴な手法で憲法九条の平和主義は空文化され、日本は戦争しない国から戦争できる国となった。日本人は戦後最大の岐路に立たされている。
 敗戦から69年、戦争体験者の多くがなくなり、戦争の知識さえ無い世代が増えた。『日本鬼子』の十四人の自ら加害の告白から戦争と、そこでの人間の弱さと狂気の実態を知ってほしい。今こそ貴方が戦争の真実を真摯に見つめるときである。日本の行く先を決めるのは一握りの政治家ではなく、国民一人一人の総意であるという自覚と責任を強く持ちたい。」

 そして今、ロシア・ウクライナ戦争。まさかと思った戦争が実際に起こってしまい、これまで何度も見てきた戦争の悲惨な光景がまた繰り返されています。戦争が身近に迫っていることを、私たちは感じることはあっても、それがどうして起きたのか、冷静な思考をさせる材料を与える報道はなされていません。そして兵士同士が殺し合い続けるように兵器や武器がさらに投入されています。双方の兵士もまた「人」であるのに。
 『日本鬼子』の中でも、日中戦争の進行が主に新聞記事のインサートで示されていますが、それらが如何に客観性をもったものでなかったか、事実を隠し続けたものであったかがわかります。

 映画では日本軍兵士が行った残忍な民間人殺戮についての話とともに、軍隊というものがいかに人格を壊していくものか、人間性や人間としての良心を失わせていくものか、かつ思考を停止させるものかが語られます。そうして作り上げた兵士が命令によってあの目を背けたくなるような残虐行為を繰り返すのです。自分の行為の言い訳に「中国人は人間でない」とか「天皇陛下の命令なのだ」と教え込まれたのでした。どんな命令でも命令に従うことが最優先で、自分の考えを持たり、人間性を持ったりしてはいけないと教え込まれることは、おそらくどこの軍隊であっても同じなのでしょう。そしてその上位に政治の都合があって、戦争が起きるのだと思います。
 「戦争とは、誰もが持っているであろう人間の“ダークな面” を利用する。それも組織的にだ。そして、利用されやすい脆さを持っている。平和のすぐ後ろにこの“ダークな面”が日常的に存在していることを思い知るべきだ。ごく普通の人の中にも…ではなく、他ならぬ“己の中に”に、である」原一男

 160分の長編ドキュメンタリー。その内容は戦争の殺戮の実態を語る語りの連続。見続けているのはかなりつらいものです。その証言者たちの語りは淡々としていて、自分のやったことへの反省も悔恨もあまり感じていないのではないかと思ってしまうところもあります。
 でも、またそうした表情でしか語れない彼等の中の凄惨な体験や語る事への葛藤や逡巡というものがあったということも感じます。多くの人が自分のしたとんでもないことに口を閉ざし、自分の中で、そういう時代だったとか、戦争の狂気だとしてしまっている中で、この14人の証言者たちがあえて、おそらく勇気を振り絞って語ったことに感謝しなければと思うのです。
 そして彼等にむしろ苦しみに満ちた記憶に口を開かせたのは、この映画の取材者、制作者の誠意であり、熱意であったのだと思います。それは今この話を残して自分たちが同じ事を繰り返さないようにしなければという気持ちが通じたからだと思うのです。この映画を通してもう一度、今を、未来を考えなければならないというメッセージが伝えられます。彼等の話を通してボールはこちらに投げられたと思うのです。戦争への道を止めなければ、戦争そのものとともに軍隊というもの自体を無くさなければ「人」は救われない。軍隊自体を世界から無くさなければという憲法第九条のめざしているものへ向かっていくことと思います。
 証言された14人の多くの方はすでに亡くなっていると思います。しかし映画の中で彼等はこんなことがあってはならないと語り続けてくれているのですから。

スタッフ
監督:松井稔
製作:松井稔 小栗謙一
撮影:小栗謙一
音楽:佐藤良介
ナレーション:久野綾希子
制作補:花井ひろみ
英語版字幕:リンダ・ホーグランド
英題:RIBEN GUIZI JAPANESE DEVILS
制作「日本鬼子」制作委員会

出演者:土屋芳雄 篠塚良雄 永富搏道 船生退助 絵鳩毅 榎本正代 金子安次 鈴木良雄
小山一郎 鹿田正夫 久保田哲二 小林武司 湯浅憲

2001年製作/160分/日本
配給:ダゲレオ出版

【上映情報】
「憲法映画祭2022」(東京・吉祥寺)の中での上映
日時:2022年4月24日(日)10時〜12時40分
会場:武蔵野公会堂ホール(中央線吉祥寺駅南口2分)

憲法を考える映画の会
http://kenpou-eiga.com/

【DVD購入】
ローランズ・フィルム:03-3544-6124

http://www.rolans-film.com/it em2.php?pageNum_Recordset1=2&totalRows_Recordset1=52&cate=1
販売価格:4800円

 

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