ドキュメンタリー映画『傍観者あるいは偶然のテロリスト』と、私たちがその映画の上映を予定している「自主制作上映映画見本市#8」を紹介させていただきます。
映画『傍観者あるいは偶然のテロリスト』
フリー・ジャーナリストの後藤和夫さんは、かつて取材したパレスチナを20年後に訪れます。20年前、およそ3年間の間に20回近く彼の地を訪れたのだそうです。
その時、戦車に向かって石を投げる子どもたちに姿に、また自爆テロをして死んだ弟を「悲しみよりも誇りに思っている」と話す兄の話に驚き続けます。そのように彼は紛争の情況を報道としてとらえるだけでなく、イスラエル軍に果敢にねばり強く、あらゆる方法で戦い続けているパレスチナの人々の話を聞き、伝えてきました。
20年たって訪れたパレスチナの地は、瓦礫は片付けられ、道路は整備され、戦塵こそ上がってはいませんでしたが高く,厚く、長い壁がパレスチナの人々を分断していました。
2000年パレスチナ自治区にイスラエル軍が侵攻し,破壊と殺戮の限りを尽くした。「かつて私はこれらの町の惨状を取材し放送した。あのとき、わたしは間違いなく目撃者の自覚と自負をもっていたはずだ。」「(今回の訪問で)残念ながら私はガザに入ることができなかった。その壁は目撃者を拒んだ。傍観者であることを強いられた。いや、それはほんとうだろうか。私は(私たちは)いつの間にか、傍観者でいることの安穏を選んでいたのではないだろうか。あの場所でも、今いるこの場所でも」(映画リーフレット「ドキュメンタリーの垣根を越えて」より)
そこがこのドキュメンタリーの、あるいは後藤さんのパレスチナ再訪の「問いかけ」であり、この映画のタイトルに現れているのではないでしょうか。
後藤さんは、この20年後のパレスチナ再訪を、これから作る劇映画のためのシナリオハンティングと位置づけました。その劇映画のタイトルが『偶然のテロリスト』です。自爆のテロリストに仕立て上げられてしまった同僚のフリー・ジャーナリストの真実を求めて現地に向かうジャーナリストが主人公の物語です。そのプロットの断片(チャプター)が随所に登場し、このドキュメンタリー自体がそのような想定と構成のもとにつくられていることを気付かせてくれます。
ある意味このドキュメンタリー自体が後藤さんの「自分探し」、20年前のこのパレスチナの地を訪ねた自分と、20年後に同じ土地を訪ね、人々の話を聞いている自分との両方を探していく、という構成になっています。この構成でこそ、そうした後藤さんの内面の問いかけが、外に見えるものになると納得できました。さらにそれはまた「ジャーナリストとは何か」という問いかけの意味も持っています。
こうした形の「自分探し」あるいは「問いかけ」は、この映画を見ている私たちにも迫ってくるものがあります。後藤さんはすでにジャーナリストという仕事はリタイアされていると言いますが、このパレスチナ再訪を通して、自分が夢中になって、あるいは必死になって、ある時期取り組んでいた「仕事」を振り返って、今の自分を、あるいはこれからを考える旅なのだと思うのです。
それは私たちの世代の人間にもそれぞれ当てはまる、思い当たることでもあります。
自分はそれぞれの時に何を考え、何をしたいと思ってきたのか、何もできなかったのか。
もう一度、自分の生き方を見つめ、あきらめないで何かを始め、少しでも前に進め、変革していく、そんな問いかけを自分にしてしまうのです。
この映画を見た日は、ちょうどロシアがウクライナに「侵攻」した次の日でした。
後藤さんは上映の後のトークの中で、「プーチンを作ったのも私たち。『安倍の7年間』を放置し、傍観し,なすがままにさせていたのも私たちです」と話されました。では何をこれからどのようにするか、自分に問う映画です。
この『傍観者あるいは偶然のテロリスト』を3月13日の予定している「自主制作上映映画見本市 #8」の中で上映します。以下の「自主制作上映映画見本市#8」のご案内もご覧ください。
【スタッフ】
企画・脚本・主演・監督:後藤和夫
撮影:杉本哲也 後藤和夫 千葉博文 高橋雅典 橋田信介
編集:上條芳彦
録音:三木肇
音楽演奏:Calimbo GOTO 奥村純 橋本和夫 ふくいかな子(ラパキヴィの花)
MA:ダブルアップ・サウンドデザイン
整音:金志雅彦
翻訳:川本麻依子 足立正生
ナレーション:Daniel Read
宣伝デザイン:後藤慧
制作協力:橋本和夫
協力:白井路惠 柴田徹郎 堀越一哉 橋本佳子 鈴木一光 Walid Nassar
製作・配給:クールハンドプロダクション シネマハウス大塚
2020年制作/118分/日本映画/ドキュメンタリー
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【自主制作上映映画見本市 #8】(東京・文京区)
と き:2022年3月13日 (日) 10時~ 19時
ところ:文京区民センター 3A会議室 (地下鉄春日駅・後楽園駅)
「自主制作上映映画見本市#8」プログラム
10:00~ 12:00 『傍観者あるいは偶然のテロリスト』
13:00~ 14:30 『海辺の彼女たち』
15:00~ 15:25 『ウィシュマ・サンダマリ 入管の闇に消えたスリランカ女性』
16:00~ 16:45 『オキュパイ・シャンティ インドカレー店物語』
17:00~ 18:30 『メトロレディーブルース 東京メトロ「非正規」物語』
*それぞれの映画の後に各作品の作家、出演者、関係者の方に短くお話を伺う予定です。
参加費:1日券・1回券共通 1000円
「自主制作上映映画見本市」は、映画の作り手(自主制作する人)と、映画を見せようとする人(自主上映する人)と、映画を見るのが好きな人たちを結びつける自主映画ネットワークの市場(試写会)です。誰でも参加できます。
今回は5作品。1本見ても、5本全部見ても1000円均一です。
今回は,外国人と一緒に生きることを考える作品が集まりました。
【作品解説】
10:00 ~ 12:00
『傍観者あるいは偶然のテロリスト』
パレスチナを舞台に偶然にもテロリストになってしまった男の物語を構想した後藤和夫。
彼は、そのシナリオのリアリティを検証するため、かつて取材したパレスチナを再訪する。
映画は、20年前に後藤が駆け回った紛争地帯の生々しい記憶と、現在のパレスチナ各地を歩く後藤の姿が交錯し、世界の紛争の根源地といわれるパレスチナの現状を通して、世界は、傍観者のままでいいのかを問いかけていく。
2020年作品/118分/監督・脚本:後藤和夫
配給:シネマハウス大塚 03−5972−4130
上映の後のお話:後藤和夫監督
13:00 ~ 14:30
『海辺の彼女たち』
技能実習生として日本へやってきたものの、不当な扱いを受けた職場を逃げ出した3人のベトナム人女性たち。違法な存在となった彼女たちはブローカーを頼りに新たな職を求め、雪の降る北の港町にたどり着くが……。
藤元監督がインターネットを通じて知り合った外国人技能実習生の女性が、過酷な労働の日々の末に行方知れずになったことから、彼女と同様の境遇にある女性たちを取材し、オリジナルの脚本を書き上げた。
2020年作品/88分/監督:藤元明緒
配給:E.x.N
シネマde憲法『海辺の彼女たち』
上映の後のお話:藤元 明緒 監督(予定)
15:00 ~ 15:25
『ウィシュマ・サンダマリ 入管の闇に消えたスリランカ女性』
2021年3月、名古屋入管の収容所でスリランカ女性のウィシュマさんが亡くなった。
彼女は、収容所でどのような扱いがなされていたのか。なぜ死に至ったのか。元収容者と面会支援者のかたりによって、それをさぐってゆく。犠牲者はウィシュマさんだけではない。死亡事件後も名古屋入管では、暴力的な対応、患者の放置、家族を引き裂く強制送還が、いまも続けられている。本作は、外国人収容所の実態を描いた記録である。
2021年作品/25分/制作・企画・撮影・編集:山村淳平
上映の後のお話:山村淳平さん
16:00 ~ 16:45
『オキュパイ・シャンティ インドカレー店物語』
「解雇・お店閉鎖が通告されています。」「賃金が2年払われていません。助けてください」
2016年6月、この一枚の 張り紙からシャンティのたたかいは始まった。インド・バングラデシュの人たちは「労働組合」を結成し、未払い賃金の支払いと雇用確保を求めて立ち上がった。マスコミ報道で有名になった「インドカレー店」解雇事件。はたして、彼らはその後どうなったのか。密着取材した迫真のドキュメンタリー。
2016年作品/43分/監督:松原明
配給:ビデオプレス 03-3530-8588
17:00 ~ 18:30
『メトロレディーブルース 東京メトロ「非正規」物語』〈劇場版〉
東京メトロ売店には正社員と非正規の契約社員が一緒に働いている。仕事はまったく同じ、非正規の賃金は正社員の約半分だ。何年勤めても退職金はゼロ。1年契約更新で雇い止めの不安もあった。そんな中ユニオンをつくって立ち上がったシニアの女性売店員たち。みんな10年以上のベテランだ。
映画は、初めてのストライキから、会社との交渉、そして裁判提訴とつづく「メトロレディーたち」の5年のたたかいをドキュメント。
2021年作品/83分/監督:松原明・佐々木有美
配給:ビデオプレス 03-3530-8588
上映の後のお話:松原明さん
「自主制作上映映画見本市#8」解説:憲法を考える映画の会ホームページ