映画『バークレー 市民がつくる町』
2002年の映画です。ちょうど20年前のアメリカの小都市の市民と市議会を描いた映画です。
しかし、そこには、今、私たちが、「どうしたらいいのか」と途方に暮れているこの国(日本)の政治の問題に答えを与えてくれるものがあります。
この古い映画の上映会を繰り返し行なって、今の私たちに欠けているものは何なのかを考え、話し合う材料にしたいと思わせるものがあります。こういった「民主主義」「地方自治」の教材に、何でもっと早く出会えなかったのかなあと、ちょっと残念なような気持さえします。
【映画の解説】
米西海岸、バークレー市。9・11事件後、全米世論の9割以上がアフガン空爆を支持する中で、唯一、反対決議をあげた町である。なぜ、決議が可能だったのか。その答えがビデオになった。民主主義のルールがあたりまえのように根づいていた。住民参加の町づくり。多様な市民が主人公である町の息吹が伝わってくる。
空爆開始から9日後の10月16日、バークレー市議会の議場は多くの市民で埋まった。
「ただちにアフガン空爆を停止し、暴力の連鎖を断ち切ることを求める(決議案第二項)。採決をとります」議長が宣言した。
【どうしても今の自分たちの「議会」と比べてしまいます】
このバークレー市議会の決議に至るやり取りをみていると、どうしても、つい先だって武蔵野市の市議会であった「外国籍住民にも門戸を開く住民投票条例案」の否決のことが頭から離れません。連日、外国人排斥の宣伝カーが大音響で夜中までデマを流し、それに乗じた市議会議員が「周知不足」を理由に否決してしまった事件です。そこでは、その条例がどのようなものであるかの真面な論議も行われませんでした。
国会の場でさえも、論議・討議して結論を出すという議会の基本と信頼は、アベスガ政権の7年余りの間に完全に壊されてしまいました。問題をそらす、追及をかわす、取りあげない、というゴマカシが横行して、まともで真面な議論が行われないまま、ここまで来てしまったという気持ちがあります。
そうした中でこの20年前の決議は、「市民がつくる町」だからこそあり得たことだということが切実にわかってきます。
【誰もがものをいうことを怖れる空気】
映画の冒頭は、アフガン空爆に対する審議の場面です。アメリカ全土の92%が空爆に賛成する中でのたった一つの反対決議です。決議をすることに対して何千という批判が寄せられていることも語られます。中には脅迫じみたものも多かったと言います。
でも、議員の一人が言います。「決議を上げて良かったという声もありました。あの時、誰も言うことを怖れていたからです」
【どのように討議を作っていくか】
次にバークレー市議会では、どのように市民参加型の討議を行って来たかが語られます。
たとえば、より多くの市民が参加できるように、市議会は夕方から始まること。議会審議の前に「パブリック・コメント」と言われる市民の発言の時間があって、そこでは、市民の誰もが自分の意見なり要望を議員や市民に訴えることが出来ます。
小学生が、自転車駐輪場設置の要望を訴えているところが紹介されます。「それは市議会の『パブリック・コメント』で話したらいいわ」と子どもに勧めている親たちがいることが目に浮かびます。その民主主義は自分の意見を出していくことから始まるという意識の基盤がしっかりとあることを感じます。
そしてこうした市議会のやり取りはラジオやテレビを通して全市民に届くようになっていると言います。市民の視点で、市民のための市議会であること。それらと比べて、私達は自分たちの市議会というと、どのようなイメージを持っているでしょうか。
【そうした民主主義の習慣をつくったものは何か】
議論して決めることが、市民の間に保証され、活発に続けられている。そうしたものを培ったものとして、主に学生や若者の間から起こった60年代からの公民権運動があったことが語られます。フリー・スピーチ・ムーブメント(言論の自由運動)として、議会に限らず、街の広場で、デモの集まりで、世代を超えた一人ひとりがことあるごとに自分のことばで訴えかけてきました。そして、そうした政治参加や意思表明の伝統、議論の大切さが世代を超えてきちんと伝えられている様子も、紹介されています。
短い断片的な紹介ではありますが、そうしたフリー・スピーチ・ムーブメントの形で話題にされていることは、多様性の問題や分断、貧困、まさに今の私達が抱えていて、出口が見当たらないでいる問題だと感じます。当時のブッシュ大統領の政策を批判した発言のひとつ「戦争を言い訳に使って市民の自由を制御しようとしている。人の目を外に向けさせる手段として。教育や貧困、医療の問題を怠っている」などは、まさに今の私たちの問題の中でもそのまま通用しそうです。
【メディアもまた自分たちのもの】
もうひとつ、そうしたバークレー市の市民民主主義を培ったものに、自分たち市民の側に立ったラジオ局をもっていること、それも市民の手によって作り上げてきたことが紹介されます。
このラジオ放送局が経営の危機に瀕したときには、現場で闘うプロデューサーやスタッフを助け、その継続を求めて15,000人もの市民の集会が、町の広場で開かれたといいます。単に政治は議員に、情報はマスコミに任せるというのでなく、自分たちが参加する、自分たちも発言し、行動し、自分たちで作っていくという実感がここには表れています。
【きわめてリズミカルに】
短い取材の時間の中で、良くこのようにサクサクと、民主主義や地方自治の本質をまとめられたと感心します。きっと取材者自身の問題意識が明確で、何より知りたいと思うことがはっきりしているからだと思います。市民の民主主義をつくりだした時代、その時期時期のリズミカルな音楽を活かし、跳ねるような流れで映像がつくられています。
一人ひとりが政治を自覚して、声を出していくこと、行動していくこと、そうしたことにやる気を与えてくれる、もう一度考え直そうという気にさせる気持ちのいい映画です。
【制作スタッフ】
企画・監修「バークレー 市民がつくる町」制作委員会
語り手・女性の声:山口容子 男性の声:武田武史
プロデュース:木村修
取材・構成:松原明 佐々木有美
撮影:陸田義行
音楽:村上エイジ
編集スタジオ:True Vision
現地取材協力:スティーブ・フリードキン エリス・ジョンソン
通訳・翻訳協力:青木美枝 ブラッド・ルシード キャサリン・モック みえこ・もちづき・シュワルツ 岩川保久 中村健吾 森文洋 田南田成志 山口敦朗
映像提供:マーゴット・スミス スティーブ・バイゲル
ケン・ラッセル トリスタン・トム UPI通信社
資料映像:「60年代のバークレー」
協力:平和と生活をむすぶ会 平和と民主主義をめざす全国交歓会
制作:ビデオプレス 発売:マブイ・シネコープ
日本映画/2002年制作/35分/ドキュメンタリー
【問合せ】
ビデオプレス(〒173-0036東京都板橋区向原2-22-17-108)
TEL:03-3530-8588 E-mail:mgg01231@nifty.ne.jp
DVDを3,000円で発売