映画『シャドーディール 武器ビジネスの闇』(原題:Shadow World)
「死の商人」という言葉があるということをはじめて教えてくれたのは、中学校の社会の先生だったでしょうか。しかしその時、その商人の顔は見えませんでした。いま、彼らは兵器産業、武器ビジネスのディーラーという言葉で語られるようになっています。
私たちはその兵器産業、武器ビジネスが国際政治を動かし、戦争をつくり出しているということを、うすうすは感じていながら、なかなかそのイメージを持てないでいました。
この映画を見て、現代の武器ビジネスがどのようなものであるか、それがどのように国際政治を動かしているか、戦争を必要としている人々とは誰なのか、その顔が見えた気がします。そのビジネスに関わる政治家たちの言葉が、その表情が具体的に立証してくれるからです。そして今の戦争がどうして起きるのかについて、あまり関心をもっていない人に、その危険性をうまく伝えられなくてもどかしい思いをしていたのですが、この映画を勧めることによってイメージを伝えることができる気がします。
巨額マネーが動く、もう一つの世界。“人を殺すための道具”である武器。戦争が続く限り需要が無限に生まれる。莫大な利益を生む国際武器取引を暴く、衝撃のドキュメンタリー。世界は武器であふれているのに、この実態は詳しく知られていない。映画『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』は、金と権力と個人の野望が、国家の安全保障や世界平和、人権や開発よりも優先される国際武器取引の実態を描く。
この映画は、告発者、検察官、軍事産業関係者などの証言を通じ、武器の国際取引を取り巻く政府や軍隊、情報機関や軍事会社、武器商人や代理人の複雑な関係を浮き彫りにするだけでなく、武器ビジネスがどのように腐敗を助長し、外交や経済政策を決定づけ、民主主義をないがしろにし、果てしない苦悩をもたらすのかを明らかにする。
最終的に、戦争の真の代償、武器取引の仕組み、いかに戦争兵器が市民の安全を確保するのではなく市民に向けて使われるようになるのかを暴いていく。この映画は、現実の闇に光を当てることで戦慄の実態を赤裸々に晒しているが、それはよりよい未来の構築を切望してのことである。(映画『シャドーディール 武器ビジネスの闇』公式サイトより)
やはり「新自由主義」なのだなと思いました。武器産業が国際政治をコントロールしている。そこでの「経済的自由」。「新自由主義」が行き着く先、その果てにあるのが武器ビジネスです。それらによって各国の軍隊も、反政府勢力も、国際政治も牛耳られていることがわかってきます。映画『ショック・ドクトリン』と同じく、したり顔のミルトン・フリードマンも何度も登場します。フリードマンら、シカゴ学派の新自由主義がレーガン、サッチャー、(中曽根)から始められ、ブッシュ、ブレア、チェイニー、ラムズフェルド、(小泉)らによってアフガニスタンやイラク、シリア、世界各地で武器産業と結びついて武器がばらまかれ、戦争がつくられていきます。彼らにとって安全保障の究極の形態とは永久に戦争する国家を作り出すことということがわかります。
こうしたドキュメンタリー映画によくある表現ですが、過去の映像から当事者の言った言葉を利用してたたみかけてくる編集と演出も巧みです。チェイニーとか、ラムズフェルドとかが薄ら笑いをしているところや小馬鹿にしたような答弁をとらえて、「嫌な奴」と見ているものに感じさせます。きっとそういう所だけを選んで使っているのでしょうけれども、つい感情的になってしまいます。
逆にオバマ大統領の記者会見に、女性ジャーナリストが「ドローンによる誤爆で子ども達が死んでいることに謝罪しないのか」と叫び、つまみ出される場面があります。彼女の叫びに呆然として話が続けられないでいるオバマの顔が映し出されます。その凍り付いた表情を「オバマも同罪だ」「口では平和と言っていながらやってることは結局同じ」ととるか、「オバマには、少しでも感じるところがあったから、言葉が出なかった」ととるか。私は後者と思いたいのですが、それはまだオバマに期待しているからでしょうか。それまでのブッシュ、チェイニー、アラブの国王やその周りにうごめくディーラー達の強欲な顔に苦しくなっていたからですが。
見るものに怒りの感情がわき上がってくるのは、地をはうように生活している人たちが、見えないものによって殺されていく場面です。それらが強欲なビジネスのやり取りの間に入り、それらがつながっていることのイメージになります。その視点があるからこそ、武器ビジネスがどんなものをもたらしているのか、その強欲な商売に巻き込まれる人々の、子ども達の見ているものに気付いて、はっと目を覚まされます。
どうしようもないやりきれない思いに沈む話ですが、救いはあります。そうした「経済」と「政治」に何とか抗おうとして声を上げる何人かのジャーナリストの果敢な闘いが示されるからです。おそらくこの映画もそうした同じ気持ちから作られたのだと思います。
映画の始まりと終わりに第一次世界大戦、欧州戦線でのエピソードが繰り返されます。 戦場で撃ち合いをしていた兵士達のどちらかからクリスマスの賛美歌を唱う声が流れると、その敵陣からも唱和する声が始まり、ついにはそれぞれの塹壕から出て、歩み寄り、お互いが抱き合うということがあったというエピソードです。
兵士達は、もともと殺し合いなどしたくないのだという希望を伝えるエピソードなのでしょう。それに引き替え、今の「戦争」は、そうした人間の気持ちが反応しあうなどということがあり得ない一方的な戦争です。そして誰ともわからない敵から、戦いに関係のない無防備な市民が、子どもが突然殺される戦争です。金儲けのための貪欲な欲望にだけ取り付かれた人々が、こうした戦争を必要とし、金儲けの材料にする飽くことなき戦争です。
映画の中にも「戦争のイメージはコントロールされている」という言葉が出てきます。私たちは、いまの「戦争」が何なのか、そして何がそれをつくり出しているのか、止めさせることができないのか、自分たちで考えて、声を上げ、イメージを持って伝えていかなければなりません。
監督:ヨハン・グリモンプレ
原作:アンドルー・ファインスタイン著 『武器ビジネス:マネーと戦争の「最前線」』
脚本:ヨハン・グリモンプレ、アンドルー・ファインスタイン
プロデューサー:ジョスリン・バーンズ、アナディル・ホサイン
撮影:ニコール・マッキンレー・ハーン音楽:カルステン・ファンダル
出演:エドゥアルド・ガレアーノ(声)
アンドルー・ファインスタイン、
デイヴィッド・リー、
ヘレン・ガーリック、
リッカルド・プリヴィテラ、
ピエール・スプレー、
ヴィジャイ・プラシャド、
マルタ・ベナヴィデス、
ローレンス・ウィルカーソン、
クリス・ヘッジズ、
ジェレミー・スケイヒル 他
2016年制作/アメリカ、ベルギー、デンマーク映画/90分
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト・予告編
上映情報
シアター・イメージフォーラム(東京)にて上映中