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シネマde憲法

映画『大コメ騒動』

 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)


  「もう我慢できん‼」というキャッチコピー。しっか、とこちらを見据えた井上真央さんの目力の強さに「我慢できんのは、どんな我慢だろうか?」と期待して、弾んだ気持ちで映画館に走りました。「女性の活躍が社会を変える」「百余年前の史実『米騒動』に基づく“大痛快”エンターテインメント‼」。さて…。

あらすじ
 3人の子を持つ“おかか”であり、米俵を浜へと担ぎ運ぶ女仲仕として働く松浦いとは、17歳で漁師の利夫のもとへ嫁いできた。小さな漁師町で暮らすおかか達は、家事、育児、そしてそれぞれの仕事をしながら、夫のために毎日一升のコメを詰めた弁当を作り、漁へと送り出している。
 ある日、高騰するコメの価格に頭を悩ませていたおかか達は、リーダー的存在である清んさのおばばとともにコメの積み出し阻止を試みるも、失敗に終わる。
 その騒動は地元の新聞記者により「細民、海岸に喧噪す」と報じられ、またそれを見た大阪の新聞社は陳情するおかか達を“女一揆”として大きく書き立て、騒動は全国へと広まっていく。そしてある事故をきっかけに我慢の限界がきたおかか達は、さらなる行動に出るが——。(公式サイト『大コメ騒動』おはなし[story]より)

 私事になりますが、かつて市川房枝さんの自伝映画の制作に関わった時に、市川さん自らが生きた大正時代を語る話の中に富山での「米騒動」に触れたところがあったのを想い出しました。「(名古屋から)上京の直前、八月十日ごろであったろうか、納屋橋から駅前までの道路で米騒動の大群衆に出会ったことを記憶している。富山の漁村滑川で漁村のおかみさん達が火をつけた米騒動が名古屋へ波及して、八月十、十一、十二日と連続して舞鶴公園に何万という群衆が集まり、米穀取引所を襲い、警官隊や軍隊ともみ合ったのであった」(「市川房枝自伝」戦前編)
 市川さんの話を収録したその時は、日本史の教科書に書かれていた歴史上の事件の一つとしか認識していませんでしたが、その「米騒動」が、いま劇映画という形で、生きた肉声と肉体を得て、エネルギッシュな庶民の力となってよみがえりました。
 同時に、この事件を女性史の一コマとして語り残そうとした市川さんの想いに思い至りました。そう、それは女性たちだけで立ち上がった、生身の「生活」の要求から発した市民の直接行動だったのです。

 映画の企画はとてもいい、タイムリーと思います。「女性活躍が社会を変える」「貧困・格差・分断の政治、社会に立ち向かう」、まさに私たちの今の問題ではないですか。「もう我慢できん!」元気のいい女たちの闘い、魅力的です。脚本も優れています。彼女らが闘いに立ち上がるまでを、一貫して庶民、弱いものの視点から描くことに徹しています。そして、その中に今に通じる社会の問題や、利得をめぐっての人と人とにありがちな関係を考えさせるような含みのある的確なセリフが込められています。演技もまた主役の井上真央さんはじめ、力一杯、熱演だと思います。あの米俵を背負って踏ん張る足取りはホンモノです。決起に炸裂するパワーを感じます。大正時代という時代劇を現出させる美術の確かさ、細やかさや地方ロケの活かし方など、それぞれ頑張っていて文句の付けるところがありません。
 しかし都心の映画館はパラパラでした。どうしたら、多くの人に、この映画を見たいと思う気持に動かすことができるのだろうか、と、つい考えてしまいました。やはり彼女たちが立ち上がる原点、問題意識に共感する切実なものが伝わらないと人は動かないということでしょうか。
 「大痛快エンターテインメント」にしようとした方向性は、とても良いと思います。そのエンターテインメントを志向したワクワクと楽しませる部分と「家族のいのちを守りたい」という深刻なリアリティのある問題とのかみ合わせが難しいな、と思いました。彼女たちが、やむにやまれず立ち上がる内側からの圧力のようなものが実感・共感としてとらえられるものでなければと思ったのです。
 最近見て感心した「弱いものが立ち上がる」痛快な映画が二つあります。1953年製作のアメリカ映画『地の塩』(シネマde憲法 2020年10月19日紹介)と2018年作品『パブリック 図書館の奇跡』(同11月2日紹介)です。そのどちらもが彼ら、彼女たちが立ち上がるまでの理不尽をきっちりと描いていたからこそ、共感、共鳴を引き起こし、痛快さを感じさせていたと気づきました。
 
 井上真央さんがインタビューに答えて「ママさんバレーみたいな感じで楽しかったです」。作品を通して女性たちが多い現場ならではの明るさが画面からも感じられます。その明るさにこの映画の本質があるのかもしれません。そうそう庶民のアマチュアの闘争は明るくなくっちゃ、そんなことを感じました。映画を見た人が「ふーん、日本でもこんなことがあったんだ」と言うだけでなく、そうだ、私たちも「もう我慢できん!」という気持に共感するといいな、と思いました!

【スタッフ】
原案・監督:本木克英
脚本:谷本佳織
撮影:南野保彦
編集:川瀬功
製作:岩城レイ子
音楽:田中拓人
主題歌:米米CLUB「愛を米て」
制作会社:エース・プロダクション
製作会社:「大コメ騒動」製作委員会
配給:ラビットハウス エレファントハウス

【キャスト】
井上真央(松浦いと)
三浦貴大(松浦利夫)
夏木マリ(松浦タキ)
立川志の輔(尾上公作)
吹越満(水野源蔵)
鈴木砂羽(水野トキ)
舞羽美海(小川サチ)
左時枝(鷲田とみ)
柴田理恵(きみ)
木下ほうか(鳥井鈴太郎)
西村まさ彦(活動家)
中尾暢樹(一ノ瀬実)
冨樫真(沢辺フジ)
窪塚俊介
工藤遥(池田雪)
吉本実憂(ヒサ)
内浦純一(熊澤剛史)
石橋蓮司(黒岩仙太郎)
室井滋(清んさのおばば)

2021年制作・106分・日本映画

公式サイト
予告編
上映情報:TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ日本橋、TOHOシネマズ錦糸町、
イオンシネマ多摩センターほか全国公開中


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