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シネマde憲法

映画『戦車闘争』

 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



  映画案内の真っ赤なチラシ、画面からはみ出しそうな勢いのあるメインタイトル文字。その名も『戦車闘争』。キャッチコピーは「世界最強軍VS一般市民 勝つのはどっちだ!?」。ずいぶんと好戦的というか、戦闘的に押し出してきたなあ、という第一印象です。
 「相模原で戦車闘争……?」、知らない人は「何のこと?」と思うでしょう。同時代に生きて、多少は反戦・市民の運動にも関心のあった私でも、事件の名は記憶にはありますが、「闘争」としては、よく知りませんでした。だから多くの人がこの50年あまり前の事件(闘争)を知らないと思います。

【解説】
 ベトナム戦争終盤の1972年に神奈川県の米軍施設付近で発生した市民による反戦運動「戦車闘争」を題材にしたドキュメンタリー。
 1972年、米軍はベトナムで破損した戦車を神奈川県相模原市の米陸軍相模総合補給廠で修理し、再び戦場へ送るため横浜の港湾施設へ輸送していた。
 その事実に憤った市民が施設付近に結集し、戦車の輸送を阻止。この事件をきっかけに、およそ100日間におよぶ抗議活動が始まった。
 抗議活動参加者、機動隊員、活動に巻き込まれた地元商店主、市議会議員など、あらゆる立場の当事者や専門家など総勢54人の証言と膨大な資料を通して闘争の顛末を描き、現在の日米関係や憲法の抱える問題をあぶり出していく。(映画.com『戦車闘争』解説より)

 安保条約の自動延長の年でもあった1970年前後は様々な形で市民の運動が活発化しました。いわゆる学園紛争(大学闘争)や沖縄返還運動、三里塚闘争、ベトナム反戦運動など。あれからおよそ50年の今年、2020年はその節目の年ということもあって、あの頃の市民運動、学生運動を題材に、回顧するようなドキュメンタリー映画や番組がいくつか作られています。
 この映画も、そうした中で、かつての歴戦の闘士たちが当時を懐かしんで「あん時は若かった、元気だった」「機動隊にぽかぽか殴られてさあ」などと語るような映画かなと先入観を持って見ました。そういう所も無いわけではないのですが、それだけというわけでもありませんでした。話の内容から、構成は大きく三つくらいに分けられるかと思います。
 (1) (あまり今は知られていない)「戦車を止めた」相模原の『反戦運動』とはどのようなものだったのか。主にその運動を始めた当事者に聞くこと。
 (2) その「相模原戦車搬出阻止事件」の経過とその後をめぐって、賛同と批判のそれぞれの立場から証言(記憶、感想、思い)
 (3) 現在に続く日米安保と基地の問題、基地闘争・反戦運動と安保・憲法の関係を明らかにする。

 映画を見ていて、話の進め方が何か前に見た映画の進め方に似ているなと思いました。それは「慰安婦少女像」をめぐる論争を描いた映画『主戦場』(シネマde憲法2019年5月20日)でした。
 事件の当事者、あるいは、それについて何らかの意見を持っている人に、それぞれの立場から話を聞き(証言してもらう)中で、映画を見る人が、その事件がどういう事件であったか考えてくという形です。証言の話の切り込み方、鋭いカッティング(編集)、話がダレないように活気づける音楽の足し方なども少し感じが似ています。取材者は、あくまでどちらかの味方になって感情的に押しつけるというのでなく淡々と取材し、それでいて中立を気取るわけでもなく、取材した人の言葉を巧みに切り取っていきます。

 ここでは、むしろ「闘争」に批判的だった人たちのコメントに興味が引かれます。収拾を図るために相模原市長に働きかけた保守系の市議会議員や、戦車阻止のデモ(座り込み)に加わった市民を排除した警察関係者、また戦車搭載のトレーラーの輸送業者にまで話を聞きに行きます。
 基地から戦車トレーラーが出る出口、相模補給廠西門のテント村周辺の住民で、デモ隊に好意を持っている人は「一番儲かったのは、デモ隊が入りに行った銭湯じゃないか」などと言い、当の銭湯のおばあさんは当時を振り返って「暴動」と言い放ち、迷惑でしかなかったと言いきります。
 「ベトナムに、戦争で人を殺している戦車を送るな」という反戦の声は、はじめは多くの人の共鳴を生みますが、しだいにデモ、座り込み自体を疎ましく思う人が多くなり、暴力的な機動隊の制圧によって、しだいに「過激派」呼ばわりされるようになっていきます。運動自体が何をめざしているかではなく、どのような迷惑な行動、あるいは不利益な行為がおきているかといった話に変質していきます。
 運動を作っていった人たちの話を聞いていれば、どうしたら法にかなった運動としていけるか、暴力的なものにしないように、ならないように十分に注意を払った「闘争」であることがわかるのですが、警察や行政、あるいはメディアも加担して、いつの間にか、暴力学生が、過激派が跳ね上がった違法行為をしている……、という風潮に置き換えられていってしまうことがわかります。
 こうした流れは、この時代の社会の流れを背景にしたものであったのかもしれませんし、またそうした流れにすべく、いろいろと操作して作られた結果なのかもしれません。
 そして、それ以降の基地闘争や反戦運動の中でも、基地に反対する運動自体が、危険なものと思い込ませることが続けられました。そのように思い込んだ保守的な人たちは、反戦、反軍、反基地の考え方を、思考の外に押し出してしまって、世界でどのような理不尽な戦争や紛争が起きていても、それに日本が国として加担しようとも、反戦の呼びかけには耳を貸そうとしなくなってしまうのです。

 こうした映像や証言によって、運動の作られる過程あるいはそれが力を失っていく過程には、どのような周辺とのエンカレッジの相互作用があって、かつ軋轢があるのか、単に事件の経過を追うだけでなく、見えてくるものがあります。しかし、そこで映画が終わったら、こういう事件があったという「運動の記録」に終わってしまうのですが、この映画では、そこから現在までずっとつながっている問題を提起していきます。
 「米軍基地は何のためにあるのか」、「日米安保という戦後の歴史を作ってきたもの」の含んでいる問題を、それが何も解決されないまま、私たちの現在の、そして未来の問題になっていることを、同じようにさまざまな立場の人からの証言によって明らかにしていきます。そうしてそれを考えるのは、この映画を見ている人たちであることを感じさせていきます。

 「反戦」という言葉が、日常会話の言葉ではなくなってずいぶん久しくなっているのではないでしょうか。「戦争」ということ自体、イラクとか、シリアとか、アフガニスタンとか遠いところで行われているという認識が私たちの多くなのではないでしょうか。しかし、戦争の準備はさらに続けられ、それに巻き込まれる危険を導く法と制度は、この50年間で比べものにならない位に強められてきました。それをどうやって関心のない人たちに自分たちのこととして関心をもってもらうことができるのか。
 登場人物のひとり、立教大学で「1972年の『戦車搬出阻止闘争』における一研究」を論じた宮本皐さんは、身近な、現在の問題として「戦争」をイメージできる人と思います。
 戦車のキャラクターを美少女主人公達と結びつけた人気のアニメ『ガールズ&パンツァー』に触れ、「どんな兵器も必ず殺された人々がいる。笑ってみることはできない」と言葉を詰まらせていました。もっともっと戦争あるいは反戦ということをテーマとした映画・映像を通して、それらに対するイメージを豊かにしていくこと、私たちが見てこようとしてこなかった今日、そしてあすからの問題に関心をもって、自分たちの問題として考えていくことが大切と思います。

【スタッフ】
企画・プロデューサー・インタビューアー:小池和洋
監督・撮影:辻豊史
録音:廣木邦人 古賀陽大
スタジオエンジニア:藤林繁
音楽:金澤美也子 植村昌弘 井筒好治
エンディング曲:テニスコーツ
ナレーション:泉谷しげる
写真提供:石川文洋 沢田サタ 佐藤美知男 田中アキラ
製作:戦車闘争の映画をつくる会
製作プロダクション:(有)フィルムクラフト
2020年制作/104分/日本映画

【出演者】
吉岡 忍(ノンフィクション作家・日本ペンクラブ会長)
檜鼻達実(元相模原市職員)
山田広美(元東京新聞記者)
賴 和太郎(市民団体「リムピース」編集長)
山本章子(琉球大学准教授)
小俣恭志(元相模原市職員・「戦車の前に座り込め」執筆メンバー)
今井晴司(元電機労連神奈川地方協議会議長)
渋谷正子(元日本婦人会議相模原支部事務局長)
栗田尚弥(沖縄東アジア研究センター主任研究員)
上田忠男(元相模原市市議会議員)
西村綾子(相模原市議会議員)
石川 巌(元朝日新聞社会部記者)
沢田政司(相模補給廠監視団「監視団ニュース」発行者)
内田 清(相模補給廠監視団活動家)
丸 利一(神奈川県平和委員会代表委員)
菅沼幹夫(相模原市平和委員会代表)
早川幸男(ベ平連活動家)
新原昭治(国際問題研究者)
野崎泰志(元日本福祉大学教授)
杉本憲昭(元藤野町町議)
宮原昭夫(小説家・芥川賞受賞作家))
和田春樹(東京大学社会科学研究所名誉教授・歴史学者)
佐伯昌平(「大泉市民の集い」メンバー)
山口幸夫(原子力資料情報室共同代表)
沼野充義(東京大学教授)
梅林宏道(NPO法人「ピースデポ」特別顧問)
尾中正樹(元相模原市職員)
片岡利男(元社会党相模原支部教宣部長)
松山正一(当時高校生で「戦車闘争」に参加)
豊嶋康男(元神奈川県警機動隊員)
田辺一男(仮名)(元神奈川県警巡査・関東管区機動隊員)
新倉裕史(「自衛官 市民ホットライン」活動家「横須賀、基地の街を歩きつづけて」著者)
浦上裕史(相模補給廠西門文房具店「菊屋浦上商事」店主)
出島久子(相模補給廠西門銭湯「相模浴場」経営者)
志村英昭(相模補給廠西門喫茶店経営者)
溝淵誠之(元相模原市議会議員・幼稚園経営者)
小川祐司(当時富国運輸整備担当課長)
小川 満(当時富国運輸整備営業担当課長)
林 貞三(元横浜市交通局労働組合員)
岡田 理(ジャーナリスト)
田中将治(戦車闘争に参加して勤務会社に不当解雇され裁判を行い勝訴)
宮本 皐(当時立教大学大学院生「1972年の『戦車搬出阻止闘争』における一研究」著書)郡山ルリ子(戦車闘争支援者)
丹治栄三(元相模原市議会議員・県議)
羽田博昭(横浜市史資料室調査研究員)
春名幹男(ジャーナリスト)
リラン・バクレー(映画監督)
ライアン・ホームバーグ(漫画研究者・東京大学大学院人文社会学研究科特任准教授)
福永文夫(獨協大学教授・日本政治外交史・政治学)
森田 一(元衆議院議員・運輸大臣)
明田川 融(法政大学法学部教授・日本政治外交史)
金子 豊貴男(相模原市市議会議員)
伊勢﨑 賢治(日本外国語大学大学院国際学研究院教授)
末浪靖司(ジャーナリスト)
(※出演者の肩書きは、映画『戦車闘争』パンフレット「出演者(登場順)」から抜き書きさせていただきました。当時の肩書きか現在の肩書きか、など正確でないものがあるかもしれません。詳しくはパンフレットか映画をご覧ください)

【公式サイト】
【予告編】
【上映情報】ポレポレ東中野(東京都中野区)、あつぎのえいがかんkiki(厚木市)で上映中、全国上映展開予定(上映希望など問合せは公式サイトから)


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