• HOME
  • 今週の一言
  • 浦部法穂の憲法雑記帳
  • 憲法関連論文・書籍情報
  • シネマde憲法
  • 憲法をめぐる動向
  • 事務局からのご案内
  • 研究所紹介
  • 賛助会員募集
  • プライバシーポリシー
シネマde憲法

映画『オフィシャル・シークレット』(原題:OFFICIAK SECRETS)

 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)


 この映画のキャッチコピー「国家の嘘を暴く」。日頃、政府の嘘に憤慨している私としては、これは見なくてはと思いました。
 「本作に込めた思いは?」と尋ねられたこの映画の監督は答えます。「この作品のテーマは『あなたならどうする?』です。(中略)作品は答えを提供しません。観て、感じて、鑑賞後にはみんなで語り合ってほしいと思います。」
 今までこうした情報漏洩や内部告発を題材にした映画はいくつか思い当たるのですが、その当事者、情報を漏洩した人間が、その時、その後、どのように迷い、どのように苦しみ、そこから解き放たれたときに自分のやったことや仕事に対して何を思ったかを問いつめた作品は多くはなかったと思います。そしてこの映画は、その当事者の思いを追体験するような形でそれぞれが自分の仕事に当てはめて考えることのできる映画のようです。
 「あなたならどうする?」を突きつけてくる映画です。

【ストーリー】
 2003年1月。英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)で働くキャサリン・ガンはある日、米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)から送られたメールを見て愕然とする。英米がイラク侵攻を強行するため、国連安全保障理事会のメンバーに対するスパイ活動を指示するものだった。その内容に憤りを感じたキャサリンは、元同僚の友人を訪ね、マスコミにリークしたいと相談する。
 2週間後、メールの内容が英国「オブザーバー」紙の一面を飾った。マーティン・ブライト記者の勇気ある告発記事だった。
 英国の諜報機関GCHQでは、リークした犯人探しが始まり、職員一人一人への執拗な取り調べが繰り返された。キャサリンは、自分の仕事仲間にまで尋問が及ぶ状況に耐えきれず、自ら「リークしたのは自分だ」と名乗り出る。
 (映画『オフィシャル・シークレット』公式サイト「ストーリー」より)

 主人公のキャサリンを演じたキーラ・ナイトレイは、インタビューにこう答えています。
「本作は、良心と倫理観について描かれた物語です。この物語は、あなたに深刻な疑問を投げかけてきます。良心を持つ人は諜報員になれないかもしれません。でもそれでいいのですか?たとえ政府が不正を行っていたとしても、諜報員はその情報を公にすることは出来ません。逮捕されてしまうから。でもそれでいいのですか?作品を観ればわかりますが、政府は不正を行っても法を免れます。ほんとうにそれでいいのですか。」
 この問いかけを、そのまま私たちのこの国で行われている政治やそれに関わる「仕事」に置き換えて考えてみましょう。公務員、あるいは官僚と言われる人と、今の政治で行われている「不正」の問題に重なります。公務員は政治の不正を知っても、個人としてその良心や倫理観から「不正が行われていること、法が守られていないことがおかしい」と言えません。不正があっても忖度して黙って与えられた仕事を行う、あるいはそのことを隠す。その良心や倫理観に苦しむ人は,「森友学園事件」の赤木俊夫さんのように苦しみ抜き、自ら命を絶つしかない、それが今のこの国の政治なのです。
 私たちはこの映画を見て、国家機密漏洩者で、内部告発者であるキャサリンの苦しみを知ると共に、それでも彼女の家族やメディア、弁護士と彼女を孤立させなかった人々がいたことを知ります。そして、彼女が有罪に問われること自体がおかしい、彼女は何をしたかったのかをとりあげ受け止める社会の制度や論議があることを知ります。それが私たちの政治や社会にはあるのでしょうか。
 この映画はまた、公務員としての彼女の仕事に対する認識の成長を描きます。「根拠のない不法な戦争で多くの犠牲者を生み出す事態を防ぎたい」という義憤から発したキャサリンの認識の到達点は「政府は変わる、私は国民に仕えている」というところに行き着きます。「国民のために集められた情報はすべて公表されるべきだ」。まさに日本国憲法の第15条が示している「すべての公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」が示すところでしょう。

 そのインタビューは次のように締めくくっています。「英国民も米国民も、どの国の人であっても、政府が正しいかどうかを疑問視することが大切なのです」。
 それは、公務員が持つべき真の意味での存在意義であると共に、公務員として働く人の仕事に対する、国民に仕える「誇り」なのではないでしょうか。すべての仕事にそれは通じるものかもしれません。

【スタッフ】
監督:ギャヴィン・フッド
脚本:ギャヴィン・フッド グレゴリー・バーンスタイン サラ・バーンスタイン
原作:マルシア・ミッチェル、トーマス・ミッチェル『The Spy Who Tried to Stop a War』
製作:ゲド・ドハティ エリザベス・フォーラー メリッサ・シュー・ツォ
製作総指揮:エヴェン・ベアントセン クローディア・ブルームフーバー 
      ヒューゴ・ヘッペル アン・シーアン サラ・スミス マーク・ゴードン 
      コリン・ファース 
音楽:ポール・ヘプカー マーク・キリアン
撮影:フロリアン・ホーフマイスター
編集:ミーガン・ギル
製作会社:クリア・ピクチャーズ・エンターテインメント レインドッグ・フィルムズ
     レインドッグ・フィルムズ レインドッグ・フィルムズ

【キャスト】
•キーラ・ナイトレイ(キャサリン・ガン=もとGCHO職員)
•マット・スミス(マーティン・ブライト=オブザーバー紙記者)
•リス・エヴァンス (エド・ヴリアミー==オブザーバー紙米国駐在記者)
•マシュー・グード (ピーター・ボーモント=オブザーバー紙従軍記者)
•アダム・バクリ (ヤーサー・ガン=キャサリンの夫)
•インディラ・ヴァルマ (シャミ・チャクラバルティ=リバティの所長)
•レイフ・ファインズ (ベン・エマーソン=リバティの弁護士)
•コンリース・ヒル (ロジャー・アルトン==オブザーバー紙編集長)
•ジェレミー・ノーサム(ケン・マクドナルド=公訴局長)
•ハティ・モラハン (イヴォンヌ・リドリー=反戦活動家・記者)
•ジョン・ヘファーナン (ジェームズ・ウェルチ=リバティの弁護士)
•マイアンナ・バーリング (ジャスミン=キャサリンの友人)

2018年制作・イギリス映画・112分

公式サイト
予告編
上映情報
TOHOシネマズ シャンテ、kino cinema立川高島屋S.C.館など全国公開中


バックナンバー
バックナンバー

〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町17-5
TEL:03-5489-2153 Mail:info@jicl.jp
Copyright© Japan Institute of Constitutional Law. All rights reserved.
プライバシーポリシー