天気の良い朝など、住まいの近くの国分寺まで走ることがあります。山門の前に、お地蔵様の石仏が二つ並んでいます。手を合わせ、どの子に、ということでなく「子ども達をよろしく」とお祈りします。もうひとつには「兩親**菩提」の文字が刻まれているのが読めます。「子ども達のお父さん、お母さんもよろしく」勝手にそうお祈りしています。
この映画のタイトルを見た時に、この二つのお地蔵様が頭に浮かびました。
【物語】
東京にほど近い北関東のとある街。デリヘルで働く優樹菜(鎌滝えり)は、実の母親・妙子(有森也実)と義父・辰郎(村上淳)そして、辰郎の連れ子・稔(杉田雷麟)の四人家族。
辰郎は酒に酔うと、妙子と稔には暴力、血の繋がらない優樹菜には性暴力を繰り返した。
母の妙子は、まったくなす術なく、見てみぬふり。義弟の稔は、父と母に不満を感じながら優樹菜に淡い想いを抱いていた。
優樹菜が働くデリヘル「ラブラブ48」で運転手をする貞夫(川瀬陽太)は、妻に逃げられ重度のギャンブル依存症。一人息子・洋一(椿三期)をほったらかし帰宅するのはいつも深夜。洋一は暗く狭い部屋の中、帰ることのない母を待ち続けていた。
稔と洋一は、同じ学校に通う中学二年生。もとは仲の良い二人だったが、洋一は稔たちのグループからいじめの標的にされていた。
ある日、稔は家の中で、デリヘルの名刺を拾う。姉の仕事に疑問を抱いた稔は、自分も洋一と同じ、いじめられる側になってしまうのではないかと、一人怯えるようになる。
稔と洋一、そして優樹菜。家族ナシ。友だちナシ。家ナシ。居場所をなくした彼らがとった行動とは―― (映画『子どもたちをよろしく』公式ホームページより)
救いのない話です。この映画の作り手はその救いをどこに求めているのでしょうか?どこに「子どもたちをよろしく」と言うのでしょうか?
こんなひどい情況の中に、子ども達が置かれているのだ、子どもが苦しんでるのだと知らせるだけの映画ではないはずです。子ども達が見て「いじめはいけないから止めよう」と教える教育映画でもありません。
でも教育映画らしさを感じてしまいます。それはきっと演技・演出のせいではなく、何かを伝えなければならないという作り手の意識がそうさせるのでしょう。あるいは、おとなだけでなく、子ども達にも一緒に見て考えてほしいという気持ちがそういうところに表れるのかもしれません。
映画が終わった後、この映画を企画した前川喜平さんの話を聞くことができました。
前川さんは「暴力的な場面もあって、最後は自殺してしまうという終わり方で、どうかと思ったのですが、どう思われたでしょうか……。いじめ、貧困をはじめとする子ども達の抱えている問題、でもそれぞれの家庭の中は見えないので、そこを描きたかった」と話されていました。
「このような映画は、見終わった後で、一緒に見た人ときちんと話すのが良いですよね」と私も話しました。ひとりひとりで見ても、もちろんいろいろと考えるでしょう。
でもそれは結局、他の人や子ども達の可哀想な話で終わってしまわないか。「ああいう親だからあんなことになるのだ」、「うちは違うから…」というところに時間がたつと埋没してしまわないか。それをどうやって自分自身の問題として考えることができるのだろうか、今、子どもを抱えた親たちも、おとなたちも救われない中にある、それは何が悪いのか、どうしたら良いのかを出し合って考えていかないと動きになっていかないと思うのです。
何が悪いのか?私は、子ども達をそうしたところに追い込んだままにしている教育が悪いと思うし、そのように教育を利用しようとしてきた政治が悪い、そしてそれを良しとしてきた、あるいは自分たちの利益ばかりを考えてきた社会、わたしたちのつくっている社会が悪いと考えます。
そうしたことに気付いて、悩み考えている子ども達にこそ、教えを求めていかなければ、この社会を自分たちのものにできないのではないでしょうか。
【キャスト】
鎌滝えり(赤沢優樹菜)
杉田雷麟(赤沢稔)
村上淳(優樹菜の父 辰郎)
有森也実(優樹菜の母 妙子)
椿三期(吉原洋一)
川瀬陽太(洋一の父 貞夫)
金丸竜也(山岸良太)
大宮千莉(大河内美咲)
武田勝斗(佐々木亮平)
斉藤陽一郎(デリヘル店長 安藤誠)
山田キヌヲ(美咲の母 大河内千鶴)
ぎぃ子(スナック「トマーズ」ホステス 朋美)
速水今日子(スナック「トマーズ」ママ)
林家たこ蔵(デリヘル店員 タケシ)
外波山文明(市会議員・中山修造)
【スタッフ】
監督・脚本:住田靖
企画:寺脇研 前川喜平
統括プロデューサー:寺脇研
プロデューサー:片嶋一貴
撮影:鍋島淳裕
照明:堀口健
録音:臼井勝
美術:佐々木記貴
衣装:橋爪里佳
ヘアメイク:松本智菜美
編集:大畑英亮
音楽:遠藤幹雄
特別協力:澤井信一郎
企画・制作:「子どもたちをよろしく」製作運動体
制作プロダクション:ドッグシュガー
配給・宣伝:太秦
2019年制作/日本映画/105分
上映情報
ユーロスペース(渋谷)他、全国上映中
※ただし、今般のコロナ感染対策のため、この間、閉鎖中のところが相次いでいます。
直接、上映館にご確認ください。