いろいろな意味で良くできた映画だと思います。そして要するにアクション映画です。
観客を楽しませる映画であって、十二分に楽しむことができました。期待以上、想像以上でした。期待は、戦争映画をワンカット撮影で描くというチャレンジ、それをどの様にやるのだろうかというところにありました。しかしながら、というか、「リアルタイム・ワンカット撮影」だからこそというか、俳優の演技も、セリフも、話の展開も、主人公二人をつきまとうようなカメラの動きとそれが捉えるものの的確さも、実にしっかりとした見応えの十二分にあるものでした。
個人的な話ですが、わずか20日足らずの間に、第一次大戦を描いた二つの映画を見ることになりました。それも西部戦線。戦況は膠着し文字通り泥沼化した前線で、もがく若者の兵士の視点で描かれたところまでそっくりの二つの作品でした。描かれるものは同じでも、それをどの様に描くか、映画の表現としては正反対のものでした。
ひとつは『彼らは生きていた』。2月10日に、この欄でご紹介した映画です。1917年当時に撮影された記録フィルムを、現在のデジタル技術によって彩色、映像として再生したもので、まさに本物の戦争をそのまま描いたドキュメンタリー。もうひとつは、この『1917 命をかけた伝令』。すべて徹底した作り物ですが、戦争のリアルを再現し、その中に懸命に生きる人の気持ちを描こうとしたドラマです。
そしてどちらも、見ている観客が、その深く長く掘られた塹壕を這い回って、常に生命の危険にさらされているという思いをさせられることになります。まったく正反対の、対照的な表現なのに、画面から受けるイメージには共通のものがあります。(あるいはたまたまこの二つの作品を同時期に見てしまったので、その二つの映像の記憶が交錯し、累乗化して感じ方をより強くしたのかもしれません)
表現の手法としては、何と行っても「ワンシーン・ワンカット」ならぬ全編ワンカットの撮影です。映画作りにそのような条件というか制約を課したことが、既にこの映画のアイデンティティかもしれません。何でこんな無茶な制約を課して映画にしようとしたのかと思ってしまいます。しかしこの制約で撮ろうとしたこと自体が、俳優の演技にも、撮影技術にも、美術にも、セリフ(脚本)にも、そして演出にも、ただならぬ緊張感をもたらし、おそらく現場の一体化を生み出しレベルの高い作品が作り上げられたのではないかと思います。不可能を可能にする、できそうにないことをやり切るんだというエネルギーになっているのだと思います。そして、そのことが観客の気持を巻き込み、包み込み、引きずり込んで、悪い夢を見てトラウマにでもなりそうな体験、没入感と堪能したという満足をもたらすのだと思います。
ワンカット映像の撮影ですから、主人公の若者、二人の伝令とそれを追うカメラは、「カット!」「止まれ!」の声がかからないので、前へ前へと進んでいかなくてはならないことになります。ただひたすら後退せずに、限られた時間の中で、目的に向かって突き進みます。「舞台の芝居と同じで、間違えても演じ続けなければならない」「カットなしで6分も撮影していると、完全に我を忘れ、役になりきる」と演じた俳優はメイキング映像の中で述懐しています。
主人公の若者二人が命令を伝達するべく8時間で、西部戦線を駆け抜けることになります。その間に待ち受けているものは何か。見ている方も最初の頃は、悲惨で逃げ場のない戦場のリアルそのものにビクビクしていたのですが、やがてゲーム、それもスーパーマリオのようなロールプレイングゲームをしているような気持ちになってきました。「次は何が来る」「次はどうなる」といった「ゲーム感覚」、同じようなコメントが『彼らは生きていた』の中の戦争体験者のコメントにもあったことを思い出し、それが戦争に行った若者の感覚なのだろうと少しゾクッとしました。
戦場を駆け抜ける若者たち、ある意味、スポーツのようなゲームのような感覚はありますが、そこは生と死が常にそこにある戦場のはずです。「死」を想像する意識が二つの作品とも見ていくうちにどんどん薄くなることが恐くなりました。
緻密に丹念に作られたリアリティとその現場に居合わせたものの撮った記録、どちらが戦争の真実を伝えるものになるのか、そして何を真実として捉えるのか、そんなことを考えさせられました。
【スタッフ】
監督:サム・メンデス
脚本:サム・メンデス クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
製作:サム・メンデス ピッパ・ハリス カラム・マクドゥガル
ブライアン・オリヴァー
製作総指揮:ジェブ・ブロディ Ricardo Marco Budé
イグナシオ・サラザール=シンプソン
撮影:ロジャー・ディーキンス
美術:デニス・ガスナー
衣装:ジャクリーン・デュラン デビッド・クロスマン
編集:リー・スミス
音楽:トーマス・ニューマン
製作会社:ドリームワークス リライアンス・エンターテインメント
アンブリン・パートナーズ
【キャスト】
ジョージ・マッケイ(ウィリアム・スコフィールド上等兵)
ディーン=チャールズ・チャップマン(トム・ブレイク上等兵)
マーク・ストロング(スミス大尉)
アンドリュー・スコット(レスリー中尉)
リチャード・マッデン(ジョセフ・ブレイク中尉)
クレア・デバーク(ラウリ)
コリン・ファース(エリンモア将軍)
ベネディクト・カンバーバッチ(マッケンジー大佐)
2019年 119分 イギリス・アメリカ映画
配給:ユニバーサル・ピクチャーズ 東宝東和
公式ホームページ
予告編
上映情報
TOHOシネマズ日比谷、新宿ピカデリーなど全国上映中