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シネマde憲法
映画『アフガニスタン 用水路が運ぶ恵みと平和』
 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)

 この映画の「技術編」については、2016年12月26日に「シネマ・DE・憲法」で紹介させていただいております。今回、「憲法を考える映画の会」で、この映画の「本篇」と「技術編」をあわせて上映することにしましたので、再度視点を変えて紹介させていただきたいと思いました。

 この映画は、昨年12月に銃撃されて亡くなった中村哲さんたちの仕事を描いたドキュメンタリーです。同じスタッフによって撮影された映像をもとにつくられたNHKの番組が中村哲さん自身を中心に描いているのに比べて、ペシャワール会と中村さんたちの「仕事」そのものを描いているような気がします。この作品の企画自体が、活動の主体であるペシャワール会ですので、中村さん自身が伝えたいと思ったことが映像に色濃く出ているように思います。とくに2部構成になっている「技術編 PMS(Peace (Japan) Medical Services)」の灌漑方式」は「どのようにしたら、荒れ果てた砂漠に水を引くことができるか」を描く懇切な土木技術映画のようでもあります。
 たとえば、中村さんたちの作った用水路の建設が最も難航した最大のポイントは、取水口にどうやって水を導くのかにありましたが、そこでは、日本の江戸時代の福岡県の筑後川の山田堰の技術が使われました。それはおそらく、無名の村人たちが失敗を繰り返し、工夫を重ねつくりあげたものと思います。用水路の護岸には現地の材料だけでできる日本の伝統土木技術「蛇籠」も使われています。つまり、最新技術を導入するのではなく、現地の材料を使って現地の人々ができる技術を使って用水路を作ることへのこだわりがここにあります。
 こうした民衆の、民衆による、民衆のための技術、それが日本の「民衆」からからアフガニスタンの「民衆」に伝えられ、役に立ったところに中村さんの誇らしい想いが感じられます。

 中村さんはまた、この用水路が土地の民衆によって作られることを最も重要と考えました。そうすることによってこそ、用水路はメンテナンスされ、守られ、他の土地にも拡げることができる技術として根付いていくことができる、と確信していたのでしょう。自分たちがいなくなってしまったら、終わりになってしまう「技術移転」ではなく、人々が力を合わせて続けていけば、その力が持続し、さらに拡げられる。アフガニスタンだけでなく、世界中の困っている人たちが水を得てその恵みと平和を得ることのできる技術を、と考えていたことがわかります。
 そうした意味で、この「技術編」の映像は、用水路を作り続ける人たちへ贈る「教科書」のような意味を込めて作られたのではないかと想像します。だからこそ、ていねいに、ていねいに自分たちがどのように用水路を作っていったかが描かれているのだと思います。

 中村哲さんたちの仕事は、日本国憲法を実現したものと讃える声を聞きます。
 中村さんご自身も、「アフガニスタンで考える 国際貢献と憲法9条」というブックレットを書かれていますし、それらの著作の中で「自分たちの仕事を続ける中で、日本国憲法をどう捉えるか」について何度も触れています。

 その一つは、非武装を貫いたこと。丸腰で、武器を持たないで活動を続けてきて、それでしかここでは活動ができないという確信をもっていました。
 「私たちは武器を持ったことがありません。これからも持つつもりはありません。これが一番の安全保障だと実体験から私は確信しています。」それは憲法第9条のめざすものにつながります。
 残念ながら、そしてとても悲しいことに、中村さんはそうした非武装を守りながら、銃弾に倒れてしまいました。しかし、中村さんはそれをも覚悟の上で毎日を過ごし、活動を続け、その「非武装」というあり方が間違っていなかったと、私たちになお語りかけていると受け止めたいです。

 もうひとつは、日本が憲法の趣旨に反して、自衛隊を海外に出すことが、自分たちの活動の妨げになること、ひいてはこれまで積み上げた日本人や日本という国への信頼を壊すことを繰り返し訴えています。
 「戦争と混乱の中で、約30年、日本が、日本人が展開しているという信頼が大きいのは間違いありません。アフガンで日露戦争とヒロシマナガサキを知らない人はいません。(中略)戦後は原爆を落とされた廃墟から驚異的な速度で経済大国になりながら、一度も他国に軍事介入したことがない姿を称賛する。言ってみれば、憲法9条を具現化してきた国のあり方が信頼の源になっているのです。」
 「自衛隊がここに来たら、私は逃げなければならない。武力を使う日本に対する敵意が、アフガン人の中に生まれてしまう。活動はこれまでになく危険になる。武力でトラブルを起こすようなまねはしないでほしい。政府の方針は、会の活動を脅かすものにしか思えない。」(2014年5月17日安倍首相が集団的自衛権の行使容認を検討すると表明したことについて取材に答えて)

 中村さんの仕事こそが、憲法第9条の精神を、あるいは憲法の前文で誓っていることを、実現していると言えるのではないでしょうか。

 「…日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」
 中村さんの行動から、日本国憲法が、日本の平和だけでなく、世界の人々の平和に向けて積極的な意思を表すものであることが読み取れます。中村さんの活動こそ、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位」を与えられるものと思います。
 この映画を通して、中村さんのやり遂げたこと、そしてやろうとしたことを、もう一度日本国憲法第9条は何をめざしているものか、それに自分たちはどの様なことができるのかを考えて行きたいと思います。

【スタッフ】
朗読 吉永小百合
ナレーション 濱中博久
取材:柿木喜久夫
大月啓介
アミン・ウラー・ベイグ
編集:櫻木まゆみ
構成・制作:上田未生
撮影・監督:谷津賢二
企画:ペシャワール会
製作:日本電波ニュース社
2016年制作 65分 日本映画
映画(DVD)の案内
予告編

【上映情報】
第55回 憲法を考える映画の会
と き:2020年2月11日(火・休)13時30分~16時
ところ:文京区民センター 3A会議室(地下鉄・春日駅2分/後楽園駅5分)
13時30分~14時50分
映画「アフガニスタン 用水路が運ぶ恵みと平和」(上映時間65分)
本 編 緑の大地計画の記録(30分) 技術編 PMSの灌漑方式(35分)
15時00分~16時00分 トークシェア
参加費:一般1000円 学生・若者500円

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