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シネマde憲法
映画『さよならテレビ』
 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)

 映画の導入での、この映画の取材チームの所在なさ。報道部員たちからの反発は予想されたこととはいえ、途方に暮れた感じから話が始まります。いや、作り手はしたたかで、「途方に暮れる」ことも織り込み済みなのかもしれませんが。
 みんなから言葉で小突かれている新人くんもイメージ通り。彼の挫折をもともとねらって撮り始めたのではないかと制作者側を意地悪く見てしまいます。
 テレビ局という「会社」の利益追求第一主義、それに疑問を抱くのが途中入社のベテランの彼の役割でしょうか。その辺りからこの作品作りの問題意識が見えてきます。
 と、ついつい辛口に、批判的な見方になってしまうのは、いつも取材している側を逆に取材する今回のシチュエーションの困難さがわかり過ぎるので、それに同情すまい、騙されないぞという気負いが働くからかもしれません。  

 潤沢な広告収入を背景に、情報や娯楽を提供し続けた民間放送。
 しかし、テレビがお茶の間の主役だった時代は過去のものとなり、テレビを持たない若者も珍しくなくなってしまった。マスメディアの頂点に君臨していたテレビが「マスゴミ」とまで揶揄されるようになったのは、市民社会が成熟したのか、それともテレビというメディア自体が凋落したのか。テレビの現場で何が起きているのかを探るため、自社の報道部にカメラを入れ、現場の生の姿を追っていく。(映画.com『さよならテレビ』解説より)

 スタッフは『ヤクザと憲法』のプロデューサー&ディレクターです。
 『ヤクザと憲法』同様、恐い人間たちが、わさわさひしめいている所に入り込んで、彼らの「言い分」を拾ってくるのは同じやり口です。こういう自分たちのことをさらけ出す手法なので、ディレクターも画面にちょこちょこ顔を出します。その顔、姿は意外に「やさ男」でした。「すみません」が先に出るような押し出しの強くないタイプ。その方がある部分で、饒舌、しかし必要のないことには寡黙な人たちの口を開かせるのには向いているということかもしれません。
 「やさ男」ですが、粘り強い。あきらめない。文句を言われてもめげない。それが強みでしょう。『ヤクザと憲法』も『さよならテレビ』も、結局、軟弱に話を一方的に聞いているだけのようでいながら、いつのまにか自分たちの見る人に考えさせたいところに持っていってしまいます。
 
 この作品を作ることを通して、作り手が、あるいは同じ職場の同僚とともに考えようとしたことはとても共感できます。会社も、よくやらせたなと思います。
 この映画の舞台となった(そしてこの映画の作り手でもある)東海テレビの職員に大きな影を落としている、トラウマのようになっているのが2011年東日本大震災の後の「セシウムくん事件」と呼ばれる放送事故です。東海テレビはその失敗で一度、世間からフクロダダキにされます 
 そうした失敗にどのように落とし前を付けたのか、その反省をどの様に今にいかしているのか、自省を込めて舞台裏をさらけ出そうということがこうした映画の企画の裏にはあったのかもしれません。
 そうした自省を込めて、自分たちの今やっている仕事を見つめ、そのシゴトの役割と使命は何か、あらためて問い直すこと、それが今、メディアに、あるいはすべての会社人間に求められていることかもしれません。

【スタッフ】
監督:土方宏史
プロデューサー:阿武野勝彦
撮影:中根芳樹
音声:枌本昇
音響効果:久保田𠮷根
TK:河合舞
編集:高見順
音楽:和田貴史
音楽プロデューサー:岡田こずえ
CG:東海タイトルワン

製作・配給:東海テレビ放送 配給協力:東風
2020年/110分/日本映画

公式サイト
予告編

上映情報:ポレポレ東中野、ユーロスペースほか全国上映展開中

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