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シネマde憲法
映画『標的』
 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)


 

 この映画の紹介欄「シネマde憲法」の原稿を書くのに、二つの約束がありました。
 「必ず映画を見てから原稿を書くこと」。そして「その映画を見たくなるように書くこと」。
 今回はその約束がなかなか難しいです。映画がまだ完成していないからです。私が見たのは「短縮版」というか予告編です。完成・上映予定は、来年2020年の2月か3月ごろだそうです。
 まだできていない映画を、どうしたそんなに急いで紹介するのか。この映画は、現在、裁判が進行中の植村隆さんの事件を描いた映画だからです。とくに、その事件と裁判の進み方をより多くの人が目を向けて行くことに役立ちたいと思ったからです。裁判と映画の制作を同時進行させることによってこそ、このドキュメンタリーの役割を実感したいと思ったからです。そしてそれはまさに今、私たちが直面している「表現の不自由」「言論の不自由」そして「報道の不自由」に関わる現在進行中の問題だからです。
 引用が長くなりますが、映画の概略を、そこで取り上げられている事件の概略をその制作資料から紹介します。

■「慰安婦報道」に向けられた誹謗と中傷〜ジャーナリストはなぜ標的になったのか 
 元朝日新聞記者の植村隆さん。20年以上も前に書いた元慰安婦をめぐる記事の中で「女子挺身隊の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた」と書いたことで右翼論壇やその支持者たちから執拗なバッシングを受けました。攻撃は次第にエスカレートし、植村さんが教鞭をとることが内定していた大学や植村さんの家族までもが卑劣な脅迫に曝されました。  日本政府は慰安婦が強制的に戦地へ送られたことを裏付ける資料が発見されていないとして、慰安婦の募集に国家や軍部が関与したことを否定しています。「女子挺身隊の名で戦場に連行され」という植村さんの記事が「捏造」だと批判されたように、国家にとって不都合な報道に対するバッシングは後を絶ちません。
 「売国」「国賊」「反日」。植村さんの名前をインターネットで検索すると、今もこのような文字が溢れています。自分たちと価値観の異なるメディアや個人を狙った執拗な攻撃や脅迫が繰り返され、それに屈するかのように多くのメディアが沈黙し、萎縮しています。それは言論の自由が保障されたはずの日本の民主主義が崖っぷちに立たされていることを物語っています。
 この状況に危機感を覚えた多くの市民、マスコミ関係者、弁護士たちが植村さんの支援に立ち上がりました。そこで制作されたのが映画「標的」。植村さんと彼を支える人々が理不尽なバッシングに真正面から立ち向かう姿を多くの人に知ってもらいたいと願います。

 映画の監督は、2016年に『抗い ARAGAI 記録作家 林えいだい』(旧題名『抗いの記』で2016年紹介)を制作した西嶋真司さんです。西嶋さん自身、植村さんが“捏造記事”を書いたとされる1991年8月、民放のソウル特派員として慰安婦報道の渦中にいて一緒に記事を書いていたそうです。
 「当時、韓国では『挺身隊』と『慰安婦』が同義語として使われていて、私をはじめ日本の他のマスコミも慰安婦問題の記事に挺身隊という言葉を使っていました。記事を書いた一人として植村さんの記事が「捏造」ではないことを誰よりも理解しており、脅迫や嫌がらせによって言論を封じ込めようとする動きに危機感を強めました 。ジャーナリストの役目は自由な言論空間の中で国民の知る権利に奉仕すること。ジャーナリストが萎縮し、国民に真実が伝わらなくなれば社会は衰退します。真実をきちんと報道できる社会にするため、まずは現状を知ってもらいたいという思いからドキュメンタリー映画の制作に動き出しました。」

 私は、この『標的』の短縮版を、植村さんの東京控訴審裁判口頭弁論の報告集会で見せていただきました。上映の後、監督の西嶋さんが繰り返してお話ししていたのは「バッシングなどが横行するこんな社会を許していいのか」「今の社会を何とかしたい」という訴えでした。
 この夏、政治家の暴言と、脅迫と言う暴力によって中止に追い込まれた「あいちトリエンナーレ『表現の不自由展・その後』」。まず第一にそこで思ったのは「こんな卑怯な攻撃によって社会や文化が壊されていくのを見過ごしていいのか」という怒りでした。
 植村さんが追い込まれたのは、それにもまして悪質で執拗な個人攻撃でした。そしてそうした卑怯な攻撃を理屈づけ、煽っている右翼論壇でした。植村さんの記事を「捏造」と決めつけ、その論拠も間違いだらけで、でっちあげたものでした。
 今さまざまなところで起きている「表現の不自由」事件は、政治家などの暴言、煽り→暴力による脅迫→忖度や自粛の強要、あるいは萎縮というやり口で進められます。その中で当事者、被害者は孤立しています。何とかそうした人たちと一緒になって今の自分たちの問題として取り組んでいきたいと思っています。

 裁判は、攻撃を煽った人たちのでっち上げにどの様に反駁していくか、ひとつひとつ明らかにしていっています。(それでも第一審は、結論ありきのような、とんでもないものでしたが。)
 そしてこの映画の題名は「標的」。標的とされたのは、もちろん植村さんですが、映画は、逆に植村さんを脅迫した犯罪者を煽った勢力を「標的」として明らかにしていく、その欺瞞性をあからさまにしていく期待があります。
 映画が完成しましたらまた紹介をさせていただきます。その途中でも報告し、「今のような社会を何とか変えていかなければ」と向き合う人を拡げていきたいと思います。
 西嶋さんは「おかしいことをおかしいと言う。メディアとしての当たり前の役割が機能しなくなっている日本の現状を、映画『標的』を通して、より多くの方に知ってほしい」と訴えています。そして映画『標的』は、理不尽なバッシングに毅然と立ち向かう主人公と支援者たちの姿を通して、多様な言論が保障された社会の実現にいままさに取り組んでいます。

【制作スタッフ】(まだまだ完成までに変更もあるかと思います)
プロデューサー:川井田博幸(グループ現代)
監督:西嶋真司
音楽:竹口美紀(Viento)
法律監修:神原元(武蔵小杉法律事務所)小野寺信勝(北海道合同法律事務所)
配給宣伝:福原まゆみ 橋本光生
制作著作:グループ現代 ドキュメントアジア 標的製作委員会

作品に対するお問合せ先:
ドキュメントアジア:nishijima@documenta.jp



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