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シネマde憲法
映画『天気の子』
 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)


 「息苦しさを打ち破れ!」私たちが今、熱を上げている「表現の自由を市民の手に 全国ネットワーク」のアピールコピーです。この映画の中にも、何度か「息苦しい」という言葉が出てきます。ラストに流れる主題歌の中にも、その歌詞とは別に「息づかい」がまるで歌詞の一部かのように使われています。若い人たちはそうした息苦しさを意識して、あるいは意識しなくても、いま、日々感じているということなのでしょうか。
 私がこのアニメーション映画を遅ればせながら見に行こうとした動機は、「『天気の子』は、『同調圧力との戦い』の映画だ」という映画評を読んだからです。そこで「同調圧力」という例に挙げられていたのが、「対韓国世論」と「あいちトリエンナーレ」に関する世論でした。この二つの「世論」のとらえ方は、その書き手と私とでは、必ずしも一致するものではありませんでしたが、「同調圧力」という言葉と、このアニメーション映画を結びつける視点は、シャープだと思いましたし、また、その「同調圧力」が今、人びと、とくに若い人が感じている息苦しさ、閉塞感にあるという話の持っていき方に、共感でき、目を見張るものがありました。

 「あの光の中に、行ってみたかった」
 高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。
 彼のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。
 そんな中、雑踏ひしめく都会の片隅で、帆高は一人の少女に出会う。ある事情を抱え、弟とふたりで明るくたくましく暮らすその少女・陽菜。彼女には、不思議な能力があった。(『天気の子』公式サイト、STORYより)

 このアニメーション作品の作り手は、わが国の古代の話を素材に採るのが得意と聞きました。前作『君の名は』でもそう感じさせるものがありました。今回は「いけにえ」ということが一つのテーマとなっているようです。みんなの幸福のために自分を殺すということ。
 雨が降り続いている「世の中」。雨を晴れさせる能力を持っている主人公天野陽菜。いわば巫女です。みんなが願っている晴れ間。それに応えようとする陽菜は晴れを呼ぶごとに自分の力を使い果たす。公のために自分を殺す。自由でない。自分にやりたいことをする、言いたいことを言う前に押し殺してしまう。
 そしてこの作品は、みんなの幸福のために自分を殺すなというメッセージで話を終えます。この設定とメッセージを「兵士」ということに置き換えたらどうなるでしょうか。人のためなんかに死ぬな。誰のためかわからない「幸せ」のためになんか死ぬな。あるいは今の仕事に追われ続けている社会人に置き換えたらどうでしょう。金のためなんかに死ぬな。極端に問いつめれば「家族の幸せのために」という「言い訳」のために自分を殺すな。自分自身のことをもっとよく考えて生きていけ、そんなことまで考えさせます。そうしてひとりひとり自分のことを考えて、自覚して、そこから動いていくことでこそ、どう生きていけばわかるし、愛が未来に向いて続いていくのではなかろうかと。そして世の中(世界)を変えていくんだ、と。

 映画の終わりで「ぼくたちは、きっと、大丈夫だ」という言葉がつぶやかれます。それは叫びではなく、つぶやきに近い。なんて切ないんでしょう。
 若者の感じている息苦しさ。「これ、やっていいですか?」「あの、言ってもいいですか?」聞いてからでないと動けない。多くは聞く前に「おそらくだめだろう」と思って止めてしまう。
 たくさんの若者が、人びとがこのアニメーションの切ないラブ・ロマンスを見て、自分の感じていた息苦しさはどこから来ているのか考えてもらうと良いでしょう。答えはきっと一つではないといます。
 
【スタッフ】
監督:新海誠
原作:新海誠
脚本:新海誠
製作:市川南 川口典孝
製作総指揮:古澤佳寛
音楽:RADWIMPS
主題歌:RADWIMPS
撮影:津田涼介
編集:新海誠
制作会社:コミックス・ウェーブ・フィルム
製作会社:「天気の子」製作委員会

【キャスト(声の出演)】
醍醐虎汰朗 (森嶋帆高)
森七菜   (天野陽菜)
小栗旬   (須賀圭介)
倍賞千恵子 (冨美) 
𠮷柳咲良  (天野凪)
平泉成   (安井)
梶裕貴   (高井)

公式ホームページ:https://tenkinoko.com/
予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=4&v=rzKcrJ77wBY
2019年制作 日本映画 アニメーション 114分
TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中



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