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この映画は、仲代達矢さんが自分の「老い」の問題に加えて、「無名塾」という形で後継者をどう育てるかを実践した映画とみました。後継者といっても、個性も演技も違って当然、一人一人身体表現の能力の違う役者です。自分のような演技をすることを知識として押しつける意味ではなく、演技のおおもとにあるものを、いっしょに芝居を作って行く中でその身体に伝えていくものなのだろうと察しました。
世代を超えて、仕事がつながっていくには何が必要なのか考えさせられます。
そこにある厳しさ、一所懸命さ、必死さが、稽古をつける側にも、稽古をつけられる側にもあることが実感させられます。それはどんな仕事、どんな世界にも共通してあり続けてきたとあらためて感じさせられます。
『切腹』『影武者』など映画150本に出演、舞台主役は60本を超える世界的な名優・仲代達矢が“役者”として生きる姿を描くドキュメンタリー作品。
日本映画の黄金時代に 黒澤明、小林正樹、市川崑、木下恵介、岡本喜八、五社英雄など、綺羅星のごとき名監督と主役として向き合ってきた。
1975年には俳優養成のための私塾・無名塾を立ち上げ、数多くの俳優を世に送り出してきた。俳優歴60年、無名塾は創立40周年を迎え、80歳になってもなお、演じることにどん欲に向かい、初めて不条理劇「授業」に挑み、続いて「ロミオとジュリエット」のロレンス神父に取り組んだ。なぜ今なお膨大な台詞という困難な役に挑むのか?それは天職とも言える“役者”として生きてきたからであり、背負い続けてきた“生きることの重さ”そのものだという。(作品資料より)
「稽古」をつける、「稽古」ということば意味深さ、「昔の物事をよく考える」ということから来ているそうです。「無名塾」という名前の示す「回帰修行」「生涯修行」の場。そもそも「修行」という言葉自体がかなり奥深いものです。
「職人」「技」という言葉も良く出てきます。
入塾試験には受験者のすべての面接を仲代さんが行います。育成機関は三年間。早朝から無名塾に通い、まず稽古場の掃除、身体づくりのためのトレーニングをして稽古。演技の基礎をマンツーマンで学びます。在塾中のアルバイトは禁止。言わば三年間という青春の時間と身体を塾にあずけることで技を身につけていくことになります。
入塾試験の面接を見ていると、受験者はそれぞれがなかなかの個性と役者になる意気を持って集まって来ていると、しろうとの私には見えるのですが、合格しても続かず、すぐやめていく若者が大半、3年の「修行」を全うするのはほんのわずかだそうです。しかしそうした試練を越えて到達した役者達によってこの塾が創られていることがわかります。
そうした実績を経てなのでしょう、「教育とはいいもんだなあ」と言う仲代さんの述懐があります。
稽古場には奥さんの宮崎恭子さんの写真がずうっと若者の稽古を見下ろしています。宮崎さんはこの新稽古場ができてわずか2年後に亡くなってしまいます。しかし、その稽古をつける若い人たちを見下ろす写真から、仲代さんと恭子さんの二人がやりたいと念じたことがその場でしっかりと続けられていることを物語っています。
世代を超えて、仕事がつながっていくということ。
映画の話からは少し離れますが、光復節(8月15日)に韓国を訪ねた人の話を聞く機会がありました。光復節に前後して、さまざまな形で政治的、社会的な催しが催されるのですが、その人はどの活動、どの集まりにもそれを支えている若い人が必ず参加しているということに感心したというのです。私たちはいろいろな活動の場で、世代による断絶を嘆いていますが、その違いはどこから来るのでしょうか、と。
あるいは歴史を共有していない、お互い歴史についてまったく知らないままに来てしまっているからだろうかと、ふと思いました。「稽古が足りない」「稽古を一緒にしていない」「それが身についたものになっていない」
時間と方法、目的を共にしていくこと、それにはある種の努力をお互いにしていかなければできないことをこの映画から考えさせられました。
【スタッフ】
監督・プロデュース:稲塚秀孝
撮影:三浦貴広 油谷岩夫
音声:内田丈也
音効:塚田大
助監督:池田春花
編集:橋本昌幸
【出演】
仲代達矢
山本雅子 菅原あき
永森雅人 松崎謙二 中山研 赤羽秀之 平井真帆 鎌倉太郎 新藤健太郎 川村進
江間直子 渡邊翔 井出麻渡 松浦唯 別所晋 吉田道広 高野梨惠子 松本秋人
飯野愛希子
【語り】
鈴木杏
製作:タキオンジャパン
2015年製作・ドキュメンタリー映画・90分
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=OOZRjGcjAqE
この映画の問い合わせ先:タキオンジャパン:090-3433-6644
〒150-0011 東京都渋谷区東1-13-1-503
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