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映画『ひろしま』は、敗戦後8年目の1953年に作られた104分の劇映画です。
自らも被ばくした教育学者、長田新が編纂した文集「原爆の子〜ヒロシマの少年少女のうったえ」をもとに映画化。当時の広島の市民ら約8万8千人が出演し、原爆が投下された直後の惨状を克明に再現しました。
【あらすじ】
広島A高校三年、北川の担任するクラスで原爆当時のラジオ物語を聞いていた大庭みち子は、突然恐怖に失心した。原爆の白血病によって前から身体の変調を来していたのだ。
クラスの三分の一を占める被爆者達にとって、忘れることの出来ない息づまる様な思い出だった。それなのに今広島では、平和記念館の影は薄れ、街々に軍艦マーチは高鳴っている。
あの日、みち子の姉の町子は警報が解除され疎開作業の最中に、米原先生始め級の女学生達と一緒にやられたのだ。みち子は爆風で吹き飛ばされた。弟の明男も黒焦げになった。
今はぐれてしまった遠藤幸夫の父秀雄は、妻よし子が梁の下敷で焼死ぬのをどうすることも出来なかった。陸軍病院に収容された負傷者には手当の施しようもなく狂人は続出し、死体は黒山の如くそこここに転り、さながら生き地獄だった。…(「映画.com『ひろしま』ストーリーより」
私達はこの70年近く前につくられた映画を、8月、「憲法を考える映画の会」として上映会を計画しています。(巻末「上映情報」参照)
戦争から8年目のこの時、人々は原爆をどのようにとらえて、どのようなイメージで頭に描いていたのか知りたいと思いました。そしてその時代を生きた人には、その時受けた「イメージ」を想い返していただきたいと思ったからです。
この春、専修大学(生田キャンパス)図書館で開かれた「時代にゆれた表現の自由展」を見てちょっと驚いたことがありました。そこには「アサヒグラフ1952年8月6日号(原爆被害の初公開)」が展示されていました。そこで、この1952年まで国内では原爆被害の写真は、進駐軍(GHQ)の検閲によって公開が許されなかったことを知りました。1952年4月の講和条約によって、はじめて公開できるようになったのが、この「アサヒグラフ」の特集号です。「発売と同時に売り切れ、増刷され70万部が出た」とあります。
私が驚いたのは「それまで7年間の占領の時期、日本人は文章や話として、原爆の被害を聞いても、当時のメディアを通しての写真などのイメージを持つ手段がなかった」ということです。それでは「解禁」になって、そうした写真が目に触れるまでの間、人々は、いったいどのようなイメージで「原爆の被害」をとらえていたのでしょうか。
今回上映する劇映画『ひろしま』は、その「アサヒグラフ」の翌年の1953年に作られた映画です。日本教職員組合(日教組)が母体となって、全国でカンパを集め、何万人もの広島市民がエキストラとして映画の撮影に参加したと言われています。ここに出演している大勢の人が生の形で原爆を体験し、そこで繰り広げられた苦しい記憶を、この映画の中であえて再現しようとしたのだと思うとほんとうに震撼とさせられるものがあります。この映画を見るとあらためて映画の制作者や当時の学校の先生たち、広島の人たちが原爆の被害、その悲惨さ、凄惨さを強く、長く伝えていかなければならない、とくに子どもたちに「二度と戦争を起こしてはならない」と伝えようとした熱意と願いをひしひしと感じます。
ところがそうした「二度と戦争を起こしてはいけない」という「反戦」「反原爆」のメッセージは、戦後の教育の現場から少しずつ隠され、消されていってしまいます。教科書から「残酷すぎる」と真実を伝える原爆の被害の写真が無くなり、原爆の説明も曖昧なものにされていきます。そもそもアジア太平洋戦争は誰が起こしたのか、あるいは日本という国がその戦争で、加害者としてどのようなことをやったのかについても、教育の現場では隠され、それを伝えようとする動きに対して圧力が加えられるようになっていきます。
子どもたちは原爆や戦争の被害に対して何も教わらなくなって、そのイメージすら頭に浮かべられなくなっているのではないでしょうか。戦争や原爆の悲惨さ、残酷さをきちんとイメージできるこうした映画は大切と思いますし、それらをこれからも子どもたちに、いや既に大人になっている人たちにも、きちんと教えていくことはいっそう続けていかなければならないと思うのです。
今回の安倍政権の4項目加憲案では「自衛隊を9条に加えるだけだ。何も変わらない」と言います。しかしそうやって自衛隊を憲法に加えることによって、自衛隊は軍隊になり、9条の示した「戦争の放棄」や「非武装」という国民の意思は憲法から失われることになります。
そして「戦争反対」や、自衛隊の不正、権力の横暴に「これはおかしい」と発言する人は非国民として非難され、捕らえられ、人々の目に入らないように、その声は聞こえなくなってしまいます。
「あなたは原爆のイメージを何で、どのように知りましたか?それを伝えて行くにはどうしたらよいでしょうか?」
原爆を生々しく描いた映画を見て、原爆と教育、また憲法と教育について考えて行きたいと思います。
【スタッフ】
監督:関川秀雄
脚色:八木保太郎 浦島進
原作:長田新 篇「原爆の子〜ヒロシマの少年少女のうったえ」
製作:伊藤武郎
撮影:宮島義勇
美術:平川透徹
音楽:伊福部昭
録音:安恵重遠
照明:伊藤一男
企画・制作:日本教職員組合
【キャスト】
・岡田英次(北川先生)
・月丘夢路(米原先生)
・神田隆(千田先生)
・利根はる恵(保母)
・加藤嘉(遠藤秀雄)
・河原崎しづ江(遠藤よし子)
・亘征子(遠藤洋子)
・月田昌也(遠藤幸夫)
・山田五十鈴(大庭みね)
・松山りえ子(大庭町子)
・町田いさ子(大庭みち子)
・南雅子(大庭明男)
・佐脇一光(河野誠)
・薄田研二(仁科博士)
1953年制作/104分/モノクロスタンダード
ベルリン国際映画祭長編劇映画賞
【DVD販売および上映についての情報】
独立プロ保存会 TEL & FAX:03-5929-7326
【上映情報】
● 「第52回憲法を考える映画の会」の中で上映(東京・文京区)
日時:2019年8月10日(土)13時10分 開場予定
会場:文京区民センター3A会議室(地下鉄春日駅2分・後楽園駅5分)
プログラム:13時40分〜13時50分 アニメーション映画「ピカドン」
14時〜15時50分劇映画「ひろしま」デジタルリマスター版
16時〜16時30分トークシェア
参加費:一般1000円 学生・若者500円
● 「夏のシネマセレクション ヒロシマ・ナガサキ」の中で上映(神奈川・鎌倉市)
日時:2019年8月14日(水)13:30〜 8月15日(木)10:30〜
会場:鎌倉市川喜多映画記念館
(鎌倉駅徒歩5分 〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下2丁目2番12号 TEL:0467-23-2500)
映画:「ひろしま」デジタルリマスター版
料金:一般:1000円 小・中学生:500円