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シネマde憲法
映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(原題:Ex Libris: The New York Public Library)
 花崎哲さん(憲法を考える映画の会)



 「この図書館が、世界で最も有名である〈理由〉を示すことで、公共とは何か、ひいてはアメリカ社会を支える民主主義とは何かをも伝える」とこの映画の案内チラシに書かれています。この映画を作ったフレデリック・ワイズマン監督の紹介の文章です。まさに言い得ています。それは監督がこの映画でもっとも描きたいと思ったことであり、この映画に出ているたくさんの図書館関係者、利用者が常に感じていることなのだと思いました。

 ニューヨーク公共図書館は「世界中の図書館員の憧れの的」だそうです。どんなところに「あこがれ」があるのでしょうか。「ニューヨーク有数の観光スポットである本館」「本館を含む92の図書館からなる世界最大級の〈知の殿堂〉」「世界有数のコレクション」。
 でも、そうした形や数で表せないものがここにあります。それがこの映画が描こうとしているこの図書館の「機能」であり、「運営のされ方」であり、個々でのさまざまな公的活動であり、利用者つまり市民に実感されているところ、愛されているところなのだと思います。そしてそれが「公共とは何か?」の問いに答えるものなのだと思います。

 私事になりますが、『ハトは泣いている』という映画の上映をお手伝いした縁で、その映画に描かれている「九条俳句」裁判のことを知り、多くのことを学ばせていただきました。その中の一つが「公民館とは何か?」でした。それはこの『ニューヨーク公共図書館』で問いかけている「公共とは何か」の設問と一致するものでした。つまり公民館の主役は市民であって、職員ではない。公的施設は市民が活動するためのものであって、活動させてもらっているところではないということです。それを具現化する活動の実践例を映画の中で見せてもらったようで目を見張る思いがしました。
 「本の置き場ではありません。図書館とは人なんです」。
 「図書館とは普通の人々(ピープル)、庶民のためのものでなければならない」これは、このニューヨーク公共図書館の「創立者」でもあるアンドリュー・カーネギーの信念だったそうです。この信念をどう実現するか、それを個々で働く人々がそれぞれに考え、図書館の活動を創り続けていることを描こうとしたのがこの映画だと思います。
 フレデリック・ワイズマン監督のつくり方の見事さは、「この複雑で多様な図書館の活動が、何を目指しているのか、どこへ向かおうとしているのかを、本当に鮮やかに最後に納得のいくような形で描ききっている点です。」(映画パンフレット:ニューヨーク公共図書館のキャリー・ウェルチさんの話より)

 図書館に働くスタッフが、市民に聞かれたことに対して、それぞれに自分のことばで「語れる」ことにも感心させられました。市民がそれぞれ知りたいと思っていることをどう調べたら良いか、この映画のテーマでもある「公共とは何か」「民主主義とは何か」を、彼らの仕事の中で常に考えていて、それが身についているからなのでしょう。市民に接するスタッフの姿に「誇り」というものを感じます。

 各部署の「活動」の紹介の合間に何度か出てくる「幹部たちの会議」も興味深いものでした。 この図書館全体の運営の話であるので、当然、資金をどうするのか、どう集めるのかの突っ込んだ話も出てくるのですが、少なくとも私たちが想像するネガティブな経営の悩みとは違った雰囲気です。それらの会議には「こうしなければならない」と言ったような義務感のようなものがあまり感じられず、むしろ「こうしたい」「こうやって行きたい」といったプログレッシブな熱のこもったものにあふれているように感じるのです。みんなで目指そうとしているものは市民のための図書館、といった認識の共有を前提としている議論だからでしょうか、ここでの議論にも民主主義の実践を感じます。
 
 「公共は自由の中に在る」。「公民協働」という言葉がよく出てきます。それがそれぞれの活動のプログラムにもそれが現れています。つまり図書館での活動は市民の視点で、市民のためにあるという考え方が守られていることです。たとえばハーレム地区の小さな分館で黒人奴隷についてウソが書かれた教科書について、真実の歴史は何か、論議がなされています。つい、「侵略の歴史」を話題にしただけで、「それは政治的だから」と逃げ、拒絶する公共施設の役人のことを思い浮かべてしまいます。市民の視点から考える限り、忖度も自粛も、萎縮もここにはないようです。
 思想や情報を制限するような圧力はないのか、という問いに対して、ニューヨーク公共図書館のキャリー・ウェルチさんは話しています。「アメリカにおいては当然のことですが、アメリカの憲法の精神の根幹である言論の自由、他によって絶対に剥奪されることもなく、譲ることもない、そうした権利としての自由というものを、私たちは信じています。私たちは検閲ということに断固として反対しています。」(映画パンフレットより)

 すべての図書館に関わる人たち、公共施設に関わる人たち、公務員、役員、議員に見ていただきたい映画です。公共とは何か、何をする仕事なのかを考えるために。いや彼らが考えれば良いというだけではありません。その公共を利用する、つまり公共をつくる私たちが見て考えるべき映画なのかもしれません。
 
【スタッフ】
監督・製作・編集・音響:フレデリック・ワイズマン
製作総指揮:カレン・コニーチェク
撮影:ジョン・デイビー
撮影助手:ジェームス・ビショップ
編集助手:ナタリー・ヴィニェー
音響編集助手:クリスティーナ・ハント
サウンドミックス:エマニュエル・クロゼ
デジタルカラータイマー:ギレス・グラニエ
製作:ジボラフィルム

【出演者】
〈図書館ライブ〉
モデレーター:ポール・ホルデンググレイバー
ゲスト:エルヴィス・コステロ
パティ・スミス
エドムンド・デ・ワール
モデレーター:ハリール・ジブラーン・ムハンマド
ゲスト:タナハシ・コーツ

〈午後の本〉
モデレーター:ジェシカ・ストランド
ゲスト:リチャード・ドーキンス
ユーセフ・コマーヤンカ

〈舞台芸術図書館〉
モデレーター:イヴァン・レスリー
ゲスト:キャロリン・エンガー
マイルズ・ホッジズ
キャンディス・ブロッカー・ペン

〈ブロンクス図書館センター〉
コンサート:ドゥブレ・アンタンドル

公式ホームページ:http://moviola.jp/nypl/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=wYoCeAtNqKc
【上映情報】
東京 岩波ホール、大阪 テアトル梅田、名古屋シネマテーク、で上映中
以降、全国で順次上映 

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