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シネマde憲法
映画『ああ栄冠は君に輝く』
花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)

 夏の甲子園、高校野球の大会歌「ああ栄冠は君に輝く」は、ほとんど誰もが聞いたことのある歌と思います。開会式には高校生の合唱で、閉会式には優勝校のグラウンド一周の行進の時に流れる歌です。この歌の歌詞は、誰が、いつ、どのように作った歌なのか、そこから始まる、この歌を作った人についてのドラマです。
 終戦直後の1948年、高校野球大会の30周年を記念して、この"大会歌"が募集されます。加賀道子という女性の応募作品が選ばれます。しかしほんとうの作者は彼女のパートナーで、野球によって体の自由を失った加賀大介でした。

 メッセージ性は強くない映画です。でも見終わってどこか励まされる気持ちになります。
 夢が果たされることはなかったけれども、彼のひたすらな生き方を描いて、彼自身の人生が満ち足りたものであったことを感じさせます。
 加賀大介は、16歳の時に、野球をしていて怪我をし、それを放って置いたことがもとで、足を切断、野球のできない不自由な体になってしまいます。その悔恨とくやしさを文筆、創作によって自分を著すことに打ち込んでいきます。ドラマとわかっていても、見ている私たちもまた、その時代を、その人、家族と共に生きたような気持ちにさせます。ある人間が生きた時代とその世界、彼の思いを細やかに描いて、生き方を感じさせます。
 演技が細やかで、セリフが一言一言、実感を伴うのは、おそらく脚本と演技者が主人公達の気持の動きと、お互いの思いをきっちりと捉えてそれぞれになりきっているのだろうと思います。

 映画は加賀大介がこの歌詞を作るまでに、どのような二人の物語があったのかを素直にたどっていきます。加賀道子はそうした創作を続けようとする夫を支え続けた妻という役柄ではありますが、単に献身的というのとは違った創作を共にする仲間といった自由さがあります。そうして彼ら二人の最も生き生きとした若い時代、しかも敗戦直後の生き生きとした自由があった時代、この歌が作られたことを感じさせます。声高な主張とは違いますが、その時代や"創作"に取り組むということについて考えさせる「ちょっといい話」があります。

 戦前のエピソードのひとつに、地方で短歌会を主催する主人公加賀大介の家に特高警察の刑事が、その「思想の取締まり」にやってきて嫌がらせをする話があります。
 この映画の稲塚監督に聞いた話ですが、大阪での上映会の後、若い女性から「どうしてあの人達は土足で上がってくるんですか?」と質問されたそうです。特高をどこから説明したらよいか絶句したといいます。それほど若い人にとって「特高」も「思想犯」も想像もつかないことなんだと。
 自分の思想を持つこと、創作することを危険と見る社会。表現、発言するものに対して干渉や弾圧を加える、この国にかつてあった政治権力のイメージを伝えるものです。
 そうした弾圧の歴史も、戦後の自由な空気と共に、それを何も全く知らない、教えられていない若い人たちに伝え表現していかなければならないと思いました。今の、これからの問題として、私たちがどのような時代を作っていくのか、それもまたこの映画を見て思ったことです。

【スタッフ】
脚本:伊藤 康隆・稲塚 秀孝
監督・プロデュース:稲塚 秀孝
撮影:はやし まこと
照明:祷 宮信
編集:斎藤 正
音楽:藤野 欽也
参考文献:手束 仁「ああ栄冠は君に輝く 知られざる全国高校野球選手権大会歌誕生秘話〜加賀大介物語〜」双葉社刊

【キャスト】
加賀 大介:松崎 謙二
加賀 道子:渡辺 梓
吉田 勝:中山 研
渡辺運動部長:鎌倉 太郎
刑事:本郷 玄
語り:仲代 達矢
歌:加藤 登紀子

製作・配給:タキオンジャパン TEL:090-3576-6644
2018年製作/劇映画/90分
ホームページ:http://www.eikanhakimini.com/
東京連続上映会:2月17日(日)14時 文京区民センター3A会議室(文京区本郷4-15-14)
他、全国自主上映中

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