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シネマde憲法
映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』(原題:Pad Man)
花崎 哲さん(憲法を考える映画の会)

 サクセス・ストーリーというのとも違う、むしろ成長物語でしょうか。
 この映画を一緒に見に行った連れは「錬金術師の旅」と言ってました。錬金術師が術を得るために旅に出る。さまざまな困難に打ち克ち、武器を手に入れ、妖精の支援も受けて錬金術を成就するまでのロールプレイングゲーム、あるいはロードムービー。
 ただし、この物語には、事業の成功、主人公の成長だけでなく、社会の変革というアピールポイントがあります。
 誰が社会を変えていくのか、どんな人が、どんな努力をすることによって、また、人々がその情熱と力とを合わせていくことで、より人々の多くが幸せに生きていく社会が作られていく、それを考えさせられる映画です。

 インドの小さな村で新婚生活を送る主人公の男ラクシュミは、貧しくて生理用ナプキンが買えずに不衛生な布で処置をしている最愛の妻を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。
 研究とリサーチに日々明け暮れるラクシュミの行動は、村の人々から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に…。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリーとの出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちにナプキンだけでなく、製造機を使ってナプキンを作る仕事の機会をも与えようと奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。(『パッドマン 5億人の女性を救った男』公式ホームページ「ストーリー」より)

 最愛の妻が、感染症など病気にならないようにという一念で始めたラクシュミの行動。もちろん彼女もそうした夫の愛情はわかっていてうれしいのですが、そこは女だけの世界、立ち入ってほしくないところです。そうした事情に関知しない夫の愛情の押しつけは言ってみれば迷惑。長いこと守り続けてきた因習や宗教的なタブーにも触れるものです。それにもかかわらず愛情一筋で夫は突っ走る。とうとうその変人振りと"奇行"から、妻の実家から離縁を迫られ、聖なる川を動物の血で汚したとして村を追われることになります。
 それでもめげずに、彼はさらに生理用ナプキンの開発を続ける旅に出かけます。その時のなるほどと思ったのは彼の気持ちです。「見返してやる」とか、恨むというマイナス思考ではなく「なんで私のやろうとしていることがわからないんだろう」「それならみんながわかるようなものをつくればいいんだ」という方向に進みます。そのプラス思考がこの物語を明るく、見ている人にとっても共感を持ちやすいものにしているのでしょう。

 こうして彼は(低価格で生理用ナプキンを作る)開発を続け、偶然、彼の開発を成就させる妖精(パリー)に出会います。パリーは高教育を受け、知的環境に育ち、ひらけた意識を持っている女性。何より女性として自立しています。
 低価格の生理用ナプキンをつくる技術は、確立していましたが、それが利用される途、つまり販路を持っていなかったラクシュミにとって、購買層であり、消費者である女性のパリーが参加することで、女性の視点とそこからの発想から、女性たちに宣伝、販売させることで事業として成り立つようになります。女性達の働き口を作ることにもなります。

 そうした旅を、ラクシュミ、パリー、女性達としていくことを通して、私たちも世界の至るところで、人々の生活の意識、女性と男性の意識が変わりつつあること、そうして社会が改革されていくことを感じてきます。そしてそれを変えていくのが、「負けない」「めげない」「あきらめない」気持ちの強さであり、そのもとになっているのが、愛する人を幸せにする喜びにあることを感じて、一緒に喜び、励まされる気持ちになるのです。

 女性の生理用品の開発という話なので、男性から見ると、あちこちのエピソードでくすぐったい思いがします。この映画の話をするにも、ちょっぴりためらわれて、言葉を選んでいる自分に気がつきます。「途上国では、宗教、因習などもあって、男女の性に対する意識が、まだ閉鎖的で、後進性があり」などと一面的に捉えて偉そうに思っていましたが、気がつけばあまり自分も変わらない、むしろそうした切実な問題に気がついていなかったり、性の問題は苦手と知らん振りをしている自分たちの方がずっと遅れていると気づかされました。

 笑いの中に、ほろりとさせられるものがあります。エンターテイメントの映画として楽しませながら、今の自分たちの中にある問題を考えさせるところはさすがです。
 功成り、名を遂げたラクシュミが国連で演説します。その演説に、ラクシュミ自身の社会に対する意識が変わってきた成長が表れています。「偉大な男、強い男、国を強くしない。女性が強い、母が強い、だから世界は強くなる」「女性に2ヶ月、人生を増やす。ほんの少ししかお金稼いでも笑う人自分だけ。いいことすると大勢の女性が笑う」。女性を幸せにするということが、妻への愛情から大きく自分たちの社会を変革する、というところに拡がっています。
 朝日新聞のこの映画の映画評(2018年11月30日)の見出しは「インドからの新時代の主張」。なるほどこうありたい。私たちもラクシュミのように堂々と胸を張ってそう言えるような"時代"をつくりたい、とつくづく思いました。

【スタッフ】
監督:R・バールキ
脚本:スワナンド・キルキレ トゥインクル・カンナー
原作: スワナンド・キルキレ『ザ・レジェンド・オブ・ラクシュミ・プラサード(英語版)』
「The Sanitary Man of Sacred Land」
製作:トゥインクル・カンナー
音楽:アミット・トリヴェディ
撮影:P・C・スリーラム
編集:チャンダン・アロラ

【出演者】
アクシャイ・クマール(ラクシュミカント・チャウハン)
ソーナム・カプール(パリー・ワリア)
ラーディカー・アープテー(ガヤトリ・チャウハン)
ジョーティ・スバーシュ(ラクシュミの母)
リヴァ・バッバール(ティンクの母)
ウルミラ・マハンタ(サヴィトリ)
アビマニュ・サルカール(ガヤトリの兄)
スニール・シンハ(パリーの父)
アミターブ・バッチャン(本人役)カメオ出演
アミターブ・バッチャン(ナレーター)

製作会社:コロンビア映画/ホープ・プロダクション/クリアルジ・エンターテインメント/ミルス・ファニーボニーズ・ムービーズ
配給:ソニー・ピクチャーズ・リリーシングソニー・ピクチャーズ エンタテイント
2018年公開/インド映画(ヒンディー語)/140分
公式ホームページ:http://www.padman.jp/site/
予告編:https://www.youtube.com/watch?time_continue=2&v=sK0mP7n4518
上映劇場:TOHOシネマズシャンテ他全国公開中

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