毎年12月の1週間、渋谷のユーロスペースを会場に行われる日藝映画祭(現役日藝生による映画祭)は今年8回目だそうです。昨年はテーマが「映画と天皇」、今年は「朝鮮半島と私たち」キャッチコピーに「知らないだけではいられない」。
毎回そのテーマの設定とプログラムの作品の取り上げ方に、それらを探し当てて興奮しているであろう現役学生さんたちの姿を想像して初々しさを感じます。
自主上映会を行っている私たちとしては、こういう映画祭の機会にかなり過去の作品でも、映画として見ること、見せること、きっと自分たちでも上映会に使える作品があることがわかってうれしくなります。
現役学生さんたちと共にそうした映画を見る機会をどんどん拡げて行きたいと思います。
日芸映画祭2018『朝鮮半島と私たち』について
開催日:2018年12月8日(土)〜12月14日(日)
会 場:渋谷・ユーロスペース アクセス
主 催:日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コース3年映画ビジネスゼミ
ユーロスペース
今年で8回目となる日藝生企画・運営の映画祭。
私たちは、授業で見た『キューポラのある街』(1962)がきっかけで、初めて"帰国事業"という言葉やその歴史を知った。それは衝撃だった。学校で教わることもなく、また毎日の報道の中でも知ることのなかった朝鮮半島と日本の歴史が、驚くべき事実が、映画の中に、深く、強く、描かれていた。「知らなかった」では済まされない過去に、それまでの自分たちを恥じた。
今では、韓国は日本にとって地理的にも、文化的にも身近な国となった。お互いの国を多くの旅行客が行き来し、日本ではK-POPや韓流ドラマが流行する。しかしそんな今日においてなお、私たち学生が"朝鮮半島"というテーマに抱くイメージは曖昧なものだった。
「慰安婦」や「拉致」がアクチュアルな問題として世界では扱われているのに、私たちは隣国は疎か、自国のことすらよく知らない。これまで多くの映画人が、 朝鮮半島と日本の姿を果敢に映し出してきた。呉徳洙『戦後在日五〇年史[在日]歴史篇』(1997)は、激動の約半世紀における2国間の様相を提示する。日本統治下の朝鮮で製作された崔寅奎『授業料』(1940)や、清水宏による貴重なドキュメンタリー作品は、当時の町の様子や人々をありのままに活写する。
他にも、帰国事業の実態に迫った在日2世のヤン・ヨンヒによる『かぞくのくに』(2012)など、本映画祭ではできるだけ様々な切り口から、朝鮮半島と日本の姿を捉えた作品を取り上げる。
過去は捨てても、どこまでも追ってくる。
だからこそ本映画祭を通して、観客の方々と共に、朝鮮半島と日本の「他人事」になってしまった問題を、改めて「身近なもの」として考え直してみたい。この歴史の延長線上で、"私たち"は生きているのだから。(映画祭企画学生一同)
チケット等について
前売り券:1回券 800円(一般・学生ともに) 3回券 2100円(一般・学生ともに)
当日券:1回券 一般1200円 学生1000円 3回券 2700円(一般・学生ともに)
案内、ツイッター
■上映スケジュール(★:上映後トーク)
12月8日(土)
10:00 戦後在日五〇年史[在日]歴史篇 135分
★清水千恵子さん(本作編集)
13:00 伽?子(かやこ)のために 117分
★小粟康平監督
15:50 キューポラのある街 100分
★田島良一(日本大学藝術学部映画学科教授)
18:20 有りがたうさん[清水宏監督作品「京城」「ともだち」併映] 113分
上映前解説:古賀太(日本大学藝術学部映画学科教授)
12月9日(日)
10:00 沈黙−立ち上がる慰安婦 117分
★朴壽南監督予定
13:00 絞死刑 117分
★足立正生さん(映画監督)
15:50 授業料[記録映像「銃後の朝鮮」「朝鮮の愛國日」併映] 102分
★冨田美香さん(国立映画アーカイブ主任研究員)
18:30 空と風と星の詩人〜尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯〜 110分
★寺脇研さん(映画プロデューサー・映画評論家)
12月10日(月)
10:30 にあんちゃん 101分
12:50 GO 122分
15:30 キューポラのある街 100分
17:45 血と骨 144分
★崔洋一監督
12月11日(火)
10:30 KT 138分
13:20 授業料[記録映像「銃後の朝鮮」「朝鮮の愛國日」併映] 102分
15:30 戦後在日五〇年史[在日]歴史篇 135分
18:10 パッチギ! 117分
★羽原大介さん(脚本家)
12月12日(水)
10:30 空と風と星の詩人〜尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯〜 110分
13:00 パッチギ! 117分
15:30 にあんちゃん 101分
18:00 かぞくのくに 100分
12月13日(木)
10:00 血と骨 144分
13:00 沈黙−立ち上がる慰安婦 117分
15:30 伽?子(かやこ)のために 117分
18:00 KT 138分
★荒井晴彦さん(脚本家・監督)
12月14日(金)
10:30 絞死刑 117分
13:10 かぞくのくに 100分
15:30 有りがたうさん[清水博監督作品「京城」「ともだち」併映] 113分
18:10 GO 122分
★行定勲監督
■上映作品紹介
『有りがたうさん』
監督:清水宏/1936年/日本/35mm/76分/配給:松竹キネマ
川端康成の小説『有難う』の映画化作品。上原謙演じるバス運転手、通称「有りがたうさん」が伊豆で様々な事情を抱えた乗客を乗せる。娼婦や売られてゆく娘のほか、貧しい朝鮮人労働者がきちんと描かれ、胸に刺さる。弱者への優しさを見せる清水宏の秀作。また当時の日本映画界では珍しい全編ロケーション撮影が敢行されており、1930年代の日本の美しい原風景を収めている。日本統治下の朝鮮で撮影した清水宏の短編2作「京城」「ともだち」を併映。
『京城』
監督:清水宏/1940年/日本/35mm/24分/所蔵:国立映画アーカイブ
大都市「京城」(現ソウル)の生気あふれる1日を記録したアヴァンギャルドな一編。劇中の映画館の看板には『授業料』の文字が見え、崔寅奎との交流を思わせる。
『ともだち』
監督:清水宏/1940年/日本/35mm/13分/所蔵:国立映画アーカイブ
『京城』撮影と並行し製作された、日本人少年と朝鮮人少年の交流を描いた短編劇映画。豊かな自然と城跡の遺された原風景が伸び伸びと映し出される。現存フィルムは音声が失われているが、会場で脚本配布予定。
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『授業料』
監督:崔寅奎、方漢駿/1940年/朝鮮/DCP/83分/所蔵:韓国映像資料院
2014年、韓国が中国電影資料館から35mmプリントを入手し、デジタル復元した作品。「京日小学生新聞」で朝鮮総督賞を受賞した小学校4年生のウ・スヨンの作文を原作に、高麗映画協会が製作。父母の送金が途絶え祖母と貧しく暮らす禹栄達と日本人の田代先生の"授業料"を巡る交流を描く。日本語と韓国語が半々で使われており、作曲は清水宏作品にも参加している伊藤宣仁。日本統治下の朝鮮を撮影した短編2作「銃後の朝鮮」「朝鮮の愛國日」を併映。
『銃後の朝鮮』
朝鮮総督府/1937年/朝鮮/Blu-ray/8分/所蔵:韓国映像資料院
1930年代の日中戦争における日本の勝利を宣伝する映画。朝鮮総督府の全景、大日本帝国の国旗を振る人々、戦争支援のために募金、千人針運動をする当時の一般朝鮮人の姿が映っている。『朝鮮の愛國日』
朝鮮総督府/1940年/朝鮮/Blu-ray/11分/所蔵:韓国映像資料院
日本統治下の朝鮮で全国的な啓蒙を促すために製作された映画。玄関に旭日旗を掲げ、神社で参拝する朝鮮人の姿がしだいに日本化されていく朝鮮そのものを映し出す。『銃後の朝鮮』と共にロシアで発見された映像。
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『にあんちゃん』
監督:今村昌平/1959年/日本/35mm/101分/配給:日活
在日コリアン2世の安本末子が10歳で書いたベストセラー手記を、今村と池田一朗が脚色し映画化。鶴之鼻炭鉱で働く安本喜一ら四兄妹は、相次ぐ炭鉱事故と閉山により引き離される。貧しくても、彼らは懸命に生きていこうとしていた。在日コリアン労働者の実像を交えて移り行く時代に生きる兄妹の絆と愛を描いた、今村映画屈指の優しさに満ちた作品。
『キネマ旬報』ベストテン3位。
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『キューポラのある町』
監督:浦山桐郎/1962年/日本/35mm/100分/配給:日活
浦山桐郎の第1回作品にして吉永小百合の出世作。鋳物工場の煙突、通称"キューポラ"が立ち並ぶ埼玉県川口市。中学3年のジュンは、父親の失業により極貧生活を強いられながらも、パチンコ屋でアルバイトをして高校進学を目指す。高度経済成長期の庶民と共に、帰国事業で北朝鮮に渡る在日コリアンの姿も鮮明に映し出す。共演は日活純愛路線コンビの浜田光夫。
『キネマ旬報』ベストテン2位。
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『絞死刑』
監督:大島渚
1968年/日本/35mm/117分/配給:日本アート・シアター・ギルド
在日韓国人の死刑囚Rは、執行中に一命を取り止め心神喪失状態に陥る。困り果てた刑務官と検察官たちは、Rの犯した強姦の過程や在日コリアンとしての出生を芝居で再現し、死刑執行を確立させようと試みる。1958年に起きた小松川女子高生殺人事件を基に、日本における死刑存廃問題や在日コリアン問題を追求した大島渚渾身の社会派作品。
『キネマ旬報』ベストテン3位。
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『伽?子のために』
監督:小栗康平/1984年/日本/35mm/117分/配給:劇団ひまわり映画製作事務所
在日コリアンの林相俊は、夏の終わりに日本人の両親に捨てられた伽?子(かやこ)(南果歩)という高校生の少女と出会う。相俊は東京での苦しく貧しい生活を過ごす中、ふと伽?子のことを思い出していた。翌年、2人は再会し心を通わせていくが、結婚して共に生きるには互いに若すぎることを知る。在日差別や帰属意識の問題を通して2人の男女の真摯な心を描いた作品。
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『戦後在日五〇年史[在日]歴史篇』
監督:呉徳洙/1997年/日本/16mm/135分/配給:『戦後在日五〇年史[在日]』製作委員会
1945年の解放から50年、この半世紀を在日朝鮮人がいかに歩んできたのか……、そういう「在日の軌跡」を真正面から描いた作品である。北は青森、秋田から南は九州佐賀、福岡そして下関、広島、神戸、福井、長野、さらに遠くソウルでの「光復五〇周年祝賀式典」を追う一方、戦後史資料の宝庫といわれるアメリカ国立公文書館で貴重な資料を映しだす。また解放直後の在日朝鮮人に深く関わった元GHQ担当官たちの証言。戦後の冷戦構造、南北朝鮮の対立、と様々に翻弄されながらも祖国に想いをつのらせる在日朝鮮人たち。そして、在日朝鮮人運動と日本の偏見と差別……。前半は記録映像と様々なインタビューとで50年の歴史を追い、後半では一世、二世、三世と6人の在日朝鮮人にスポットをあてている。監督は呉徳洙、ナレーションは俳優の原田芳雄がつとめた。
日本映画ペンクラブノンシアトリカル部門第1位。
98年度キネマ旬報文化映画ベスト・テン第2位。
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『GO』
監督:行定勲/2001年/日本/35mm/123分/配給:東映
原作は直木賞作家の金城一紀の同名小説。「国境線なんか、俺が消してやるよ」がキャッチコピー。日本の高校に通う在日コリアンの杉原(窪塚洋介)は、朝鮮学校時代の友人と非行に明け暮れていた。ある日、杉原は日本人女性の桜井(柴咲コウ)に出会い、恋に落ちる。朝鮮半島と日本の狭間に揺らぎ、もがきながら生きようとする一人の青年の姿を軽快なタッチで描く。
『キネマ旬報』ベストテン1位。
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『KT』
監督:阪本順治2002年/日本・韓国/35mm/配給:ジェイ・シネカノン
1971年、大統領選挙に湧く韓国。僅差で迫った金大中は、朴正熙政権を脅かす存在であったが、朴大統領は非常戒厳令を発令し反対勢力への徹底弾圧を執行する。金は日米を拠点に民主化断行の為秘かに亡命するが、その最中、韓国中央情報部が来日中の金大中の暗殺を計画していた。1973年8月の日韓を揺るがした金大中事件を再現する。
『キネマ旬報』ベストテン3位。
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『血と骨』
監督:崔洋一/2004/日本/Ble-ray/144分/配給:松竹・ザナドゥ—
梁石日のベストセラー小説の映画化。戦後、一旗揚げることを夢見て済州島から大阪に渡ってきた金俊平は、蒲鉾製造業と高利貸しを起こして才覚を発揮。事業は成功を収めるが、気に入った女を孕ませて工員たちに鉄拳制裁を振るい、独裁的な支配権を行使する。
その憑かれた血の運命の末路は——鬼才・崔洋一がビートたけしを主演に暴く、もう一つの戦後史。
『キネマ旬報』ベストテン2位、日本映画監督賞、脚本賞、主演男優賞。
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『パッチギ!』
監督:井筒和幸/2005年/日本/35mm/117分/配給:ジェイ・シネカノン
1968年、京都。朝鮮高校に通う在日コリアンの若者は日本社会の片隅に埋もれまいと「パッチギ」(「頭突き」の意)をかまし、なり振り構わず荒れ果てた青春を叩き付ける。鬼才・井筒和幸が新人時代の塩谷瞬、高岡蒼佑、沢尻エリカらの存在感を引き出し、暗くなりがちな在日問題を痛快な娯楽大作に仕立て上げた。
『キネマ旬報』ベストテン1位。毎日映画コンクール日本映画大賞。
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『かぞくのくに』
監督:ヤン・ヨンヒ/2012年/日本/35mm/100分/配給:スターサンズ
帰国事業で「理想郷」北朝鮮へ渡ったソンホ(井浦新)は、25年ぶりに日本に暮らす妹リエ(安藤サクラ)ら家族の元に帰国する。だがそれは病気療養のため3か月間だけ許された帰国だった。"国"の監視員が常に目を光らせる中、ソンホの本当の心の内は…。在日コリアン2世のヤン・ヨンヒが自らの体験を元に描く「帰国事業」の真実。
『キネマ旬報』ベストテン1位、ベルリン国際映画祭C.I.C.A.E賞。
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『空と風と星の詩人〜尹東柱の生涯〜』
監督:イ・ジュニク/2016年/韓国/Ble-ray/110分/配給:スプリングハズカム
1917年、北間島に生まれた尹東柱(ユン・ドンジュ)と従兄弟の宋夢奎(ソン・モンギュ)はソウルの延禧専門学校を過ごした後、1943年日本の大学に進学。だが戦争の末期、宋夢奎は朝鮮独立運動を図った為に逮捕され、尹東柱も共犯の容疑で懲役二年の判決と尋問を受ける。27歳の若さでこの世を去った、韓国の国民的詩人・尹東柱の生涯を映画化した伝記ドラマ。
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『沈黙−立ち上がる慰安婦』
監督:朴壽南/2017年/日本・韓国合同製作/Ble-ray/117分/配給:アリランのうた製作委員会
大日本帝国軍の慰安婦であった女性たちを支援する「従軍慰安婦被害者の会」の闘いを描いた作品。韓国の伝統衣装チマ・チョゴリを着た彼女たちは、従軍慰安婦として受けた体験を伝えるために日本中を歩き、抗議と謝罪を呼びかける。屈辱の日々を語る彼女たちの証言は誠に痛ましく、同時に在日2世の監督の人生も浮かび上がらせていく。
『キネマ旬報』ベストテン文化映画部門6位。