外国人の日本での就業や生活保障を左右する入管法改正が政治問題になろうとしています。
そうした中でこの映画は、外国人が日本人として日本で生きていこうとすることがどういうことなのかを、同じ国の外国人スタッフが捉えた映画です。彼らと同じ世界で、日本に生きる私たち日本人自身に対して参政権、政治に参加する権利とは何かを問いかける映画です。
歌舞伎町の案内人として一躍有名になった李小牧。なぜ帰化してまで日本で政治家をめざすのか?もうひとつの視点で見たニッポン選挙ドキュメント!
中国から日本へやって来て初めて向かった先が新宿歌舞伎町。以後20年以上、外国人観光客 を相手に飲食店や風俗店の案内役を務め、著書も出すなどいまや"歌舞伎町案内人"として知られる存在となった李小牧(り・こまき)が、新宿区議選挙に出馬することを決意。ヤクザを後ろ盾に、刑事を友にして、変貌を続ける歌舞伎町地下社会を驚異的なしぶとさで生き抜いてきた彼が、これまでの地位や国籍を捨て、日中関係も揺れるなか、批判と罵声覚悟でなぜ日本で政治家をめざそうとするのか。
言葉や習慣の壁にも苦労し、終始ドタバタ気味で展開する李の選挙活動に、日本在住の中国人女性監督・?菲(ケイヒ)が密着。果たして李の思いは叶うのか。そして彼や監督自身が感じた「ニッポン」「民主主義」とは??(映画『選挙に出たい』案内チラシ解説より)
わたしは、国籍や民族や宗教や文化が違っても、仲良くやって行ければその方が良いと思うし、その方がお互い一緒になって豊かな社会をつくれると考える人間です。そのためにはお互いのもっているもの、考えていることに理解を深めることが何より必要と考えます。そうした意味でも、それぞれの国から来た人が、どのようにこの国のことを考え、どんな風に感じ、何を願っているのかが少しでも想像できるこのような映画は貴重です。
李さんが、「選挙に出たい」と考え始めてから、実際にそれを行動に移していく過程を映画は密着して順に追っていきます。
李さんは、選挙に出るために日本国籍を取る帰化申請をします。国を変えるということ、それがどのようなことか、わたしには正直実感をもって想像できません。
「やっぱり自分の生まれた国だもの…」オレは一体何をやっているのだろうとでもいいたげに李さんがつぶやくところがあります。饒舌で、明るく振る舞おうとする(実際、彼の性格は明るいのでしょうけど)ふっと漏らした言葉です。内心の寂しさ、やるせなさがにじみでます。それがどのような心情なのか。
なぜ国籍を変えてまでしないと、政治に参加することができないのだろうか、と考えるところから、憲法の「参政権」を考えました。そうしてあらためて在日朝鮮人を始めとする外国人の参政権を拒む政治的操作が、日本国憲法成立の過程にあったことに思い至りました。
憲法の成立過程において、GHQ案にあった「people」の訳語が日本政府案を作る過程で、「人」から「国民」に置き換えられました。そして日本国憲法が国民の前に出てきた時には、外国人に関する規定がどこにもなく、1947年の5月3日に日本国憲法が施行される前日に天皇の出した『外国人登録令』によって外国人とみなすという『みなす』規定になります。つまり日本国憲法ができ、日本国民が人権と平和を獲得した憲法ができる前日に在日外国人の人たちは憲法の言う基本的人権を剥奪されたことになります。
また選挙権について言えば、1945年の12月に、それまでの衆議院議員法が改正され女性の参政権が認められますが、その直前に『戸籍法の適用を受けざるものは参政権を有しない』という規定を作って、在日の人たちの選挙権を奪ったわけです。つまり憲法の及ぶ範囲が日本人に限定され、日本に生きていた外国人を参政権からはずす画策が行われたのです。憲法成立の過程で何がそうさせたのか、そこに侵略戦争の反省から新憲法によって世界から戦争をなくし、平和な世界を作ろうとする理想は、ひとつ偏狭なものになっていったと思います。
そしてこの李さんの参政権へのチャレンジは、そうした憲法で自分たちだけが良かれと思っていた日本人への問いかけでもあり、新しい社会をつくるためのチャレンジであるのだと思います。
試写会の後でのあいさつで、李さんは来年もう一度選挙に挑戦すると張り切っていました。彼らがまた、参政権に挑戦し、政治に参加することによって、日本の政治自体がまた変わっていく可能性があるのではないか、そう感じました。なぜなら彼らは仲間と一緒に生きていくために、ストレートに「政治」を選択したわけであって、自分たちの生活に迫ってきているもの、肌で感じているものを政治によって何とかしようとしているからです。彼らは本気です。
監督の?菲さんは、密着の取材によって、同じ外国人の境遇から、共にそれを何とかしようとしてこのドキュメンタリー映画をつくったのでしょう。それが強く画面に出ています。
【スタッフ】
監督・撮影・編集:邢菲(ケイヒ)
プロデューサー:海天(ハイ・テン)
映像技術:西村康弘
整音:富永憲一
音楽:アレッサンドロ・アポローニ
協力:テムジン
宣伝美術:鯰江光二
配給:きろくびと
2016年制作/中国・日本映画/78分
公式ホームページ:http://kiroku-bito.com/election/
上映情報:2018年12月1日、ポレポレ東中野にてロードショー他全国順次公開