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第47回<貧困と憲法>


昨年は、ますます進む格差社会とともに、国家によって生み出された貧困が大きな問題になりました。貧困から逃れるために若者が戦争を望んでいるのではないか、貧困から軍隊待望論者が増えないかと、憲法9条に関連づけて論じることもできます。しかし、憲法問題として捉えたときは、ワーキングプアなどの貧困から逃れる権利を憲法25条が保障しているのではないかという問題が中心となります。
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25条1項)という生存権規定は、国民には最低限度の生活を営む権利が人権として保障されていると宣言するだけの規定ではありません。そうした生活水準を達成するような施策を国に要求する権利である点に本質があります。これを社会権といいます。つまり25条は、市民生活の中に国家が介入してくることを求める権利なのです。
すると、25条を実現する場面においては、国は国民と敵対して批判の対象とされるのではなく、国民の保護者、国民を守る存在としてみえることがあります。そのために、「憲法で国を縛るなんて昔の考え方だ。国と国民は対立するものではなくて、手を携えて同じ方向へ進む仲間。だから国民にも国と一緒に歩む仲間として責任を果たしてもらう。」と改憲派の政治家に言われると納得してしまう人がいます。
確かに、25条などの社会権は、国に社会福祉を要求する権利であり、国の活動を制限して我々の自由を守るものではありません。そう考えると、国を憲法で縛るなんて考えるよりも、国を頼って生きた方がいいと思う人もいるかもしれません。
もともと憲法は市民の自由を守るために生まれました。18世紀後半の近代市民革命以後の西欧社会において、国家が国民生活に干渉しないように憲法で国家に歯止めをかけたのです。この憲法の本質は古今東西、変わりません。
そのおかげで自由主義経済が発展したのですが、この19世紀の資本主義の発達は様々な弊害と社会経済的弱者を生みました。そこで、国家に対し積極的に国民生活に介入を求める生存権などの人権(社会権)が生まれたのです。
あくまでも一人一人が自立するための支援を国に求めることができるだけであり、国に依存することを肯定するものではありません。25条は重要な権利ですが、これを強調することで、憲法の本質を歪めることがあってはならないのです。
しかも今、問題になっているワーキングプアなどの貧困は、個人の能力や個人的な意欲、自己責任に根ざすものではなく、国や企業によって作り出されたものです。大企業優遇税制や非正規雇用を推進するような労働法制を国が進めてきた結果、従業員の人間の尊厳よりも企業の利益を重視してきたために生まれたものであり、あくまでも、国家によって作り出された貧困です。つまり、国家に理不尽な政策をさせないように国家を憲法でコントロールすることで防げるものなのです。
同様のことは障害者問題にも当てはまります。従来、障害は個人的な不幸の問題であり個別に福祉によって救済するという発想でした。これは近代市民社会が健常な壮年期の納税可能な所得のある成年男子(平均的男子)を想定して作られており、これからはずれる疾病や障害、老齢、貧困、児童、女性という社会集団を社会の中心から排除しておいて、社会参加できないのは気の毒だから、個別に救済してあげようというものです。しかし、実は障害者などが社会参加しにくいのは、平均的男子を想定して社会の仕組みを作っていたからなのであって、そのような社会構造(バリア)自体を排除する権利を障害者は持っていると考えるべきなのです。
こうして社会権を、恩恵を受ける権利ではなく、理不尽な制度を忌避する人権としてとらえると、25条も、個別に貧困を救済する権利としてみるのではなく、そもそもそうした社会構造自体を排除する権利として位置づけることができます。
国に援助を要求するのではなく、まず、国の理不尽な政策をやめさせる。安易に国に求めるのではなく、自分たちが連帯して力をつけ、悪辣な企業に要求して、自らの権利回復をはかっていく。あくまでも自立した個人としてカをつけ主張していく権利が25条なのです。
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