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第46回<米軍再編と地方自治>


原子力発電所と在日米軍基地には共通点があります。どちらもその危険性から不安感がぬぐえず、誘致に反対する住民がいることです。そして協力する自治体に対しては交付金が国から支給され、反対するようであれば支払いをうち切られます。この交付金は立地負担の見返りとして支払ういわば「迷惑料」のようなものと考えられています。「アメとムチ」で受け入れを迫っているわけです。
在日米軍再編に伴う基地負担を受け入れた自治体には再編交付金が支払われることが決まりました。しかし、普天間飛行場の代替施設案に反対する沖縄県名護市や米陸軍司令部の改編計画に反対する神奈川県座間市、そして岩国飛行場への空母艦載機の移転受け入れに反対する山口県岩国市には交付されません。
岩国市はこれまでも米軍岩国基地の存在を認め、負担を受け入れてきました。それが今回の米軍の計画どおりに神奈川県厚木基地の空母艦載機が移転してくると米軍機がこれまでの約2倍になり沖縄の嘉手納基地と並ぶ極東最大級の米軍航空基地となります。あまりにも過大な負担を強いられることになる住民は、住民投票で明確に反対の意思を示しました。住民の意思を汲んで市長が反対の姿勢を貫いたところ、建設中の新市庁舎建設のための補助金35億円が一方的にカットされ、困難な状態に陥っています。
これでは、地方自治体は国の決めた政策をただ受け入れるだけの機関になってしまいます。憲法が保障した地方自治とは、住民の意思を無視してまでも、補助金や交付金によって国がコントロールできるようなものなのでしょうか。
明治憲法時代の地方自治は、知事が国から派遣されるなど強力な中央集権を基調としたものでした。戦時における国家統制強化の一環として、市長は内務大臣が任命するものとなり、町村長も府県知事の認可が必要でした。こうして地方自治は国の出先機関として、国の戦争遂行の一翼を担わされていたのです。憲法に地方自治に関する規定がなく、法律でどのように定めることもできたためでした。
これらの反省から、日本国憲法では、国が法律をもってしても侵すことのできない地方自治の核心的部分を制度として保障することにしました(憲法92条)。その核心的部分を地方自治の本旨といい、住民自治、団体自治という言葉で表されます。住民自治とは地方自治が住民の意思に基づいて行われるという民主主義的要素をいい、中央の議会制を補完する役割を果たします。住民の生活に関することは、あくまでもそこで生活する住民の意思に基づいて行われることが民主主義の基本だとして、多くの直接民主制的制度が取り入れられているのです。住民投票もその一つです。
他方、団体自治とは地方自治が国から独立した団体に委ねられ、団体自らの意思と責任の下でなされるという地方分権的要素をいいます。これは地方自治体が中央の権力に対する抑止力となり地域住民の人権を守るという自由主義的意味を持ちます。つまり、国の政治が暴走しそうなときに地方がそれに歯止めをかけて地域住民を守る役割を期待されているということです。そしてそのような力を持つためには、自治体が財政的にも独立し、国の言いなりにならなくてすむだけの基盤ができていなければなりません。
しかし、残念ながら、バブルの箱物政策に踊らされ、その崩壊以後も、小泉、安倍内閣と続いた地方切り捨て政策の結果、地方経済が疲弊し自治体の財政状況も悪化しています。そうした自治体の財政的な窮状につけ込んで、国が補助金や交付金によっていいようにコントロールするようなことがあっては、なんのための地方自治かわかりません。
確かに、必要だけれども自分の家の近くに来て欲しくないと思われる施設があったとするなら、それを受け入れてくれた自治体に対して、国民全体が税金の形で負担することは公平といえます。
しかし、そうした施設はあくまでも安全であり住民の生活に支障がないことが大前提です。米軍基地は軍用機による騒音被害以外にも、テロの標的になる危険や米兵による暴力事件、原子力空母の放射能漏れの危険などが指摘されています。十分な説明が尽くされて住民が納得していないにもかかわらず、米国の要請だからといって国が住民に一方的に負担を押しつけることは、地方自治の本旨に反し許されません。国は一人一人の国民の生活を守るために存在するのであって、決して米国の利益を守るためにあるのではありません。何のための米軍再編なのか、地方自治は何のためにあるのか、今一度考え直してみる必要があります。
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