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第44回<裁判員制度>


裁判員制度が始まろうとしています。皆さんも将来、裁判員に選ばれるかもしれません。裁判員制度とは、市民が裁判員として刑事裁判に参加し、裁判官といっしょに、被告人が有罪か無罪か(事実認定)、そして有罪ならば刑の種類と重さ(量刑)を決める制度です。市民が裁判に参加する制度としては、事件ごとに選ばれた市民が事実認定をする陪審制(アメリカ、イギリスなど)と、市民から選ばれた参審員が職業裁判官と議論しながら、事実認定と量刑も判定する参審制(フランス・ドイツなど)があります。
日本の裁判員制度は、陪審制と違って、裁判員が、事実認定だけでなく、量刑の判断も行います。また、裁判員が事件ごとに無作為に選任されます。日本でも、過去に陪審制で裁判が行われましたが、あまり利用されず、太平洋戦争中に停止され、現在に至っています。
多くの民主主義の国々は、市民が裁判に参加する制度を持っています。それは裁判に市民が参加することは、権力を監視し、民主主義を支える働きをするからです。立法権、行政権に市民が参加するだけでなく、司法権という国家権力にも市民が参加するのが民主主義の本来の姿だと考えるわけです。ですが、日本の裁判員制度にはさまざまな憲法上の問題があります。
憲法32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない」と定め、37条1項では被告人に「公平な裁判所」の裁判を受ける権利を保障しています。では被告人に裁判員の裁判を強制することはこれらに反しないのでしょうか。
裁判が公平で適正なものであるためには、裁判官が政治的な圧力を受けたり、間違った情報に左右されたりしないようにしなければなりません。憲法は、司法権の独立を保障し、裁判官は憲法及び法律にのみ拘束されるとします(76条3項)。職業裁判官は安易に国民の多数意見に流されず、証拠に基づいて裁判をする訓練を積んできていると言われますが、裁判員はどうでしょうか。この点のしっかりした保障がなければ、刑事裁判が「人民裁判」になってしまう危険があります。特に犯罪の被害者に幅広い訴訟活動が認められるようになると、素人である裁判員が感情的な被害者の様子に触れても冷静に証拠に基づいて裁判ができるか不安が残ります。裁判員は、客観的な証拠と被害者の主張とをしっかり区別しなければ、公平な裁判所の裁判を受ける権利(37条1項)のみならず、無罪推定の原則(憲法31条)にすら反してしまいます。
裁判員は、有権者から抽選を経て無作為に選ばれます。法律に定める場合以外は辞退できません。では思想・信条を理由として辞退できるでしょうか。憲法は思想良心の自由を保障し(19条)、18条では、「犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない」とします。苦役とは、その人の意思に反して強制される労役という意味です。自分の意思とは無関係に裁判員に選ばれ、考えたくもない殺人現場を想像することを強いられたりします。死刑か否かの判断をせざるを得ない状況に置かれるかもしれません。これらの強制は憲法18条に違反する疑いが強く、また、真摯な内心的理由から裁判員になることを拒んでいる人にそれを強制することは、思想良心の自由を侵害する可能性もあります。そもそも裁判員制度は、市民が自発的に裁判に参加することに意味があるのであり、いやいや参加するような市民による裁判では、被告人の裁判を受ける権利を侵害するともいえるでしょう。
裁判長は、裁判員の選任に際して、候補者に質問をしますが、ここで何を問うかによって、裁判の結果が全く変わってくる可能性があります。裁判長が候補者に「警察官の捜査等にどれだけ信用性をおいていますか」と質問し、候補者が、「あまり信用していません」と答えたことで、その候補者を排除するのでは、結局、裁判員は「警察を疑わない従順な市民」ばかりになってしまいます。
裁判員が適切な証拠に基づいて判断できるようにするためには、捜査段階の取調状況の可視化(ビデオ録画などによる検証可能性)を徹底させ、検察官が持っている証拠はすべて弁護側に開示させるなどの、誤判防止のための手当を十分しておかなければなりません。さもなければ、死刑が存置されている日本では、市民が権力による殺人に加担させられることになってしまいます。死刑制度、被害者参加、そして裁判員制度が重なったときの憲法上の問題をもっと真剣に考えるべきではないでしょうか。
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