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第42回<戦後レジームからの脱却>


 安倍首相は総理大臣に就任して以来、「戦後レジームからの脱却」が必要だとして改憲を主張してきました。今月はこの意味を考えてみましょう。まず、戦後レジーム(戦後体制)とはどういうことなのか、第二次世界大戦に負けて60年前に現在の憲法が施行される前後、つまり明治憲法下の戦前と戦後を比べながら明らかにしてみましょう。
 戦前は、1874年の台湾出兵に始まり、71年間もアジアに向かって軍事侵攻し戦争をし続けた国でした。戦後は新憲法の下で、「再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」た上で、9条2項によって戦力を持たず、一切の戦争を放棄しました。その結果、60年間直接的な戦争をしない国でい続けることができました。
 戦前は、国のために犠牲になることはすばらしいことだと教育するために、国家が教育内容を決めて介入してきた国でした。戦後は、教育基本法を作り、教育は不当な支配に服することがないようにし、教育行政も条件整備に限定しました(旧教育基本法10条)。
 戦前は、戦死という悲しい出来事を、国のために戦って死ぬことは名誉あるすばらしいことだと讃えるために靖国神社という仕組みを作り、宗教を戦争に利用した国でした。戦後は、政治は宗教に関わってはならないという政教分離原則を採用しました(20条3項)。
 戦前は、思想良心の自由は保障されず、君が代や日の丸を通じて、天皇崇拝や軍国主義思想が強制されました。表現の自由も法律によって自由に制限できる国でした。戦後はこれらの人権を憲法で保障し(19条、21条)、国会が作った法律でも不当に人権を侵害できない国になりました。
 戦前は、都道府県は政府の出先機関のような役割を果たすだけでしたが、戦後は、地方自治を憲法で保障し、政府が地方自治の本質を侵すことができないとしました(92条)。
 戦前は、障害者、女性、子どもを戦争に役立たないとして差別した国でしたが、戦後は、差別のない国をめざしてきました(14条)。
 戦前は、華族・財閥・大地主のいる一方で貧困に喘ぐ人々も大勢いた格差のある国でしたが、戦後は、貴族制度を禁止するとともに(14条2項)、財閥を解体したりする一方で、すべての国民の生存権を保障し(25条)、格差の是正をめざす国となりました。
 そして何よりも、戦前は、天皇が主権者であり、その国家のために個人が犠牲になることがすばらしいという価値観の国でしたが、戦後は、主権者は一人一人の国民となり(1条)、その個人の幸せに奉仕するために国家があるのだという個人を尊重する国になりました(13条)。
 国民は60年前に憲法を制定して、こうした戦前の旧体制に決別して新しい国になることを決意したのです。これが戦後レジーム(戦後体制)です。この新憲法下の戦後体制のもとで、国民は、一人一人を大切にする新しい時代の日本に生まれ変わろうと努力してきました。戦前のように教育に国家が介入したり、宗教を利用しようとしてきたら、憲法がそのような国家の行為を禁止し、これを止めてきました。政府が海外で軍事力を行使しようとするときに、憲法がそれをくい止めてきました。憲法は国家権力を縛って、私たちの権利・自由を守り、平和を守ってきたのです。
 この戦後レジームから脱却するということは、これらの価値を否定して、つまり、60年前に戻ることを意味します。
 安倍総理はまず教育基本法を改正して、教育の目的を「国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた国民の育成」(新教育基本法1条)としました。つまり国を支えるのに相応しい国民の育成を教育の目的とし、国家のための教育としました。その結果、国を愛する態度が教育の目標として掲げられ(2条)、靖国神社を参拝して宗教との関係を復活させようとします。また、有事立法の下では地方分権も名ばかりです。女性蔑視発言をする閣僚を抱え、女性差別をなくすための民法改正に消極的です。医療制度改悪、障害者自立支援法という名の弱者切り捨てを強行し、アメリカ流の極端な自由競争の結果、所得格差、教育格差、情報格差が広がっています。そして何よりも、個人よりも国家の価値を大切にすることを国民に押しつけようとしています。これが戦後レジームからの脱却の意味であり、その集大成が「戦争ができる国」にするための憲法改正です。
 ですが、戦後の日本が歩んできたこの憲法の体制を維持し発展させるか、それとも大きく変えて昔に戻すかを決定するのは、あくまでも主権者たる国民であることを忘れてはなりません。
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