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第36回<違法でなければそれでいいのか>


私たちのまわりには数多くの法律があります。当然、それらを守らなければなりません。しかし法律に違反しなければそれでいいというわけではありません。法律にはそれぞれが出来た理由(立法趣旨)がありますから、その理由に照らして許されるかどうかを考えることも重要です。
最近、コンプライアンス(法令遵守)という言葉をよく聞きます。法律に従っていればいいように聞こえますが、民間企業ではそうはいきません。たとえば食品会社が賞味期限切れの材料を使ってケーキを作っていた場合、たとえそれ自体が何かの法律に違反して処罰されるわけではなくても大問題となりますし、テレビ局が健康番組を作成する際にねつ造したデータを使えば、そのこと自体は犯罪にならなくても、国民やマスコミはとても敏感に反応します。
結局、製品を流通できなくなったり、番組がうち切られたりするなど、その企業は重い社会的制裁を受けます。法令遵守は最低限の要請にすぎず、企業はそれ以上の社会的責任を果たすことが求められているのです。
公務員の仕事はどうでしょうか。官制談合などの明確な法令違反は言語道断ですが、それ以外にも、たとえば何人かの政治家が無料の議員会館を事務所として使っておきながら数千万円を事務所経費として報告していたことが発覚しました。ある閣僚は「法律には違反していない」と強調していました。法律上は確かに領収書がいらない経費として計上できるのですが、いかにもおかしな話です。政治資金規正法は、政治活動の公明と公正を確保するために、政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるように政治資金の収支の公開を求めています(一条)。この法律の目的からすると、しっかりと国民に説明をしなければ、社会的責任、政治的責任を果たしたことにはなりません。
では、警察官や検察官、裁判官といった司法手続きに関わる公務員はどうでしょうか。ある人が実刑判決を受けて服役したあとに真犯人が現れて、実は無実だったことがわかったという報道がありました。足跡や電話記録といった客観的証拠を無視し、自白に頼ってしまったことが原因のようです。こうしたえん罪事件が起こると警察は「再発防止に努めたい」というのですが、誰も責任を取りまぜん。
周防正行監督の『それでもボクはやってない』という痴漢えん罪をテーマにした映画や、『お父さんはやってない』(矢田部孝司+あつ子著、太田出版)という本には事実が克明に記録されていて、日本の刑事手続きの実態や捜査機関の思いこみの恐ろしさがよくわかります。
民間企業であれば、不祥事が起こったときに、たとえ法律違反でなかったとしてもマスコミが大きく報道し責任を追及します。企業も原因を究明して再発防止策を発表します。これはコンプライアンスの基本です。ですが、なぜか司法手続きのミスについては原因究明や再発防止のための制度改革が議論されることはありません。そもそも、えん罪事件についての公の調査が行われたこともないのです。
司法手続きにおけるミスは最大の人権侵害を招きます。企業の不祥事によって人命が失われることがありますが、死刑がある日本では、司法判断のミスは国家による殺人につながります。企業の不祥事以上に、その原因究明と再発防止を追及しなければならないはずです。なのに、国家の過ちにはなぜこうも甘いのでしょうか。
先月、戦時中の大規模な言論弾圧事件である「横浜事件」で治安維持法違反罪による有罪が確定した元被告の方々(故人)に対する再審の控訴審判決が出ました。一審では無罪の判決を出さずに免訴という訴訟打ち切り判決をしたのですが、これに対しては控訴することはできないという極めて形式的な判断でした。
この事件は、警察による拷問や、司法が不当な判決に加担したあげくに裁判記録まで焼却してしまったという司法の汚点が問題となっています。裁判所はそれを自ら明らかにして反省し、国民の信頼を得るチャンスであったのに、その機会を自ら潰してしまいました。無実の者を救済するという再審制度の趣旨に反しているだけでなく、国民の司法に対する信頼にあまりに無頓着な態度は許せません。
このように見てくると、最も国民の要請に応えなければならない国家権力が、まったく国民の要請に応えていないことがわかります。単に違法ではないというだけでは、その責任を果たしているとはいえないはずです。企業の責任を厳しく追及することも必要ですが、それ以上に国家権力を追及する姿勢や視点を持つことが民主主義の基本であることを忘れてはなりません。
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