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第35回<住基ネットはなぜ危険なのか>


誰がどこに住んでいるのかなどを行政が把握するために住民基本台帳が整備されています。この台帳に記載される項目のうち、氏名・住所・生年月日・性別とその変更情報、そして住民票コードと呼ばれる11桁の番号がコンピュータで管理されるシステムが2003年8月から稼動しています。これを住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)といいます。これらの個人情報が地方自治情報センターというところに保存され、全国の自治体や行政機関がこの情報を利用できるので、個人のプライバシー権が侵害されるのではないかという点が問題になっています。
この住基ネットに関して、2006年11月30日に大阪高裁で違憲判決が出ました。高等裁判所レベルでの初めての違憲判決です。しかし、その直後の12月11日には、名古屋高裁金沢支部で合憲判決が出ました。これは2005年円5月30日に金沢地裁で出た違憲判決を覆したものです。このように裁判所でも判断が分かれていますが、今回はこの問題を考えてみたいと思います。
まず、住民の情報プライバシー権が憲法上の人権として保障されることは、どの判例も認めています。プライバシー権を明記した条文は憲法にありませんが、個人の尊重や幸福追求権を保障した憲法13条によって憲法上も保障されていると考えられています。しかもその内容も、単に私生活を公開されない権利としてではなく、自己に関する情報をコントロールする権利として保障されています。
今日のIT社会においては、コンピュータのネットワーク上で、個人情報を瞬時に複製、伝達できてしまいますから、一度漏えいすると短期間で情報が拡散してしまいます。そして、拡散した情報が他者によって悪用されれば私生活の平穏が脅かされます。そこで、こうした状況下で私生活の平穏を守るには、個人情報を自らコントロールする権利を人権として保障する必要があるのです。
住基ネットで管理される個人情報も、個人の犯罪歴や病歴などの情報とは違って単に個人を識別するための情報にすぎないので、それほど秘密にする必要性は高くないと考える人もいるかもしれません。しかし、秘密にする必要性は人によってさまざまなはずです。そして住民票コードという番号の羅列にすぎない情報でも、これをもとにデータベースが作られたときには、さまざまな情報を検索し名寄せするためのマスターキーとして重要な意味を持ちます。こうした個人情報は、憲法上保障されるプライバシー権の重要な内容となるのです。
もちろん、プライバシー権であっても公共の福祉のために制限を受けることはあります。個人情報が不当に利用されないようにセキュリティが十分であり、正当な目的のための必要最小限の制限であれば許されると考えられます。
しかし住基ネットはシステムの悪用を防ぐセキュリティが十分だとはいえません。個人情報を利用する国の事務が270種を超えて拡大し続けており、行政機関が持っている膨大な個人情報がデータマッチングされ、住民票コードをマスターキーのように使って名寄せされる危険性が飛躍的に高まっています。住基ネットの強制を違憲とする判例も、目的外利用は法律で禁止されているものの罰則が定められておらず、中立的な第三者の監視システムもないことなどから、その実効性は疑わしいと指摘しています。
これが行政によってひとたび悪用されれば、住民票コードを利用して、住民個々人の多面的な情報が瞬時に集められ、比喩的にいえば、住民個々人が行政機関の前で丸裸にされてしまう恐れがあります。公立病院で受信した病歴や公立図書館で借りた本、納税額などありとあらゆる情報が瞬時に見られてしまいます。
個人情報がすべて政府に把握されてしまうということは、国家と個人が支配・従属の関係になることを意味します。国家が国民を支配し管理するための手段としてこれほど有効なものはないのです。個人の尊重(憲法13条)という憲法の基本理念の下では、あくまでも個人のための国家であり、けっして国家のための個人ではないはずです。
住基ネットはプライバシー権侵害という人権の問題ですが、それを越えて、国家と個人の関係を変えてしまう危険を持っていることを忘れてはなりません。この住基ネットや教育基本法の改悪、共謀罪など、国家が国民を管理し支配する仕組みが着々と整いつつあります。その先にあるものが何なのかをしっかりと見極め、そうした流れに取り込まれないように日々、自立した個人として生きる努力を怠ってはなりません。
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